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インフレから地政学リスクへ〜中央銀行と政府ファンドの新たな課題〜

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地政学的緊張に起因する社会不安と経済的不安定性は今後も続く可能性が高くなっています。

地政学的緊張に起因する社会不安と経済的不安定性は今後も続く可能性が高くなっています。 Image: Unsplash/Big Dodzy

Simon Torkington
Senior Writer, Forum Agenda
  • 中央銀行および政府系ファンドにとって、最大のリスク要因がインフレから地政学的リスクに変わったことが、新しい調査で明らかになりました。
  • この調査によると、中央銀行の53%が準備金の増強を計画しており、52%が保有資産の多様化を目指しています。
  • 世界経済フォーラムの「2024年版グローバルリスク報告書」では、今後10年間に激動の時代が訪れると予想する人は60%を超え、悲観的な見通しを示しています。

世界で40億人以上が選挙の投票する権利を持つこの1年、地政学上の懸念が中央銀行や政府系ファンドにとっての最大の懸念事項として浮上しました。

資産運用会社インベスコの最新調査によると、政治情勢の二極化と分断化がますます進み、これらの機関にとってインフレを上回る最大のリスク要因となっています。「グローバル・ソブリン・アセット・マネジメント・スタディ2024(Global Sovereign Asset Management Study 2024)」で概説されている傾向は、中央銀行や政府系ファンドの前に広がる世界が、これまで以上に複雑かつ不確実になっていることを反映しています。

Risks to global economic growth in next year (LHS) and next 10 years (RHS) (% citations, CBs and SWFs)
中央銀行は地政学的緊張を成長への主な脅威と位置づけています Image: Invesco Global Asset Management

調査対象者の83%が、地政学的な緊張が今後1年間のグローバル経済成長の主なリスクであると回答。これは高インフレや金融引き締めへの懸念(73%)を上回っています。また、今後10年間を見据えると地政学的な分断と保護主義の台頭が最も重大な長期的脅威であるとする回答者は86%にのぼります。

この調査では、ウクライナと中東で進行中の紛争、米国と中国を含む大国間の緊張、2024年に行われる多くの選挙の結果をめぐる不確実性などが、地政学的リスクへの注目度を高めていると指摘しています。

リスクに対する金融機関の備え

こうした課題に対応するため、中央銀行は準備金の増強と多様化を進めています。半数以上(53%)が今後2年間に準備金の規模を拡大する予定であり、52%は保有資産の分散化を進める意向。この戦略の狙いは、潜在的ショックに対する緩衝材を用意し、市場の混乱が起こった場合に介入するための十分なリソースを確保することです。

インベスコの調査ではまた、中央銀行や政府系ファンドの分散投資の手段として、金や新興市場資産へのシフトが拡大していることも強調されています。中央銀行が準備金を武器化して利用する可能性があることから、回答者の56%が金をより魅力的に感じており、新興市場への配分は今後5年間で大幅に増加すると予測されています。

ソブリン投資家がこうした変化に適応するにつれ、彼らの戦略は、当面の地政学的リスクの管理と、多極化が進む世界における長期的な安定性と成長を取り込むポジショニングとの間の微妙なバランスを反映するようになっています。

グローバルな不確実性に対する即効薬はない

地政学的緊張に起因する社会不安と経済的不安定性は今後も続く可能性が高いでしょう。

世界経済フォーラムの「2024年版グローバルリスク報告書」では、今年のグローバルリスク意識調査の回答者の3分の2が「今後の10年について中堅国や大国が現在のようにルールや規範を設定し適用するだけでなく、争うような多極化した秩序が支配的になる」と考えていることを強調しています。

Short and long-term global outlook
「2024年版グローバルリスク報告書」は、グローバルな安定性についておおむね悲観的な見通しを示しています。 Image: 世界経済フォーラム

この調査では、回答者の54%が今後2年間にある程度の不安定さと中程度のグローバルな大災害のリスクを予想しており、30%はさらに混乱した状況を予想。さらに10年先の見通しは著しく悲観的になり、調査対象者のほぼ3分の2が荒れ狂う、あるいは激動の状況を予測しています。

不確実な世界に安定を取り戻す

同報告書では、地政学的緊張とグローバルな政治的議論の二極化を浮き彫りにするだけでなく、国家から個人に至るまで、世界により安定した秩序を取り戻すためのさまざまな戦略を提示しています。

この場合、国境を越えた大規模な協力体制が不可欠になります。そうしなければ、国家間の武力紛争や、人間の安全と繁栄に対するその他の脅威につながる可能性があるからです。さらに、予測可能なリスクを軽減するには地域に特化した投資や規制を活用することが可能であり、その際にはパブリックセクターと企業の両方が重要な役割を果たす、と同報告書は述べています。

グローバルな規模の課題に直面すると、個人の行動は取るに足らないものに思えるかもしれません。しかし、小さな行動を積み重ねることで、グローバルなリスクを大幅に軽減することができると同報告書は指摘しています。

今後10年間は、前例のない変化がもたらされ、私たちの適応力が試されるでしょう。しかし、この先に待ち受ける可能性のある未来は一つではありません。グローバルなリスクに対処する私たちの現在の取り組みが、より良い結果を形作ることができるのです。

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リスクに対する金融機関の備えグローバルな不確実性に対する即効薬はない不確実な世界に安定を取り戻す

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