地球観測と気候インテリジェンスを変革する、新テクノロジートレンド10選
新たなテクノロジーが地球観測能力を高め、より優れた気候インテリジェンスを生み出します。 Image: Getty Images/ipopba
Minoo Rathnasabapathy
Research Engineer & Program Lead, MIT Media Lab, Massachusetts Institute of Technology (MIT)- 衛星を利用して地球を観測すると、複雑かつ膨大な量のデータが生成されます。このデータを整理し、分析して、気候インテリジェンスを高めることができます。
- データの処理と予測における最近の進歩により、地球観測の生データはかつてないスピードで実行可能な洞察へと変換されています。
- 10の新しいテクノロジートレンドを衛星データと組み合わせて用いることにより、気候に関する洞察がより利用しやすくなり、気候変動への対応に役立ちます。
気候に関連した災害の頻度が高まる中、実用的な気候インテリジェンスに対するニーズがかつてないほどに高まっています。地球観測のテクノロジーは、相互に作用し合う地球のシステムと急速に変化する環境について重要な洞察を提供します。
2032年までに、衛星による地球観測は累積で2エクサバイト(20億ギガバイト)を超えるデータを生成すると予想されています。その膨大な量と複雑性により、これまではこうしたデータを実用的な気候変動対策に転換することが困難でした。
膨大なデータから運用上の意思決定プロセスに容易に統合可能な洞察を生み出すには、高度な処理と分析が必要です。地球観測データをさらに有用な気候および気象情報に変えるには、効率的かつ効果的なデータ処理と分析が欠かせません。
地球観測データは今、人工衛星、AI(人工知能)およびその他の相乗効果を生むテクノロジーの進歩によって、かつてないほど利用しやすく、影響力を増しています。世界経済フォーラムとMITメディアラボが発表した新しいレポート「地球観測の未来図:気候インテリジェンスのためのテクノロジー・イノベーション(Charting the Future of Earth Observation:Technology Innovation for Climate Intelligence)」は、前例のないこの気候状況に関する洞察をもたらす、10の主要な地球観測テクノロジーのトレンドを検証しています。
1. 人工衛星の高度なセンサー技術
衛星地球観測センサーの最近の進歩により、地球全域に対するカバー率、解像度、精度が向上し、観測可能な測定範囲が広がっています。
「スーパー・スペクトラル」画像を撮影することができる衛星は、より詳細で洗練されたデータを収集することができ、現在のマルチスペクトラル画像の2~3倍の時間的、空間的、そしてスペクトルにおける解像度を実現しています。こうしたスペクトル解像度の向上により、植物の健康状態における違いの検知、山火事の燃焼深刻度の把握などが可能になり、より正確な水管理および災害後の復興活動に役立てることができます。
2. AI、機械学習、ディープラーニング
高度なAIおよび機械学習(ML)アルゴリズムが、地球観測データの処理と分析を加速しています。例えば、既存のデータで訓練したMLベースのモデルは、従来の気候モデルより最大1,000倍速く推定値を生成。これにより、洪水マップなどの気象予測モデルの生成にかかる時間を最大80%削減することが可能です。
また、ハリケーンおよび洪水などの気候関連の事象が発生してから数時間、あるいは数分以内に、詳細な被災状況評価を行うこともできるようになります。従来のモデルおよび現地調査においては数週間を要する作業でした。地球観測データと組み合わせたAIモデルの計算効率によって実現される、前例のないスピードと精度は、タイムリーな意思決定に不可欠です。
3. 衛星エッジコンピューティング
衛星エッジコンピューティングとは、軌道上にある衛星において地球観測データを直接処理する方式です。これにより、データ収集から実行可能な洞察を得るまでの時間を短縮することができます。この技術により、待ち時間が短縮されるとともに、データダウンロードの必要性が低減されるため、災害が発生した際に、より迅速に緊急対応者へ重要な情報を送信することが可能になります。
4. 地球観測センサーの小型化
小型センサーの開発や、製造コストおよび打ち上げコストの削減により、これまでより多くの国が独自の地球観測衛星を製造し、打ち上げることが可能になりました。これにより、一般に利用可能な地球観測データが増加します。
また、マイクロエレクトロニクスと半導体テクノロジーの進歩によって、より小さなチップに高い処理能力が統合されるようになりました。これにより、重く、大量のエネルギーを必要とする機器に頼ることなく、センサーハードウェア自体におけるデータ分析が可能になりました。
5. より大型かつ高性能な衛星
小型化と並行して、現在、より大型かつ高性能なセンサーと強化されたデータ伝送能力を備えた衛星の開発も進んでいます。大型のプラットフォームは信頼性が高く、これまでより多くの機能を提供し、より大きく複雑な機器を搭載することができるでしょう。
6. MLベースの気候モデル
従来の地球システムモデルは、複雑な数値シミュレーションを用いて気候力学を理解し、将来の気候シナリオを予測することに役立てられてきました。こうしたモデルは多大な計算機能力を必要とすることが多く、1世紀分の気候変動をシミュレーションするには最大10メガワット時のエネルギーを消費します。これは、1年間に一世帯が使用する電力とほぼ同じ量です。
これに対して、物理法則を組み込んだMLを統合した気候モデルは、ペタバイト規模の膨大なデータセットを処理し、正確かつ迅速な気象および気候予測を行う能力を備えています。こうしたMLベースのモデルは、特に地域に特化した研究に有効であり、計算コストを大幅に削減しながら高解像度の予測を提供。最大100倍のエネルギー効率向上が研究により示されています。
7. 地理空間AI基盤モデル
地理空間AI基盤モデルは、大量の衛星地球観測データから高度なパターンを検出します。多くの異なるデータセットにより、自己教師あり学習した地理空間AIモデルは、幅広い用途に使用でき、世界的なパターンの正確なモデル作成に極めて有効です。
8. デジタルツイン
デジタルツインとは、気候、海洋、生態系などの地球システムをダイナミックにデジタル複製したものです。デジタルツインによって、地球システムの複雑な現象をよりよく理解、予測し、調査することができます。
また、デジタルツインを活用し、異なる気候関連戦略の潜在的な影響を視覚化、検証することにより、様々な「もしも」の気候シナリオを分析することも可能です。
9. AR/VRデータ没入型プラットフォーム
拡張現実(AR)および仮想現実(VR)プラットフォームは、ユーザーに没入感のある体験を提供します。これらの直感的なプラットフォームは、多様なステークホルダーによる地球観測データへのアクセスおよび理解の方法を変化させ、インタラクティブな学習を通じてデータリテラシーを高めます。
10. データキューブ
地球観測データを空間、時間、変数グリッドなどの様々な次元に沿って整理することにより、データキューブは有益な洞察を引き出し、異なる規模および詳細レベルにおける地球環境とその変化に関する複雑な分析を行うことが可能になります。
多様な地球観測ソースから得たデータは、解像度を均一化し、特性を揃えて標準化します。これにより、それ以上変換する必要がなくなり、計算に使うまでのプロセスを単純化することができるのです。このアプローチは、分析可能なデータへの迅速なアクセスが必要な場合に特に有用です。
積極的な気候変動対策への道筋
衛星地球観測データと組み合わせるテクノロジーの進歩は、気候変動による悪影響の防止において、先手となる対応を可能にするでしょう。同フォーラムは、地球観測データの主要な提供者、利用者、専門家の協力を得て、気候および環境問題の解決に、地球観測がもたらす変革の可能性を活用する方法を研究しています。
これらのテクノロジーは、単により良いデータを提供するだけではありません。地域社会、企業、政策立案者が気候変動に対するレジリエンス(強靭性)を構築する上で役に立つ、気候に関する重要な洞察へのアクセスを得ることもできるからです。こうしたテクノロジーがさらに進化を続けることで、気候変動の監視と対応の方法を大幅に変えることができるようになるでしょう。
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Hazuki Mori and Soichi Noguchi
2024年12月20日