公正、多様性、包摂性

インクルーシブな防災管理を通じてより包括的な社会へ

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日本は災害管理における男女格差に取り組み始めています。 Image: REUTERS/Joseph Campbell

Naoko Tochibayashi
Communications Lead, Japan, World Economic Forum
Mizuho Ota
Writer, Forum Agenda, Forum Agenda
  • 女性は災害時に特有の課題に直面するため、災害計画と管理に女性の視点を取り入れることが求められています。
  • 日本においては、政策および国や地域における災害対応の役割に女性の代表を増やすことによって、より包括的な災害管理に向けた取り組みがスタート
  • 民間企業は、女性のニーズや懸念に対応した製品を開発することで、より包括的な災害対策に貢献しています。

2024年は、1月1日に能登半島でマグニチュード7.6の大地震が発生し、自然の猛威を目の当たりにする新年の幕開けとなりました。この地震により、7月30日までに、299名の死者、1,327名の負傷者および123,099件の住家被害が報告されています。

その一方で、防災および災害後の対策において課題も多くあります。その一つが、避難所における女性や弱い立場にある人々への配慮が欠けていること。こうした指摘は、1995年の阪神大震災発生時をはじめ、災害のたびに持ち上がり、速急な対応が求められています。

災害時に直面する女性ならではの課題

災害の発生から避難、復興を通して、女性はさまざまな困難に直面します。例えば、災害発生時、女性は乳幼児や高齢者をサポートしながら避難することが多く、災害発生時の女性の死者数は男性の死者数を上回る傾向があります。

避難所においては、更衣室や授乳室などにおけるプライバシーの欠如、生理用品や下着などの物資不足、清掃や炊き出しにおける無償労働、セクシャルハラスメントなどが、災害のたびに指摘されています。これらの課題は、避難生活を困難にするだけでなく、身体的な被害を引き起こす可能性があることを忘れてはなりません。

20年以上災害現場の調査を行なってきた専門家は次のように話しています。「避難所に仮設トイレがあっても、男女別でなかったり、不衛生だからとトイレに行くのが嫌で我慢したりなどの理由で、水を飲む量を減らしてしまう女性が多かった。そのため血栓が血管の中にできやすくなり、エコノミークラス症候群になってしまう」

女性の登用によりインクルーシブな防災計画へ

避難所の運営などにおける女性への配慮不足の背景には、自治体などで、避難所の運営・管理を担当および、その中心的役割を担える女性が非常に少ないという現状があります。

日本政府は、2025年までに全国の防災会議委員の女性比率を30%にする目標を掲げていますが、2023年時点ではわずか10.8%内閣府の調査によると、防災担当部署に女性職員がいない自治体が全体の6割近くに上っています。

こうした状況の中、2024年6月、日本政府は、政府や地方自治体の防災・危機管理担当部局への女性職員の配置を促進する「女性活躍・男女共同参画の重点方針2024」を決定

自治体レベルでも、女性担当者の登用を後押ししています。東京都江東区、和歌山県吉野川市においては、女性職員による防災チームが発足。女性の視点から防災などに加えるべきサービスを議論し、施策に生かすことを目指しています。

さらに、「女性消防団」を結成した和歌山県板野町では、同消防団が町の備蓄における生理用品などの物資の点検に加え、女性や子どもが安心できる避難所の運営にあたる予定です。

自治体の職員に限らず、市民の育成も進んできました。大阪市では、「大阪男女いきいき財団」が全10回の養成講座を開催。東日本大震災時の女性防災リーダーに当時の対応について話を聞き、受講者が地域防災計画を設計・発表するなど、実践的なトレーニングを積んでいます。

名古屋市の社団法人「こども女性ネット東海」が開催する女性防災リーダーの養成講座では、63人が修了し、地元の町内会や防災会議に積極的に関わるケースが増加。「講座で仲間と出会い、刺激を与え合うことも一歩を踏み出す力になる」と執行理事の藤岡喜美子さんは話しました。

上記二つの取り組みは、2011年の東日本大震災の復興を機に設立されたコミュニティ財団「地域創造基金さなぶり」の資金提供により実現しています。こうした市民団体のサポートを通じて、防災計画や避難所運営を担う市民の輪が少しずつ広がってきているのです。

よりインクルーシブな災害グッズの開発も進んでいます。オフィスで使う商品を扱う、創業110年のオカモトヤでは、2022年に就任した鈴木美樹子代表取締役社長が、女性の活躍を推進するための新規事業「Fellne」を立ち上げました。

その一環として、避難所などで次に使用する人と顔を合わせる気まずさを無くすために、入口と出口を分けた一方通行型の「オールジェンダートイレ」や女性向け衛生用品が含まれる災害用品「災害用レディースキット」を開発。鈴木社長は、「男⼥隔てなく働けるような社会に変えていく旗振り役になれたら」とその思いを語っています。

インクルーシブな社会における防災計画

日本では、大正12年に多大な被害を出した関東大震災の経験から、地震のあった9月1日を防災の日に指定。この日には毎年、全国の学校や会社、地域などで防災訓練が行われ、災害が起きた際にどのように行動すべきかを周りの人たちと確認し合います。こうした日頃の訓練により、2011年に発生した東日本大震災でも、地域の小中学生が迅速に避難して助かるなどの成果が現れています。

防災計画や避難所運営などにおいても、官民が協力し、インクルーシビティを含め、定期的にアップデート・共有することで同様の成果が出ることが見込まれます。

世界経済フォーラムは、Logistics Emergency Teams (LET)(物流緊急チーム)の設立をサポートしました。LETの主な目的は「ニーズに応じた効率的な対応の実現」。Agility社、UPS社、マースク、DPワールドという世界的なロジスティクスおよび運輸企業で構成されており、国連のロジスティクスクラスターをサポートする役割を担っています。

現場の状況に合わせた対応は、防災と復興の要でもある効率性を高めることにもつながるのです。

ジェンダーを包摂した災害への備えを促進することで、日本においてすべての人をより効果的に守り、非常時に誰一人として弱い立場に置かれることがないようにすることができます。政府、地域コミュニティ、民間セクターが協力してイニシアティブに取り組み、より強靭で包括的な社会への有望な一歩が踏み出せるのです。

災害が続く中、計画と対策に多様な視点を取り入れることが、日本の未来を守る鍵となります。

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