仕事と働き方の未来

シニア世代を生かす再雇用で人材不足解消と満足度向上へ

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シニア世代の雇用は、高齢化と少子化による労働力への影響を解決することができるかもしれません。 Image: Unsplash/Nopparuj Lamaikul

Naoko Tochibayashi
Communications Lead, Japan, World Economic Forum
Mizuho Ota
Writer, Forum Agenda, Forum Agenda
  • 日本では急速な高齢化と少子化により、仕事の継続を望む高齢者が多くいる一方で、賃金の減少や労働機会の制限などの不満も増えています。
  • 日本政府は、法律や助成金プログラムを通じて、日本における高齢者雇用の労働条件を改善するよう企業に積極的に働きかけています。
  • シニア世代の労働者が現役で働き続け、満足感を得られる雇用につなげるためには、再就職支援が極めて重要です。

高齢化が進む中、日本でも60歳以上の働くシニア世代が増えています。日本経済団体連合会の報告によると、65歳以上の就業率は2022年に25.2%となっており、アメリカ(18.6%)やイギリス(10.9%)を始め、世界的に見ても高いのが特徴です。いくつかの調査によると、定年退職をした後でも就労したい労働者は8割程度おり、そのうちの約7割が働いていた会社での継続勤務を希望。シニアの就業率はこの10年間で大幅に上昇しています。

その一方で、60歳を超えると、法律により、給料と年金の合計額が一定額を超えると年金がカットされてしまいます。そのため、年金支給額が減らない程度の賃金設定をする企業が多く、業務内容が変わらないにも関わらず給与が減額となり、働くシニア世代のモチベーションの低下を招いているのが現状です。シニア就業者の転職率は30代に次いで多く、理由として「給与の不満」をあげる人も増えています。

働きたい高齢者が増える一方で、少子化が加速し、多くの企業では適切な人材確保が大きな課題です。こうしたことから、経験豊富なシニア世代の待遇を改善し、うまく雇用につなげることで、人材不足解消と雇用者の満足度向上を図る取り組みが始まっています。

年齢に関わらず、意欲的に働ける環境づくり

日本では、改正高年齢者雇用安定法(70歳就業法)が2021年4月に執行され、企業に70歳まで就業機会を確保する努力義務が課されました。こうしたことから、企業では、すでに働いている従業員の定年退職の年齢を希望に応じて伸ばし、待遇を犠牲にすることなく働き続けられるシステムを導入する企業が増加しています。

例えば、ダイキンでは、60歳だった定年を、希望者全員を65歳まで再雇用する制度により、毎年100人を越える再雇用者を採用。さらに、専門性が高い分野などでは65歳を超えても働くことができ、70歳を超えても第一線で活躍するベテラン社員もいます。さらに、高い評価を得れば60歳以降も昇格・昇給できる制度を導入するなど、人事賃金制度の見直しも行ないました。ダイキンは、過去10年で事業が急拡大しており、人材不足が大きな課題となっていたため、数十億円規模のコスト増加が発生しても、経験豊富なベテラン層に意欲的に働いてもらう必要性を重視し、こうした改革に踏み切っています。

また、スキンケアメーカーのファンケルでは、2017年から65歳以上でも勤務が可能な「アクティブシニア社員」という雇用区分を新たに設定。シニア層が活躍できる場を提供しつつ、これまでに培ったスキルやノウハウを若い世代に継承してもらうことを一つの目的としています。

こうした環境整備を進めるため、厚生労働省では、「65歳以上への定年引上げ等や高年齢者の雇用管理制度の整備等、高年齢の有期契約労働者を無期雇用に転換する措置を講じる事業主」を対象に助成金を支給。また、人事管理制度の見直しや職業能力の開発・向上、職域開発・職場改善などにおける専門家による相談サービスなどを実施し、民間での取り組みを支援しています。

リスキリングやマッチングを促進し、充実した新たな雇用へ

年齢を重ねてからも働き続けるためには、将来的にどのようなキャリアを築いていくかに関して見通しをつけ、必要なスキルアップや情報収集を行うことにより、自分にあった仕事や勤務環境などにつながります。情報機器を取り扱うコニカミノルタや映像機器等メーカーのキャノンでは、50歳代の従業員にキャリアデザイン研修を実施。こうした取り組みを通じて、雇用者は必要となりそうなスキルや能力を洗い出し、将来に向けて計画的に行動することが可能になるのです。

また、岸田総理が、2022年の所信表明演説で「リスキリング支援として5年間で1兆円を投じる」ことを表明したことから、デジタル分野などにおけるリスキリングのための助成金制度が広がりました。さらに、シニア世代が無料で職業能力開発を受けられる施設や制度を設けている自治体も多く、年齢に関わらず、仕事に還元できる知識やスキルを学べる機会が増えています。シニア世代が仕事で感じる幸せには、「仕事を通じた成長実感」が強く関連しているとの調査もあるように、リスキリングなどの学習機会は、より良い雇用機会の創出だけでなく、雇用者の満足度にもつながると考えられます。

加えて、新たな雇用先を探す高年齢者のために、厚生労働省が運営するハローワーク(公共職業安定所)では、全国300カ所に「生涯現役支援窓口」を設け、再就職などを支援。自治体レベルでは、北海道の帯広市がシニア人材マッチングシステムを通じて、約半年間で登録企業数 317社、登録者数 278人、就労決定 251人という実績を残すなど、自治体ごとに地域に根差した雇用支援を実施しています。さらに、同様のサービスとして、40代から60代以上の求人情報に特化した民間のマイナビミドルシニアなども存在し、高齢層の雇用活動を後押ししています。

世界経済フォーラムの報告書「長寿経済の原則:財政的に強靭な未来への基盤(Longevity Economy Principles: The Foundation for a Financially Resilient Future)」では、長寿経済の原則として、多世代の労働力のために、仕事と生涯スキルを進化させること、そして、社会的なつながりと目的のためにシステムと環境をデザインすることが挙げられています。高齢化が進む社会の中で、こうした原則を中心に、官民が協力することで、年齢に関わらず、充実した労働環境や労働機会が整備されることが今後ますます重要になります。

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