自治体と連携した「スキマバイト」が、地方の地域社会維持に貢献する理由とは
日本の地方社会において、スキマバイト用のマッチング・サービスを利用するケースが増えています。 Image: Unsplash/Pema G. Lama
- 日本では、個人のスケジュールや家庭の事情に合わせて柔軟な雇用を求める人が増えています。
- 都市部の利用者が企業によるプラットフォームを活用しているのとは対照的に、地方では、自治体が企業と協力し、地域に根ざした求人マッチングサービスを構築しています。
- 自治体と民間企業の連携は、求人情報の信頼性や、デジタルに不慣れな求職者への個別対応といった利点をもたらします。
多様な働き方が求められる中、日本では、自分の予定に合わせて働きたいという人が増えています。総務省の調査によると、非正規の雇用形態を選択する理由として、「自分の都合の良い時間に働きたい」が32.8%となり、一番多いことが明らかになりました。また、「育児・介護と両立しやすいから」を選んだ人が10.9%おり、子育てとの両立および高齢化社会による影響も見られます。
さらに、日本では労働力不足の状態が続いており、2024年上半期における人手不足による倒産件数は前年同期比7割増であったと報じられています。
こうした状況の中、都市部を中心に増えているのが、短時間、単発で柔軟に働くことができる「スキマバイト」です。学生、主婦、シニア層に加え、副業を探す会社員など、短時間の仕事を探す人と短時間人手が必要な業者とをマッチングするプラットフォームなどが普及し、2020年ごろから利用者が増加しています。
こうしたマッチングサービスを提供する大手のタイミーをはじめ、シェアフル、LINEスキマニなど、現在、複数のプラットフォームが存在し、登録人数は約2,500万人。2024年3月には、国内最大のフリーマーケットアプリを運営するメルカリが、秋からは人材派遣大手のリクルートも参入を予定するなど、新たな市場として急成長しています。
自治体が主導する地域密着型のスキマバイトマッチングサービス
地方の人手不足は、一層深刻です。特に、観光および農業のように、季節や時間帯によって労働力の需要が変わる業界において、十分な人手の確保は常に課題となっています。
企業によるマッチングサービスシステムがそのまま活用されている都市部と違い、地方では自治体と企業が共同で地域密着型のマッチングサービスプラットフォームを展開するケースが増えています。
その一例が、日本海側最大の島である佐渡島です。佐渡島は、少子高齢化などにより、観光シーズンに集中的に人手が必要な飲食店、人手の需要が天候に左右される農業、日々の受注数によって必要な人手が変わる地元企業などへの人手確保を課題として抱えていました。
そこで、佐渡市役所は新潟に本社を置くマッチボックステクノロジーズの協力を得て解説したのが、佐渡島限定のスキマバイト・マッチングアプリ「さどマッチボックス」です。開設にあたり、市役所と同社は、島内の企業および店舗を訪問し、登録方法や仕組みを説明するとともに、利用者にも広く知ってもらえるよう、宣伝を行いました。「さどマッチボックス」は、労務処理や人材管理の大部分を自動化して採用を効率化し、雇い手の手間を省きます。さらに、雇い手と働き手が直接雇用契約を結ぶため、安心して雇い、働くことができる仕組みとなっています。
こうした取り組みにより、人口約5万人の佐渡島において、2023年6月のサービス開始から1年3カ月で127の事業所が求人を掲載し、登録人数は1,700人以上。2024年8月までに708件のマッチングが成立しました。
自治体と民間プロバイダーが協力する利点とは
人手確保における、佐渡市役所とマッチボックス社のような官民パートナーシップには多くの利点があります。
その一つは、掲載される仕事の信頼性の担保です。都市部におけるスキマバイトのマッチングサービスには、募集内容に記述されていた仕事内容と実際の内容のミスマッチ、初心者には不適切な仕事の募集、労働者の権利が守られないことがあるなどの問題が指摘されています。自治体がこうしたサービスの主導を握ることにより、掲載する仕事を精査し、安心して応募できるプラットフォームを提供することができます。
また、「地方にある自治体は、住民と行政の距離が近く、民間企業では難しい、パソコンやスマートフォンが苦手な高齢者に対してもきめ細かい指導やサービスが期待できます」といった指摘もあります。
さらに、佐渡島内の求人に限定されているため、地元住民にとって使いやすいことに加え、求人をデジタル化したことにより、島内における人手の需要と供給に関するデータを蓄積し、具体的な支援策などに役立てることもできます。
スキマバイトがつなげる地域コミュニティ
こうしたマッチングサービスの利用により、短期雇用の需要供給を超えた成果も報告されています。
実際に「さどマッチボックス」を利用している宿泊・飲食業の経営者は、同サービスを通して10名近くが定期的に働きにくるようになったと語っています。スキマバイトは、数時間、単発で気軽に働けるため、職場体験の機会にもなり、何度か働いた後に雇い手と働き手の双方が合意し、正規雇用に至ったケースもあります。
また、応募者の中には、新しく移住してきた若い世代もおり、スキマバイトへの応募を通じて交流が生まれ、地域コミュニティの結びつきにも貢献しています。
安心して雇い、働ける環境づくりには官民連携が不可欠
自治体と民間企業が協力して人手不足の解消に取り組むケースは、特に地方で増えています。マッチボックス社は同じ新潟県内の南魚沼郡湯沢町および新潟市との連携も行っており、大手タイミーは十勝市と連携して農業の人手解消に取り組みはじめました。
企業が得意とする幅広い層へのリーチと、自治体によるきめ細かい対応を組み合わせることにより、安心して雇い、働けるシステムを構築することが可能になります。人手確保における官民連携は、今後さらに全国に広がるでしょう。