乱気流の仕組みと、その予測が難しくなっている理由とは
気候変動は、航空機が遭遇する乱気流に影響を与えています。 Image: Unsplash/Etienne Jong
- 専門家によると、気候変動が天候パターンに影響を与えることにより、フライト中の揺れが増えています。
- 世界経済フォーラムのホワイトペーパーは、航空業界における自動化の進展と新技術の導入がもたらす利点と課題について考察しています。
- 乱気流と、予測困難な晴天乱気流について知っておきたい情報をまとめました。
「少なくとも30人が負傷し、多くの乗客が宙に舞い上がり、乗客の一人は天井にはまり込んだようです」。
これは、スペインからウルグアイに向かう便の乗客が激しい乱気流に見舞われ、ブラジルに緊急着陸したニュースの抜粋です。
航空会社によると、 飛行機は正常に着陸し、負傷した乗客は地元の病院に運ばれて治療を受けました。2024年5月には、ロンドン発シンガポール行きの便が激しい乱気流に遭遇し、数十人が負傷、1人が死亡するなど、似たような状況がニュースになっています。
専門家によると、 空の旅は依然として最も安全な交通手段であり、 航空業界は安全性を高め続けていると報告しています。
同時に、旅行者が揺れの多いフライトを経験する可能性は高まっており、気候変動がその原因であると専門家は指摘しています。
乱気流とは
乱気流とは、航空機の飛行に影響を与える不規則な空気の動きを指します。乱気流は風速と風向きの変化により発生し、一般的には山、ジェット気流、嵐などの要因によって引き起こされます。
航空会社は多くの場合、 乱気流が発生する地域を予測し、その周辺を航行することができ、 乗務員は乱気流が発生した際に乗客に起こりうる危険を管理する訓練を受けています。
飛行機への影響は、軽度から中程度の乱気流による小さな揺れから、一瞬コントロールを失うほどの激しい揺れ、さらには、極端な乱気流では構造的な損傷を受けることもあるなど、さまざまです。
航空業界には、乱気流に関連する損害、遅延、負傷に対して年間数億ドルにのぼる支払いが生じています。
乱気流は乗客にとって不安なものですが、アメリカ連邦航空局によると、大型機においては、乱気流による重傷者や死亡者はまれです。2009年から2023年までの間に、乱気流が原因で重傷を負った乗客は37人、乗員は146人でした。その間に年間の民間航空機の発着回数は増加し、Statista(スタティスタ)のデータによると、2009年の2,600万回から現在では約4,000万回に達していることが明らかになっています。
乱気流の種類
乱気流にはいくつかの形態があり、それぞれに明確な特徴と原因があります。乱気流の種類によって、パイロットや乗客に生じる問題はさまざまです。
- 対流乱気流または熱乱気流は、上昇する暖かい気柱と下降する冷たい気柱を引き起こす、地表の不均等な加熱により発生。
- 機械的乱気流は、建物や不規則な地形などの地上の障害物と空気との摩擦により発生。
- 山岳波乱気流は、気流が山脈によって乱され、風下に渦が起こることにより発生。
- 前線乱気流は、前線での暖気と寒気の相互作用により発生。
- 航跡(こうせき)乱気流は、航空機の翼端渦により発生。
- 雷雨に関連した乱気流は、目に見える嵐雲をはるかに超えて広がることがある。
乱気流にはもう一つ、晴天乱気流(CAT)があり、局地的に風速や風向が急速に変わる気象現象であるウィンドシアと関連しています。これは、高高度かつ一見晴れ渡ったように見える空で起こり、多くの場合、ジェット気流中に動きが速い空気とはるかに遅い空気が近くにあるときに発生します。目やセンサー、衛星からは、ほとんど見えません。
2023年、米国テキサス州からドイツに向かうフライトにおいて、機内で乗客や乗務員が動き回る機内食のサービス中に、晴天乱気流により突然1,000フィート(約305メートル)降下する事態が起こりました。これにより、7人が軽傷を負い、病院に運ばれています。2024年5月にロンドン・シンガポール便に影響を与えた乱気流も、この一種であった可能性があると考えられています。
パイロットによる乱気流への対処法
飛行中、パイロットは、乱気流を検知し対処するためにさまざまな戦略や技術を駆使しています。飛行前の天候ブリーフィング、機内の気象レーダーシステム、他の航空機からのリアルタイムのパイロットレポート(PIREP)を頼りに、乱気流の状況を予測するのです。乱気流が予想される場合、パイロットはよりスムーズな気流を求めて高度やルートを調整することがあり、航空管制官に変更を要求します。
最新の航空機には、対流性乱気流を検知できる高性能の気象レーダーが装備されており、パイロットは荒天を回避して航行することができます。IATA(国際航空運送協会)のTurbulence Aware(タービュランス・アウェア)ネットワークのような高度なシステムは、リアルタイムの乱気流データを提供し、パイロットが十分な情報に基づいた判断を下す能力を高めます。レーダーでは検知できない晴天乱気流に関して、予報や他の航空機からの報告、そしてパイロット自身の経験が頼りです。
飛行中、パイロットは常に気象状況を監視し、管制官と連絡を取り合い、訓練と経験を積み重ねます。乱気流に遭遇した場合、パイロットはシートベルト着用サインを作動させて乗客を安心させるアナウンスを流し、不快感を最小限に抑えるために航空機の速度を落とすなどの対処を行います。
乱気流が頻繁に発生し、予測が難しくなっている理由
科学者によると、気温の上昇はジェット気流のウィンドシアを強めるため、気候変動により、晴天乱気流のレベルと頻度が増加しています。1979年から2020年の間に、世界で最も頻繁な飛行ルートのひとつである米国・北大西洋上空において、激しい晴天乱気流の発生頻度は55%増加。さらに、中程度と軽度の乱気流も増加しています。
専門家の予測によると、2050年までに、パイロットは激しい晴天乱気流を少なくともこれまでの二倍経験するようになります。しかし、このような激しい乱気流はまれであり、大気中の数十分の一パーセントでしか発生しないことに注意すべきでしょう。
乱気流予測の将来
航空業界は、排出量に直接寄与しているため、地球温暖化を削減する努力と並行して、乱気流予測の改善を行うこと重要であると専門家は強調しています。
ネイチャー誌は、航空業界が乱気流の予測モデルと戦略を開発するために、3つの分野における行動を推奨しています。
1. 地球大気のコンピューターシミュレーションを使用し、乱気流とそれが気候変動にどのような影響を受けるかをより深く理解する
2. ライダー(晴天乱気流を検出できるレーザーを使ったレーダー)などの乱気流を検出・予測する技術を小型化し、費用対効果を高める開発
3. 人工知能(AI)を用いて、膨大な乱気流のデータセットでアルゴリズムを訓練し、予測モデルを最適化する。これにより、微妙な変化や複雑なパターンを発見し、予測の精度を高めることができる
世界経済フォーラムのホワイトペーパー「 Advanced Air Mobility: Shaping the Future of Aviation(高度な航空機動性:航空の未来を形作る)」では、より高度な自動化と新たな技術的進歩を航空業界に導入することの利点と課題を探求しています。