環境保護の切り札としての地球観測データ
地球観測は地球を守るために不可欠です。 Image: NASA
• 世界経済フォーラムの新しいレポートによると、2030年までに地球観測(EO)データから推定3.8兆ドルが生み出される可能性があります。
• ビジネスへの応用に加えて、生態系の健全性を追跡するのに役立つEOは、私たちの地球を保護するために不可欠です。
• 地球観測に関する政府間会合(GEO)のヤナ・ゲヴォルギャン氏が、地球の生態系をより大規模にマッピングすることの重要性について語りました。
この『地球の出』は、これまで撮影された中で最も象徴的な画像のひとつです。今月亡くなったアポロ8号の宇宙飛行士、ウィリアム・アンダース氏が1968年に撮影したこの写真は、私たちの地球に対する認識を変えました。月の地平線からのぼる地球を宇宙空間で小さく無防備に描いたこの写真が、環境保護運動のきっかけとなったとも言われています。
以来、地球観測(EO)は長い道のりを歩んできました。世界経済フォーラムの新しいレポート「Amplifying the Global Value of Earth Observation(地球観測のグローバルな価値の増幅)」によると、EOは2023年から2030年の間にグローバルGDPに3.8兆ドルをもたらす可能性があります。
この価値の大部分は、ビジネス、産業、農業、公共部門におけるEOの利用により派生したもの。しかし、EOは、地球を保護するためにも不可欠です。温室効果ガスの影響や排出削減の進捗状況などを追跡するのに役立つ地球の自然生態系に関するデータを提供してくれるからです。
地球観測データとは
「地球観測とは、地球という惑星、特にその物理的、化学的、生物学的システムについて収集される情報のことです。私たちは宇宙から海底まで、様々なセンサー技術を使ってこの情報を収集しています」。地球観測に関する政府間会合(GEO)のヤナ・ゲヴォルギャン事務局長は世界経済フォーラムに対してこのように述べています。
「私たちは、衛星技術、航空機、温度計、動くセンサーである人々、そして水中技術を使用して、海の底をマッピングしているのです」。
地球観測システムは、土壌の水分量、大気の状態、陸地や海水の温度など、さまざまな変数に関するデータを提供できるだけでなく、土地の被覆率やその変化を分類し、化学物質の存在や放射線レベルを監視することもできます。
自然生態系の健全性を継続的に測定・監視することで、研究者は地球がどのような状態にあるかを総合的に診断することができるのです。
自然環境の保護を支える地球観測テクノロジー
同フォーラムのレポートによれば、EOデータは幅広い用途に利用されています。
環境問題におけるEOの重要性を示す一例として、マングローブの観測が挙げられます。世界で最も貴重な生態系のひとつであるマングローブは、海洋生物に食料を提供し、洪水被害を防ぎ、二酸化炭素を貯蔵。しかし、人間の活動や海岸線の浸食、異常気象などにより今、マングローブの森は消滅の危機に瀕しています。衛星を使用してマングローブの森を長期的に観測することで、失われる量を追跡し、さらなる損失を防いで回復させるための作業を開始することができると同フォーラムは指摘しています。
同様に、EO情報はサンゴ礁の保護にも役立ちます。サンゴ礁は何千もの水生生物のすみかとなり、暴風雨が上陸する前に食い止める働きもしています。
同フォーラムはまた、山火事の早期警報システム、違法な森林伐採の特定、ガスパイプラインの漏れやその他の温室効果ガス(GHG)の発生源に対処するといった用途にも注目しています。その他にも、燃料とそれに伴うGHG排出を節減するための輸送ルートの最適化や、肥料と水の使用を最小限に抑えるための作物の健康状態の監視などが挙げられます。
このようにEOを適用することで、グローバルな温室効果ガス排出量を3.6%(年間2ギガトン)削減できるのです。
地球観測データ活用の最大化
EOは自然環境を保護する大きな可能性を秘めているにもかかわらず、現在、世界の生態系の半分以上がマッピングされていない、とゲヴォルギャン事務局長は言います。
「生態系の分類方法や、生態系の状態とその変化についてまだ十分に分かっていないのです」。
同氏は、この知識のギャップを埋め、世界中の生態系をマッピングする重要性を強調しました。これを達成するには、マッピングとモニタリング、そして経年変化を追跡するための協調し、調和のとれたアプローチが必要です。
「各国政府、企業、市民社会に共通の情報を提供し、私たちが下す意思決定に一貫性を持たせるためにも、これは本当に重要なことです」と同氏は付け加えました。
同フォーラムは、共通のリソースと標準を確立することに加えて、エンドユーザーの需要を刺激し、EOデータが期待される効果を発揮できるように、AIやその他の技術の利用を推進することを推奨しています。
この文脈における重要なイニシアチブのひとつが、GEOの主導する共同プロジェクトの「グローバル・エコシステムズ・アトラス」で、さまざまな自然生態系データをひとつのオンライン・リソースにまとめています。
同氏は述べています。「このアトラスが誰でもすぐに使えるようになり、地球に関する情報への関わり方が大きく変わっていく明日を思い描いています」。
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Louise Thomas and Will Hicks
2024年12月16日