気候対策

酷暑を乗り切る〜熱波に立ち向かう革新的素材〜

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熱波が常態化するにつれ、猛暑を和らげるための新技術が開発されています。 Image: Unsplash/Bingnan Li

Naoko Tochibayashi
Communications Lead, Japan, World Economic Forum
Mizuho Ota
Writer, Forum Agenda, Forum Agenda
  • 世界的な気温の上昇により、日本では熱中症による死者が大幅に増加しており、その数は1993年以前の年間平均67人から、2020年から2022年にかけては1,253人となりました。
  • 猛暑が人や農作物に与える影響を軽減するために、熱を逃がす衣服、紫外線(UV)や熱を遮る日傘、農業用シートなどの新技術が開発されています。
  • 暑さ対策製品の開発と普及には、官民の協力が不可欠です。

今年も世界中で熱波による影響が報告されています。米宇宙航空局(NASA)によると、2023年は産業革命前の19世紀後半の平均より約1.36℃高く、直近の10年は記録史上最も暖かい年が続きました。これにより、世界各地で人々の健康や農作物などに大きな影響が続出。気候変動に対する長期的な対策が必要とされると同時に、現時点で直面するこうした酷暑をどのように凌ぐかが重要な課題となっています。

厚生労働省の統計によると、1993年以前は年平均67人だった熱中症による死亡者数は、2010年から2019年は1,004人、そして2020年から2022年は1,253人と、年々増加。消防庁の発表によると、2024年7月15日~21日までの一週間に、日本全国で熱中症で搬送された人の数は9,078人にのぼっています。酷暑の予報が出ていたことから、日本政府は、暑さを乗り切るために空調の使用が増えることを予想し、5月末に終了していた電気・ガス料金の補助を8月からの3カ月間再開することを決定しました。

また、厚生労働省の報告によると、熱中症による死亡者が多いのは、暑いなか屋外での肉体労働を伴う建設業者。こうしたデータから、屋内における暑さ対策とともに、屋外での作業・移動時に酷暑から身を守る方法が必要であることがわかります。

近年の酷暑による被害は、農作物にも及んでいます。1872年の観測開始以来、最高気温が30度以上となる真夏日が最多となった函館市では、強い日差しによりかぼちゃが変色し、数十トンが廃棄処分へ。収穫量が増えすぎたために、価格調整のためにとうもろこしを約6万本廃棄し、1,000万円近くの損失を抱えた農家、1日に約700~800キロのトマトが不良品や規格外になり、栽培を諦めた農家もいます。

世界経済フォーラムのレポート「グローバルリスク報告書2024年版 (The Global Risk Report 2024)」によると、今後10年を見据えた長期的なリスクとして最上位にランクインしているのが「異常気象」です。これまでに経験のない熱波は一過性の異常気象ではなく、今後も続くことが予想されるため、こうした気候の影響による健康リスクへの迅速な対策が求められています。

局所的に温度を下げる特殊なシート

屋外を移動する際の熱中症を防ぐため、日本では年々日傘の使用が普及してきています。10年ほど前まで、晴れている日に傘を使うのは主に紫外線を避けたい女性でした。しかし、近年では、熱をも遮断する特殊な布地が開発され、その使用が子供や男性にも広がっています。例えば、東レが開発した特殊な生地であるサマーシールドは、紫外線を99%以上遮断。反射・遮光効果は99.9%で、-4℃以上の遮熱効果があるとされ、頭の周りに周囲よりも気温の低い影を作ることで熱中症の防止になるとして、使用が推奨されています。

日本国内で販売される日傘は、デザインが多様化し、年齢や性別に問わず使いやすくなりました。例えば、株式会社小川は、子供たちが登下校時などに使いやすいように、安全性を重視した商品を開発しています。

また、建設業者を中心に着用が広がっているのが、上着に扇風機を組み込んだ「空調服®」です。上着に組み込まれた扇風機からの送風で汗を乾燥させるとともに、暖かい空気を外に逃し、外気と入れ替えることで、体を涼しく保つことができます。株式会社空調服代表取締役会長の市ヶ谷弘司氏は「毎年夏になると7~8回、病院で点滴を受けていたけど、空調服を着るようになってから一度も病院に行かなくなった」と使用者から報告があったとインタビューで語っています。

販売は2004年から行なっていたものの、年々改良が重ねられ、近年では汚れがつきにくい素材や難燃性、撥水性のものなど、新たな素材を組み合わせることで機能性をさらに追求し、夏場の建設現場における必需品となっています。

農業分野においては、東レに加え、イノベックス小泉製麻株式会社など、複数の会社がビニールハウス用の特殊シートやネットを開発しています。これまでは、熱とともに植物の成長に必要な光をも遮断してしまうことが課題でしたが、最近では、必要な光を通しつつ暑さを和らげる商品が次々と登場。

実際に小泉製麻株式会社のハウス用ネットを利用したトマト農家は、「体感温度が2℃ほど違った」と感想を述べています。以前は暑さを避けるため早朝に収穫することもありましたが、ネットの使用で温度が下がったため、日中に作業しても体調を崩すことなく、作業効率も上昇。さらに、30℃を超えると自動運転するファンの稼働時間が減り、省エネにもつながっています。酷暑対策用のネットを利用した「2023年の夏は高温障害自体が起きませんでした」と報告しています。

官民協力による暑さ対策の普及

暑さから身を守るために活用されている、日傘やハウス用のネットやシートの開発や普及には、官民の協力が欠かせません。例えば、晴れの日に暑さ対策として傘をさす習慣を根付かせるため、数多くの自治体が日傘の使用を積極的に推奨し、各地でイベントやキャンペーンなどを開催しています。2018年には、東京都と周辺八県が連携して日傘無料貸出イベントを開催。その際に測定した暑さ指数(WBGT)では、日傘の利用で1~3℃程度のWBGT低減効果があり、熱中症警戒レベルが1段階下がったと環境省が公式サイトで公表しています。さらに、街路樹がない場所では、速乾性のシャツを着用して日傘を差すと、10m間隔で街路樹を作るのに匹敵する効果が得られるなど、熱中症対策に役立つ情報も発信。川崎市では、サーモグラフィを使って日傘使用時と不使用時の温度の違いが一眼でわかる画像を公式サイトに公開し、使用の有効性を訴えています。

農業分野では、東レが石川県と公益財団法人いしかわ農業総合支援機構、石川県内のトマト農家とともに、2018年から「新たな遮熱資材を活用した高収益施設園芸モデル構築コンソーシアム」を組織。高温による農作物の品質低下や収穫量の減少を防ぐ製品として、日中平均気温を最大約3℃低下させる農業ハウス用シートを開発しました。重さや扱いやすさにも工夫を凝らし、2025年春の販売を目指しています。

こうした遮熱効果のあるシートは、日傘やハウス用シートの他にも、カーテンやオーニングとして転用することで、屋内の気温上昇の抑制にも有効です。

今後さらにきびしくなることが予想される酷暑を乗り切るためには、その影響を最低限に抑えるための商品開発や利用普及において、官民がより連携を強め、協力して対策していくことが重要です。

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局所的に温度を下げる特殊なシート官民協力による暑さ対策の普及

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