「バーゼル・エンドゲーム」と金融危機の再発防止
バーゼルIIIと呼ばれる新たな銀行規制は、ようやく最終化されたばかりです。 Image: Unsplash/Nick Pampoukidis
・ 2007年から2009年にかけての金融危機を受け、バーゼルIIIと呼ばれる新たな銀行規制が策定されました。その一部はまだ最終化されたばかりです。
・ 改革の最終段階は「バーゼル・エンドゲーム」と呼ばれ、米国では2025年に施行される予定です。
・ 世界経済フォーラムのBanking and Capital Markets community(銀行・資本市場コミュニティ)は、業界のリーダーを結集させ、金融の安定にフォーカスしています。
銀行の安定性を、私たちは当然のものとして捉えがちです。
喫茶店でカードを使うとき、オンラインで買い物をするとき、ATMからお金を引き出す時、私たちはその資金がすぐに使えるものと考えます。
しかし、何らかのショックや問題が発生すると、銀行がニュースの見出しをにぎわせ、私たちがどれほど銀行の安定性を信頼し、世界中のお金の流れに依存しているかを思い知らされます。
規制が非常に重要である理由はここにあるのです。
世界金融危機
2007年から2009年にかけて起きた銀行・金融危機への対応として、新たな規制の必要性が浮上しました。これらの規制は、バーゼル銀行監督委員会(BCBS)の策定した国際的な一連の措置であるバーゼルIII協定に盛り込まれています。
スイスのバーゼルには、世界中の中央銀行と銀行監督当局で構成されるBCBSと、中央銀行のための中央銀行である国際決済銀行(BIS)があります。
世界金融危機以前は、多くの銀行が所持する資本があまりにも少なく、ベアー・スターンズ、リーマン・ブラザーズ、メリルリンチなど、多くの有名銀行が破綻し、救済を余儀なくされるなどしました。金融システムを安定させるため、多くの国で政府による大規模な資金注入が必要となり、数十億ドルをも費やすことになったのです。
税金による銀行の救済を受け、銀行部門をそれまで以上に厳しく規制することで、世界的な金融システムにおける将来的な混乱を防止・抑制しようとする動きが強まりました。
バーゼル銀行改革と安全処置
これを受けて実施されたのが、バーゼルIIIの改革です。バーゼルIII改革は2015年までに導入される予定だったものの、一部は未だ未解決で、期限が何度も延長されています。
BIS年次経済報告2023によると、「世界金融危機後、金融改革は銀行部門の資本を大幅に強化し、より前向きな貸倒引当金の計上を促し」ています。さらに、「結局のところ、銀行部門への影響は、その損失吸収力が投資家の信頼維持にどの程度役立つかにかかっています」。
現在、「バーゼルIII最終段階」として知られるようになった改革の最終段階が目前に迫り、起草の契機となった金融危機から約20年後の2025年7月に適用される予定でした。
大まかに言えば、この措置は銀行により多くの自己資本を保有させることで、ストレス時に引き出せる十分な額を確保し、資金不足に陥りにくくすることを目的としています。これが、「バッファー」、「資本バッファー」または「クッション」と呼ばれものです。
銀行は、大きくなるほど金融の安定性に対するリスクが大きくなり、保有しなければならない現金の量も増えていきます。この改革は、銀行が自らのリスクレベルを決定する能力を制限するものでもあるのです。要約の全文はこちら。
バーゼル・エンドゲームへの反対
米国では、バーゼル規制の最終的な実施に対して反発もあり、銀行家、ロビイスト、一部の政治家が反対するなど、政治的な動きも出ています。反対派は、米国の銀行はすでに強固で、偏った影響を受ける可能性があり、国際競争力に影響を及ぼすと主張。
また、規則が厳しくなることで融資が制限され、グリーンプロジェクトに割り当てられる金額が減るといった意見もあります。
未来に備える銀行へ
この規制が備えようとしているのは、2000年代に起こった出来事に対してだけではありません。
2023年3月、米国のシリコンバレー銀行(SVB)が破綻し、市場の混乱が世界中に波及しました。
SVBは2022年末時点で資産規模において米国第16位の銀行であり、金利上昇と預金流出という課題に直面していました。
SVBの破綻は規制により防ぐことができたという指摘はありません。しかし、この破綻により、銀行と金融の安定性がニュースの見出しを再びにぎわせ、個々の銀行の欠陥がより広範な金融の安定性に影響を及ぼす可能性があることを浮き彫りにしました。
世界経済フォーラムの「Banking and Capital Markets community(銀行・資本市場コミュニティ)」は、「世界金融システムにおける柔軟で持続可能かつダイナミックな成長」を促進するために、業界のリーダーを結集することを目的としています。
ダボスで開催された世界経済フォーラムの年次総会では、「Are Banks Ready for the Future?(銀行は未来への準備ができているか)」と題したセッションで、銀行が信頼を育めるようにする必要性が議論されました。
このセッションで、国際通貨基金(IMF)のギータ・ゴピナート筆頭副専務理事はパネルに対し、こう語りかけています。「世界の金融システムはよく持ちこたえてきたが、自己満足に浸る余地はありません」。