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気候に強い未来に向けた、ビジネスにおけるマインドセットの改革

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気候適応戦略を採用しない選択は、企業にとって損失となります。 Image: Getty Images/iStockphoto

Matthew Blake
Head of Centre for Financial and Monetary Systems; Executive Committee Member, World Economic Forum
Eric White
Head, Systems Adaptation, World Economic Forum

この寄稿文は、Fast Companyに掲載されたものです。

  • 企業や政府は、気候リスクが顕在化してから対応するという消極的な対応に終始しており、コストのかかる混乱を招いています。
  • 気候レジリエンス対策の実施には、2:1 から 15:1 の利益対コスト比があることが証明されていますが、多くの企業はこうした戦略を統合できていません。
  • 中小企業は、適応のための高いコストに直面し、信頼できる気候データが不足しているため、効果的な財務計画が妨げられています。積極的な戦略の幅広い採用を促進するためには、明確な規制とインセンティブが必要です。

世界の多くの地域において、今年も記録的な高温と異常気象を経験する一年となり、気候変動の影響はもはや遠くにある脅威ではありません。嵐はすぐそこまで迫っており、これによる課題はますます強大になり、逃れる安全な港はどこにもありません。高まるリスクに対処し、気候に対してリジリエンスの高い未来を構築するため、ビジネスリーダーは、受動的マインドセットから積極的なマインドセットへの急激な転換が必要です。

多くの企業および各国政府のリーダーたちは、気候に関連するリスクが現実のものとなってから対応し、洪水、異常な高温、山火事、大型の嵐によるコストのかかる破壊に直面します。これらは、サプライチェーンを停滞させ、農作物を台無しにし、建物などの物理的資産に損害を与え、その修復には莫大な費用がかかります。

世界最大級の保険会社であるスイス・リーは、異常気象による世界経済への悪影響は、世界全体で年間2000億ドルに上ると推定しています。同社の分析によると、米国だけでも年間900億ドル以上の損失を被っており、依然として世界で最も異常気象による被害を受けやすい経済圏の一つになっています。こうした厳しい経済状況も、悲劇性においては、気候変動に起因する人的損失の増加の比ではありません。

気候変動が人々や企業、社会に多大なコストを強いているという証拠が次々と明らかになっているにもかかわらず、国連の推定によると、適応資金の不足額は年間1,940億ドルから3,660億ドルに上ります。この現実が、特に企業、金融機関、各国政府といった重要なステークホルダーグループの緊急性の欠如を浮き彫りにしており、開発途上国と先進国の経済の両方に壊滅的な影響を及ぼす可能性があります。

さらに、新しい研究は、水の効率的利用を促進するテクノロジーや環境再生型農業などの気候変動へのレジリエンス強化策を実施した場合、企業にとっての費用対効果は一般に2:1から15:1の範囲になることを明らかにしています。一方、気候変動への適応戦略を体系的に計画し、事業運営に組み込んでいる企業はあまりにも少ないのが現状です。その結果、建築資材、食料品、保険など、様々な商品の価格上昇につながる可能性がある、深刻な事業の混乱が危ぶまれています。

課題とチャンス

気候変動への適応戦略の普及が遅れている理由は何でしょうか。まず、特に中小企業にとっては、適応策の実施には費用がかかります。例えば、耐熱断熱材によるオフィスビルの改装、および洪水を防ぐ設備の追加を考えてみてください。物的資産やインフラの整備には多額の費用がかかり、大企業でない限り、法外な出費となる可能性があります。さらに、これらの費用のほかに、温室効果ガス排出量を削減することを目的とした気候変動の緩和策に関する支出も必要なのです。

また、企業が気候リスクのもたらす結果を正確かつ効果的にモデル化しようとしても、データと分析能力が限られているために、費用対効果およびその他の財務計算の明確化が困難です。こうした課題は、先進国、開発途上国を問わず様々な割合で共有されており、企業が遵守すべき明確な規制やインセンティブがなければ、マニラからマイアミ、アディスアベバまであらゆる国のビジネスリーダーたちは緊急の対応を先延ばしにするでしょう。

しかし、異常気象の頻発という状況下において、適応を支持するビジネスロジックはますます明らかです。つまり、気候変動に対するレジリエンスの高い組織ほど、事業運営やバリューチェーンへの衝撃に耐える能力が高いということです。

世界経済フォーラムの自然と気候部門による100の主要企業を対象とした調査は、気候変動のもたらす物理的リスクによる財務上の影響は、年間売上のおよそ10%、市場価値の4%に相当することを明らかにしました。効果的な適応戦略を実施すれば、その打撃を大幅に和らげることができるのです。

気候関連のリスクが高まるにつれ、新しい製品やサービスに対するニーズが高まり、業務効率を向上して革新をもたらすビジネスチャンスが生まれます。同分析によると、適応策を追求した企業においては、生産能力の向上による収益増加とコスト削減が実現しています。

ガバナンスの観点から、先進企業は、気候変動の緩和策と適応策の両方の目標を包含する気候リスクへの配慮を、取締役会レベルで行う戦略的議論の中核に位置づけるべきです。 気候変動がもたらす集団的課題を踏まえると、先進企業が地域および各国政府と積極的に関わり、適応策に向けた資本と投資を解放する政策とインセンティブを策定する機会を捉えることも重要です。

グローバルな

戦略的な適応策は、将来の損失を回避し、収益機会を生み出し、決意のある行動をとる人々のコスト削減につながります。

そのため、世界中で適応戦略の実施例が増えています。例えば、アナリティクスを提供するテクノロジー企業、ワン・コンサーンは、日本と米国のデジタルツインを開発し、両国に存在するすべてのインフラのデータを収集しました。 この膨大なデータセットが、事象や災害による特定の資産および相互につながるシステムに与える影響を予測し、気候適応におけるリジリエンスの高いインフラの役割を強調するのです。

各国政府の多くも対策を講じています。インド農業省は、農業従事者向けに保険商品を提供する「農業・農村の安全保障、技術、保険のためのサンドボックス(Sandbox for Agricultural and Rural Security, Technology and Insurance、SARATHI)」を開始しました。この取り組みの目的は、農家の補償範囲における格差を縮小し、気候リスクに対する農家のレジリエンスを下支えすることです。

もう一つの例として、インドのグジャラート州西部の都市アーメダバードでは、当局が熱中症対策計画を策定し、住民に猛暑の予報を知らせるとともに、医療従事者には熱中症の治療に関する教育資料を提供し、冷房センターを設置しました。グジャラート州全体では、主要な病院に熱中症病棟が設けられ、建物の屋根を白く塗るかタイルを張って太陽光を反射することで、屋内の冷却に役立っています。

このような先駆的な取り組みを、もっと世界に広く頻繁に知らせていく必要があるでしょう。世界経済フォーラムの気候変動適応イニシアチブは、適応策を経済の推進力として再定義し、パブリックセクターと企業の両方でリスクに対するアカウンタビリティを強化することを目的として、国境を越えた知識の共有、イノベーション、導入を促進するための主要戦略の社会化を目指しています。

成功させるためには、ビジネスリーダーたちが、適応策とコスト上昇の間に存在すると考えられてきたつながりを見直す必要があります。効果的な公共政策のインセンティブを活用し、気候災害の回避による長期的なコスト削減を視野に入れることにより、気候変動適応戦略の積極的な統合を支える経済的利益を十分に実現することができるはずです。

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