若者への投資が、未来を切り開く理由とは
企業は、若者の失業という課題に取り組むための訓練、支援、雇用プログラムの開発を主導することができます。 Image: iStockphoto/Cecilie_Arcurs
- 安定した適正な仕事は、より良い未来を育み、雇用の安定に対する不安を軽減し、ジェンダー平等を促進。さらに、インクルージョンと平和に貢献します。
- これは、2030年までに世界人口の5分の1を占めることになる若年層にとって、特に重要です。2008年の世界金融危機の後、若者の失業という課題において主要な取り組みを主導したのは企業であり、今後も、若者の訓練や機会を支援する上で重要な役割を果たすことができます。
- 新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)による景気減速の後、若年層のグローバルな労働市場に対する見通しは改善し続けているものの、企業が世界の若年層のために適正な仕事の機会を創出し続けることが重要です。
国際労働機関(ILO)によると、16歳から24歳までの若年層のグローバルな失業率は現在13%であり、過去15年間で最低を記録しています。この失業率の低下は2025年まで続くと予想されており、楽観的な見方を取ることができるでしょう。
一方、世界中で一様に回復しているわけではありません。東アジア、東南アジア、太平洋地域、アラブ諸国および北アフリカなどの地域においては、若者の失業率が引き続き危機的な高水準にあるだけでなく、上昇しています。
この問題には、引き続き注力していかなければなりません。2030年までに、15歳から24歳の若者が世界人口の20%を占めるようになります。彼らが、より良い未来を育み、雇用の安定に対する不安を軽減し、ジェンダー平等を促進し、インクルージョンと平和に貢献する適正な仕事に確実に就けるようにするためには、協調的かつ膨大な取り組みが必要なのです。
若者の就く適正な仕事の確保
ILOによれば、現在、世界の若者の20%が雇用、教育、訓練に従事しておらず、若い女性がその3分の2を占めています。このままでは、若者の雇用対人口比のジェンダー・パリティ(ジェンダー公正)が達成されるのは来世紀以降になるかもしれません。
また、全体として適正かつ安定した雇用を得ることが依然として困難であることも分かっています。多くの若年労働者は社会的保護を受けられずに、臨時雇用の仕事から抜け出せなくなることが多く、自立した大人として成長する力を発揮できなくなっています。さらに、高所得国では4人に3人が正規の職に就いているのに対し、低所得国では、安定した正規職に就く若い労働者はわずか4人に1人です。
若者のより良い未来を確保するためには、適正な仕事が不可欠であり、年長者は仕事を通じた成長の機会を創出しなければなりません。それでは、どうすればそれを達成できるのでしょうか。
ILOによれば、若者の教育水準は上がっているものの、多くの経済圏では、増加する高等教育修了者の数に見合うだけの高技能職の創出が難しくなっています。また、特に高所得国では、高等教育に対する仕事の質が顕著に低下しています。
この場合、若者を対象とした能動的な労働市場プログラムが有効でしょう。また、技能訓練、起業家精神、ソフトスキルに重点を置いた介入も、若者にとっての成果を高めることができます。さらに、企業主導のプログラムや介入を行うことにより、現在、そして将来世代の若者の経済的見通しを改善できることが分かっています。
若者の失業に立ち向かう企業
10年前、欧州では2008年の金融危機からの回復が遅れていました。15~24歳の若者の失業率は2014年半ばで23%。そこで、ネスレは2013年、「Nestlé needs YOUth」プログラムを通じて、1万人の若者および1万人の30歳未満の研修生または実習生を雇用することを約束しました。2013年末までに、同社は約1万2,000人の若者の就職および実習の機会を支援しています。
同社は同時に、他の企業の協力を得て、欧州における若年層の失業問題に取り組みつつ優秀な人材を惹きつけ、確保するための「アライアンス・フォー・ユース(Alliance for YOUth)」を立ち上げました。これにより、2014年末までに、欧州全域の200社が、政策立案者や教育セクターと協力して、若者に10万以上の機会を創出することを約束したのです。
これは、若者に専門職の世界に足を踏み入れる準備を促し、厳しい市場での就職の可能性を高める初の汎欧州的な企業の動きとなりました。同アライアンスは学校や大学と「デュアル・ラーニング」制度を設立し、正規の教育と実習やOJTを組み合わせることにより、スキルと仕事のマッチングを支援しました。
2019年、同アライアンスはスイスのダボスで開催された世界経済フォーラム年次総会において「グローバル・アライアンス・フォー・ユース(Global Alliance for YOUth)」を立ち上げ、世界的な活動を開始。若者たちに初めての職業体験を提供するとともに、ハードスキルとソフトスキルを高め、世界中の若い起業家を支援することを約束しました。
その1年後、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが起こり、雇用率に劇的な影響を与えました。ILOによると、2020年に成人の雇用が3.7%減少したのに対し、若者の雇用は8.7%も減少。低所得国ではその影響はさらに深刻でした。この間、ロックダウンが学習や仕事に与えた著しい混乱は、若者のウェルビーイング(幸福)の悪化をもたらしました。
この危機的状況の中、2020年10月、ネスレとグローバル・アライアンス・フォー・ユースは、欧州委員会雇用・社会権担当委員とのオンラインイベントを開催。欧州、中東、北アフリカ全域で30万人の新規採用、見習い・研修生採用を発表しました。
また2020年にネスレ・チリは、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けた若者の社会的・経済的統合への取り組みに焦点を当てた、初のバーチャル・パシフィック・アライアンス・ユースサミットを開催。さらに2021年、ネスレは、企業メンバーやパートナーからのスピーカーを招いたウェビナーを通じて、青少年のレジリエンス(強靭性)の構築とメンタルヘルスの改善に引き続き注力しました。
ウェルビーイングと繁栄に向けて
同アライアンスはその後、ハイテク企業のHCLテックやマイクロソフト、広告・広報会社のピュブリシスと提携してハッカソン「コード・フォー・ユース(Code4YOUth)」を創設しました。参加者はバーチャル空間で集まり、人々がインターネットやデジタル機器をさらに利用しやすくするためのソリューションに取り組みます。さらに今年、グローバル・アライアンス・フォー・ユースは、コンサルタント会社のアクセンチュアおよびグローバル・シェイパーズ・コミュニティ(世界経済フォーラムが主催する30歳未満の若者のネットワーク)と提携し、ウェルビーイングと繁栄を高める画期的なアイデアを加速させるためにイノベーションに対する賞を創設しました。
同アライアンスの25の企業メンバーは、これまでに世界中の18歳から30歳までの若者を対象に、4,000万人以上の専門能力開発の機会を提供してきました。世界の若者にとって労働市場の見通しは改善されているとはいえ、私たちは引き続き、若年層が適正な仕事を得ることができる道を作っていかなければなりません。