分散型太陽光発電は、新興国を変革できるか
分散型太陽光発電は、商品からテクノロジーへと変貌を遂げ、より安価で利用しやすくなりつつあります。 Image: Getty Images/iStockphoto
- 分散型太陽光発電およびその他のグリーンテクノロジーは、エネルギーを商品からテクノロジーへと変貌させ、パキスタンなどの新興国におけるエネルギーの自立を可能にしています。
- 手頃な価格で入手できる太陽エネルギーが経済成長を促進し、ビジネスの拡大と雇用機会の増加を後押しします。
- 太陽光発電はエネルギーの自立性を高め、中央集権的体制への政治的な依存を減らし、ガバナンスを向上させ、二酸化炭素排出量の削減に貢献します。
パキスタンのラホールで、照りつける太陽の下、工場の機械の音が途切れることなく響いています。わずか1年前であれば、頻繁に起こる停電により生産は停止していたでしょう。しかし今日、屋根に設置されたソーラーパネル群により、すべてが稼働し続けています。この光景は、パキスタンの至る所で起こっている何千もの光景のひとつであり、新興国の成長の原動力となる電力供給のあり方に、静かながらも強力な変化をもたらしています。
太陽光発電設備を扱うエクスポネンシャル・ビュー社は、分散型太陽光発電を将来の重要な要素と位置づけ、より安価で利用しやすい電力を提供しています。当社の調査によると、このような草の根レベルの変革は、経済的な機会を再定義し、開発途上国に住む何百万人もの人々にエネルギーの自立をもたらし、その未来を再形成する可能性を秘めています。
安価かつ公平な電力
太陽光発電は、化石燃料のような商品としてのエネルギーをテクノロジーへと変え、2つの重要な利点をもたらします。第一に、太陽光発電テクノロジーによるエネルギー効率の向上に伴い、そのコストは低下し続けています。2010年から2023年の間、太陽光発電によるエネルギー生産量が倍増するたびに価格は33.4%ずつ低下。これに対して、化石燃料の価格はグローバル市場と政治によって左右されます。
第二に、ソーラーパネルによって局所的な電力生成が可能になり、地域によるエネルギー管理がしやすくなります。高価かつ不安定な送電網と他地域の資源に依存する化石燃料と違い、太陽光発電は、個人によるエネルギーの自立を可能にするのです。
バッテリーが安価になるにつれ、この自立性は拡大し、発電はますます分散型へと移行するでしょう。新興国がこの変革を主導しており、パキスタンは今、その最も顕著な例のひとつです。
パキスタンの太陽光発電ブーム
パキスタンは現在、世界第3位の中国製ソーラーパネルの輸入国であり、2024年上半期だけで13ギガワット分に相当する驚異的な量を輸入しています。比較として、英国では今年、1.5~2ギガワット(GW)の太陽光発電容量の追加が見込まれており、米国では2023年に32GWが追加されました。これにより、パキスタンは2024年で世界第6位のソーラーパネル設置国になる可能性が高く、現地におけるその効果はさらに大きいものです。
パキスタンは、2023年の総電力容量46GWの30%に相当する量のソーラーパネルを、わずか6カ月間で輸入しました。
ただし、パキスタンの電力規制庁(NEPRA)が追跡しているのは、送電網に接続された設備、または正式に登録された設備のみです。地理空間データでは、工場、住宅、さらには政府の建物にまでソーラーパネルの設置が拡大していることが示されており、エネルギー生産における革命が、表立って注目されることなく進行中であることを示しています。
パキスタンのソーラー革命における推進要因
太陽光発電の急速な普及を促している主な要因は2つあります。それは、パキスタンにおける既存送電網の信頼性が低く高額であること、そして豊富な太陽エネルギーが安価に利用できることです。太陽エネルギーは不安定な環境下において力を発揮します。パキスタンでは2021年以降、電気料金が155%上昇。また、送電網の過負荷による電力供給制限のために頻繁な停電が発生し、産業と消費者の双方に悪影響を及ぼしています。
首都イスラマバードでは、送電網による電力に1キロワット時(kWh)あたり29.11パキスタン・ルピー(PKR)(0.10ドル)から48.00 PKR(0.17ドル)の費用がかかりますが、ソーラーパネルで生成した電力は1kWhあたりおよそ22~30 PKR(0.08~0.11ドル)で供給されています。この価格差は、中国製ソーラーパネル価格が1年で60%も下落したため、さらに拡大しています。
コストが安く信頼性も高い太陽光発電は広く受け入れられつつあり、バッテリーの価格が下がるにつれて、より分散型のエネルギーシステムが普及すると考えられています。パキスタンの企業の75%以上が電力不足を事業運営上の障害と考えており、太陽光発電量の急増は消費者と企業にとって大きなメリットをもたらすのです。
新興国に対するグローバルな影響
パキスタンは、新興圏が急速に代替分散型エネルギーシステムを形成しつつあるという証拠となります。これは他の新興国にとって、どのような意味を持つのでしょうか。
パキスタンの事例は、エネルギーが商品からテクノロジーへと移行するにつれ、エネルギーの自給自足が可能になっていくことを示しています。もはや政府に頼る必要はなく、エネルギーを自分たちで確保することができるため、この移行は地域と起業家にはメリットをもたらします。また、中国製のソーラーパネルに少額(設置型太陽光発電所の半額以下)の投資をすることで、個人でも化石燃料産出国からの石油やガスへの依存から脱却することができます。
パキスタンの電力部門における二酸化炭素排出量は、石炭、石油、ガスによる発電が減っているために、過去2年間で減少しています。このプロセスは、太陽光に大きな潜在能力のある新興市場全体に広がる可能性があります。
この変化が新興国に与える影響として、次の3点が挙げられます。
- 手頃な価格のエネルギー:パキスタンにおいて、太陽光発電にはすでにコスト競争力があります。テクノロジーの進歩に伴い、送電網からの電力に比べてさらに安価になるでしょう。課題は、初期費用を賄うための公平な金融システムの構築です。
- 公平性の向上:エネルギーへのアクセスは繁栄を促進し、太陽光発電はそれをすべての人にとってより現実的なものにします。多くの国々で固定電話から携帯電話に切り替わったように、各国は高額な送電網の拡張を回避し、太陽光発電を採用しつつあります。エネルギーのひっ迫が起きにくくなれば、企業はより早く成長し、より多く投資し、より多くの人々を雇用することができます。この大きな変化は太陽光発電にとどまらず、送電網から完全に切り離すにために不可欠なバッテリーにも及ぶでしょう。
- 制度の構築:太陽光発電は、国家インフラへの依存度を低減し、企業の自立的な成長を可能にします。このエネルギーの自立性により、透明性と制度の改革が推進され、より優れたガバナンスが育まれる可能性があります。
パキスタンのソーラー革命は、太陽光発電によって新興国がインフラの限界を克服し、地域社会がエネルギーの未来を自らコントロールできるようになることを示しています。また、先進国と開発途上国との間にあるエネルギー転換実績の格差を解消して、公平性がもたらされます。
各国政府は、ネットメータリングなどの政策や初期費用を処理するための金融ツールを通じて、この転換を支援し、エネルギーへの普遍的なアクセスと貧困削減への道を開くことができます。