海洋の生物多様性を救うことができるテクノロジーとは
海洋生物多様性だけでなく、海そのものが転換期を迎えています。 Image: Getty Images
- 東部熱帯太平洋海洋回廊(CMAR)は、ラテンアメリカ4カ国が海洋保護区を守るために設立しました。
- 一方、海洋生物多様性の保護を誓約することと、海洋全体の監視と規則の施行によりそれを確実なものにすることの間には違いがあります。
- 国連生物多様性会議2024がコロンビアで開催されるにあたり、公海を保護するためのデジタル革命をCMARがどのように主導しているかを紹介します。
中南米沿岸の太平洋は、地球上で最も生物多様性が豊かかつ密集している海域です。ここは、クジラ、サメ、イルカ、ウミガメから色鮮やかなサンゴ、遠洋魚の群れ、小さな植物プランクトンまで、さまざまな海洋生物にとって、安全な生息地となっています。
海洋生物が非常に豊かであるため、2004年、コロンビア、コスタリカ、エクアドル、パナマの政府は、それぞれ固有の海洋保護区(MPA)を結びつけ、その間の回遊経路を保護するため、CMARとして知られる「東部熱帯太平洋海洋回廊(Eastern Tropical Pacific Marine Corridor)」を設立する宣言に署名しました。
海洋の未来がますます脅かされている今、CMARの設立は、決して小さな成果ではありません。実際、気候変動、汚染、違法・無報告・無規制(IUU)漁業が劇的に絡み合う今日、地球の海は、未だに未知の領域にあるのです。
国連によれば、状況は深刻です。海が地球の70%を覆う一方、大型魚の個体数の90%が枯渇し、サンゴ礁の50%が破壊されています。海洋の生物多様性、そして海そのものが転換点を迎えているのです。
転換点といっても、戻ることのできない地点からは、ほど遠いと言えるでしょう。この20年間、CMARは規模を倍増させ、当初5つだった海洋保護区を10にまで拡大しました。保護区は、ココス島やガラパゴス諸島のような有名な生物多様性のホットスポットを含み、現在では約200万km2に及ぶ海洋を網羅しています。
これはCMARとその設立国であるラテンアメリカ4カ国にとって大きな成功であり、世界の海洋保護が正しい方向へ進むための重要な一歩です。実際、大規模な海洋保護区を設定し、野生生物が保護区内を移動できるようにすることは、保護区内だけでなく近隣の漁業にも多大な利益をもたらすと、多くの専門家による研究が示しています。
また、十分に保護された海洋保護区は、気候変動の影響に対して他の地域よりもレジリエンスが高く、その恩恵は保護区の境界を越えても及ぶという研究結果もあります。
これらの保護措置は、2022年12月に生物多様性条約に加盟する196カ国が合意した、2030年までに海洋の少なくとも30%を保護する世界目標である「30 by 30」を達成するために、極めて重要です。
同時に、海洋の生物多様性を保護するCMARの活動は、海洋保護にとっての勝利であるだけでなく、持続可能な海洋ガバナンスの実現におけるデジタル・イノベーションの役割を明確に示すものでもあります。
なぜなら、海洋生物多様性の保護措置を誓約することと、広大な外洋の監視と規則の施行によりそれを確実なものにすることの間には、違いがあるからです。
海洋保護活動におけるモニタリングの重要性
幸いなことに、CMARには、この2つを両立させるための適切な保全ツールが揃っています。2022年以来、CMARは、海洋におけるあらゆる人間活動のマッピング「に取り組む国際的な非営利団体であるGlobal Fishing Watch(グローバル・フィッシング・ウォッチ)と提携し、最先端のテクノロジーとデータを通じて、海洋保護区を効果的に管理・監視する能力を強化しています。
グローバル・フィッシング・ウォッチのMarine Manager (マリン・マネージャー)ツールは、衛星画像、機械学習、データ収集と解釈における専門家の知識を活用しています。CMARは、このツールを活用することで、商業漁業、海上輸送、観光活動をこれまでより細部まで把握し、管轄内の海洋保護区に影響を与える重要な環境・海洋データに関する洞察を得ているのです。
このデータには、衛星通信船の動き、海面水温、水深、酸素濃度、塩分濃度など、人間と生物、海洋活動に関する30もの情報が含まれています。これらはすべて、貴重な海洋資源の健全性と安全性を監視するCMARの取り組みにとって非常に重要です。
実際、マリン・マネージャーというプラットフォームは、CMARの保護活動をサポートする貴重なツールであることが証明されています。2022年にグローバル・フィッシング・ウォッチと海洋擁護者であるドナ・ベルタレッリ氏が立ち上げたマリン・マネージャーは、保護区の効果的な設計、管理、監視をサポート。同時に、特に新しい管理措置の実施後、主要データが経時的にどのように変化するかを示します。
また、データ分析も可能であるため、CMARの管理者は、潜在的に脆弱な海域を即座に把握することができます。加えて、グローバル・フィッシング・ウォッチの他のツールと組み合わせ、脅威となる活動および不審な活動の背後にいる人物を明らかにすることもできるのです。
CMARの功績を称える一方、結果が伴わなければ喜んでもいられません。だからこそ、コスタリカ当局が今年初め、ココス島国立公園における違法漁業活動の減少を発表し、当局の監視と取締りにおいて、グローバル・フィッシング・ウォッチとカナダの Dark Vessel Detection (暗黒船検知)プログラムによる支援を評価したことが、持続可能性の課題を推進する上で、テクノロジーが果たす役割における大きな分岐点となりました。
成功はそのインパクトにより図ることができると言われますが、CMARのインパクトは強固かつ明らかであり、デジタル主導によるものでした。
海と海洋生物多様性にとって重要な時期
今日の国際社会は、海洋生物多様性、海洋保護、ガバナンスの面で重大な岐路に立たされています。国連生物多様性会議2024のために、各国首脳がコロンビアのカリで会合する中、地球における環境のウェルビーイング(幸福)の未来が再び脚光を浴びています。
私たちがどのように前進するかが、海洋環境、そして食料、生活、地域社会などを海洋環境に依存する何十億もの人々の未来に甚大な影響を与えるのです。
これまで以上に明らかなのは、マリン・マネージャーのようなデジタルプラットフォームが、人類の環境と持続可能性の目標を達成するために、ますます重要になっているということです。
また、「30 by 30」の目標達成に向けて、各国政府は、海洋生物多様性を保護し、海洋保全を確保するというコミットメントを明確にするだけでなく、そのコミットメントに基づいて行動するために、技術的ツールを活用するという政治的意志を示さなければなりません。
CMARのようなイニシアチブは、このようなデジタル技術を活用する道を切り開こうとしています。今こそ、他の国々もそれに続く時なのです。