「未来の空港」、気候変動へのレジリエンス強化に向けた5つのステップ
気候変動へのレジリエンスを備えることが、世界中の空港にとってビジネス上の急務となりつつあります。 Image: REUTERS/Wesley Santos
- 空港は交通の利便性と貿易に欠かせない存在ですが、近年、異常気象や気象条件が空港の運営を脅かすことが増えています。
- ドバイやニューヨークをはじめ、ブルガリアのソフィアなど多くの空港がすでに気候変動による混乱に対処するためのインフラや運営の準備を開始しています。
- すべての空港とその運営事業者が、気候変動が資産に及ぼす影響を評価し、業界で協力して気候変動へのレジリエンス(強靭性)を高めることが重要です。
今年初め、アラブ首長国連邦のドバイではわずか24時間で1年半分の雨量に匹敵する雨に見舞われました。乾燥した都市として知られるドバイは不意を突かれ、ドバイ国際空港では3日間で2,000便近くが欠航する事態となりました。
影響を軽減すべく迅速な対応がなされましたが、何千人もの乗客が足止めされ、手荷物や貨物の輸送は完全にストップ。余波により、時刻表やグローバル・サプライチェーンが数日間から数週間にわたって大きく混乱しました。これは、嵐の激しさと、このハブ空港の規模および重要性を表しています。
深刻な事例はこれだけではありません。2023年には米国のフォートローダーデール・ハリウッド国際空港が鉄砲水により24時間閉鎖され、2022年には、英国全土で異常高温により列車運休や学校閉鎖、山火事が発生。同じ日に、滑走路に損傷を与えるほどの猛暑によってロンドン・ルートン空港が航空機の離発着停止を余儀なくされました。
異常気象がより頻繁に、より広範囲に、より激しくなるにつれ、空港セクター全体で深刻な脆弱性が露呈しています。空港はこうした条件に耐えられるよう設計されていないため、運用停止に追い込まれることが多くなってきているのです。
空港の気候変動へのレジリエンス強化に向けた5つのステップ
空港セクターは、緊急の課題として、知識を共有し、互いの経験から学び、協力して気候変動に対するレジリエンスを空港の改良や開発に組み込む必要があります。
世界経済フォーラムは「エアポート・オブ・トゥモロー」イニシアチブの一環として、アトキンス・レアリス社の協力を得て空港が将来のレジリエンスを構築するために今できる5つのステップを考案しました。
1. 新しい設計にレジリエンスを組み込む
新しい空港資産を建設する際には、気候変動に適応し、その資産が存在するであろう未来に特化した設計にする必要があります。現在および未来の気候リスクを評価し特定することによって、それらのリスクに直接対応した設計を行い、レジリエンスを構築することができます。
米国のジョン・F・ケネディ国際空港は沿岸部に位置しているため、洪水の影響を受けやすくなっていますが、新ターミナルは地表を約1メートル高くし、乗客向けの施設を上層階に移転して設計されました。これにより、異常気象の際にも構造的な被害を軽減し、業務の混乱を最小限に抑え、乗客とスタッフの安全を確保することができます。
2. 既存の資産にレジリエンスを後付けする
現在、そして今後必要となるレジリエンスを生み出すには、既存の資産にレジリエンスを後付けして、空港を継続的にアップグレードしていくことが不可欠です。
1937年に建設されたブルガリアのソフィア空港では、舗道や滑走路の再舗装に耐熱性のある新素材を使用する、35℃を超える気温でも稼働可能な最新の冷却システムにアップグレードするなど、気温上昇に備えたインフラ強化に取り組んでいます。
3. データとテクノロジーの力を活用する
データの入手が容易になり、テクノロジーが進化を続ける中、その潜在能力を最大限に活用してレジリエンスに関する意思決定や計画に反映することが重要です。例えば、デジタルツインやシミュレーションツールを使用して、資産管理やメンテナンスに役立つ情報を得ると同時に、介入や資本投資の優先順位付けを行うことができます。
アトキンス・レアリスの都市シミュレーターは、人口、移動、インフラに関するデータと気候予測を組み合わせて、現実的な将来シナリオを生成し、洪水、暴風雨、山火事などの異常気象による影響をシミュレーションします。
4. 最初の48時間に備える
異常気象発生後の最初の48時間における対応の迅速性と効率性が、混乱の度合いに大きな影響を与えます。
ドバイが深刻な洪水に見舞われた際には、空港の災害管理グループが重要な役割を果たしました。類似の部署を立ち上げることにより、最初の段階で基本レベルのレジリエンスを確保し、警察や消防、地方自治体、その他のステークホルダーとのコミュニケーションラインを確立して、地域が協調して対応できるようになります。
5. 長期計画に気候レジリエンスを組み込む
戦略計画や投資モデルと統合することによって、レジリエンスを正式な手順にする必要があります。例えば、EUのアプローチを採用して環境影響評価プロセスにレジリエンスを含める、あるいはレジリエンスを空港マスタープランに盛り込むことを義務付けるなどです。
ソフィア空港は、気候変動リスク評価を計画に組み込むための体系的なアプローチを開発しました。この中で、気温上昇、洪水、干ばつに関連するリスクを考慮し、これらの事象の発生確率と予測される影響レベルをマッピングしています。これにより、長期的・短期的なレジリエンスを構築するための対策の優先順位付けが可能になり、投資に向けたビジネスケースが作成され、資金調達が容易になります。
行動への呼びかけ
気候変動とそれに対するレジリエンス強化の緊急性は、今ではなく今後数十年後に直面する課題であると見なされることがあります。しかし、自然はすでに明確なメッセージを発しています。それにも関わらず、現在の空港には、今後起こる異常気象に耐えるインフラはおろか、現在のような異常気象に耐えるインフラもありません。
異常気象がもたらす運用リスクや財務リスクを考えると、空港はレジリエンスを構築するための対策を十分に明確化し、計画して、資金調達を行う必要があります。空港の安全性と重要な経済的役割をさらに強化するために、協力し、アプローチを変革していくのはまさに今なのです