高齢化の進む地域のレジリエンスを高める、廃校の再利用とは
廃校の再利用は、高齢化が進む日本の地域の活性化に貢献します。 Image: Unsplash/Yusheng Deng
- 廃校を再利用することにより、人や企業が集まり、高齢化が進む地域社会が活性化します。
- パブリックセクターと企業は過去20年間で、数千校の廃校を活気あるコミュニティの資産へと再利用してきました。
- 廃校の再利用は、レジリエンスを育み、社会的拠点を維持し、地域経済を活性化します。
使われなくなった学校施設を文化センター、研究スペース、コミュニティ・ハブなどの施設に変えることにより、その重要性を維持し、新しい住民を呼び込み、高齢化や過疎化が進む地域の地域経済を活性化させることができます。
高齢化は、グローバルに大きな課題となっており、地域社会に様々な影響を及ぼしています。高齢化とともに少子化が進む日本では、生徒の減少による学校の閉鎖もしくは統合により、年間約450棟の校舎が使われなくなっています。
日本の学校の校舎は、地域の子どもたちが学ぶための場を提供するだけでなく、地域の集まりや祭り、遊び場としても活用されています。また、自然災害が起きた時には、避難所として利用されることも多く、災害時に必要となる物資などの配布拠点としても重要です。学校がその役割を終えて校舎が取り壊されると、地域の大切な場も失われてしまうのです。過疎・高齢化により地域のレジリエンスが低下する中、こうした場が失われると、地域の活力をさらに奪いかねません。
2021年には、99%以上の公立小中学校の校舎が震度6強以上の大地震に備えて耐震化されており、学校校舎は頑丈であるとされています。さらに、数百人規模の子どもたちを収容できる校舎の広さを考慮すると、企業や団体にとっても、事業や活動の場として新たに建物を建設するよりも、既存の校舎を活用する方が、コストを抑えることが可能となり、また環境負荷も低くなることは明らかです。
政府による廃校再利用の促進
こうした背景から、日本では、官民が連携して、廃校となった校舎を取り壊さずに別の用途で再利用する動きが加速しています。
文部科学省が発行している「廃校活用事例集」によると、2002年から2020年までの間に全国で現存している廃校施設は7,398棟。その中で活用されていたのは5,481棟です。活用用途で最も多いのが学校(大学を除く)となっており、半数以上の3,948棟を占めています。さらに、社会体育・社会教育・社会文化施設が続き、企業などの施設や福祉・医療施設、体験交流施設などにも活用されていることがわかります。
同省では、廃校の再利用をさらに増やすことを目的として、「みんなの校舎」プロジェクトを立ち上げました。同取り組みは、全国の廃校において、新たな用途を募集している施設の情報を集約し、発信することにより、事業活動などの場を探している企業や団体とのマッチングを促進しています。東京の会場とオンラインで開催された「廃校活用推進イベント」には、全国の11自治体から58の廃校施設が参加し、物件を探す企業などに対して施設の紹介や説明が行われました。
地域に新たな人や事業を呼び込む活用例
こうした政府主導型の取り組みが実を結び、前述の事例集には、実際に廃校の活用に至った58の事例が紹介されています。
例えば、福井県の若狭町にある廃校は、地元にある福井工業大学を指定管理者として、漁村体験施設に生まれ変わりました。この漁村では、地域の人々が、訪れる人に地元の漁や文化を紹介し、交流が生まれることにより、地域の活性化につながっています。また、訪れる人々がこの地域について深く知ることにより、漁業後継者や定住者が増えることも期待されています。さらに、提携する大学にとっても、新たな研究フィールドを得ることができ、こうした分野に興味のある学生の獲得に結びつけることができます。
さらに、酒造やAI研究施設、企業のサテライトオフィスなど、新たな事業の誘致に成功したケースもあり、外から人や資金を呼び込み、新たな雇用を創出するなど、過疎・高齢化する地域の活性化にもつながっています。
政府や自治体ではなく、企業が主導して行う廃校の活用例も増えてきています。製造小売業社である無印良品は、地域活性化の取り組みの一環として、廃校の再利用も行っています。同社は、「遊休不動産を活用し、地域に根差したくらしの拠点を作り、『暮らしの楽しさと地域の共存』を実現する施設」として、2024年10月、千葉県夷隅郡大多喜町に「MUJI BASE」をオープンしました。廃校となった旧老川小学校をリノベーションしたMUJI BASE OTAKIは、宿泊施設に、地域の人々も活用できるコワーキングスペースやショップ、図書館が併設されており、交流を通じて地域の活性化を目指し、今後ワークショップやイベントなども開催予定であるとしています。
地域の拠点を残し、リジリエンスを強化する
古い校舎の再利用は、地域の重要な拠点としての機能を維持しつつ、高齢化が進む地域に新たな機会をもたらします。世界経済フォーラムの「長寿経済の原則:財政的に強靭な未来のための基盤(Longevity Economy Principles: The Foundation for a Financially Resilient Future)」では、高齢化社会においてレジリエンスを高めるためには、社会的なつながりや目的を重視し、それに合ったシステムや環境を作ることが重要であると述べています。使われなくなった校舎の再利用は、環境負荷の軽減に加え、他の地域から新たに人や事業を呼び込むことにより、地域に雇用や活力を生み出し、過疎・高齢化の進むコミュニティのレジリエンスを高めることができるのです。