新興テクノロジー

「教育は民主主義を構築する場」。教職員組合が「AI教師」を恐れない理由

エデュケーション・インターナショナルのデビッド・エドワーズ書記長の言葉によると「教育という経験は取引ではなく、関係性なのです」。

エデュケーション・インターナショナルのデビッド・エドワーズ書記長の言葉によると「教育という経験は取引ではなく、関係性なのです」。 Image: Image: Unsplash/Kelly Sikkema

David Elliott
Senior Writer, Forum Stories
本稿は、以下センター (部門)の一部です。 ニューエコノミーとソサエティ
  • AI(人工知能)に関して、保護者、教育者、指導者の71%が、学習環境における潜在的リスクを懸念しています。
  • 教育界に広く利益をもたらすためには、教師がAIをめぐる対話の中心であり続けなければならないと、グローバルな教職員組合であるエデュケーション・インターナショナルのデビッド・エドワーズ書記長は述べています。
  • 世界経済フォーラムの新しいレポートによると、教師はAIに取って代わられるのではなく、AIによって支援される教育システムの中心であり続けなければなりません。

仕事や社会における生成AIをめぐる話題は、現在起きていること、あるいは数年先の未来に起こることに焦点が当てられることがほとんどです。しかし、将来幸せで豊かな人生を送るために子どもや若者を育成している人たちに与える影響についてはどうでしょうか。

昨年実施されたグローバルな調査によると、保護者、教育者、指導者の60%がAIシステムは信頼し難い、もしくは信頼したくないと考えており、71%が潜在的なリスクを懸念していることが分かりました。教師と教育従事者の国際組織であるエデュケーション・インターナショナルの書記長、デビッド・エドワーズ氏によれば、新しいツールと教育システムの統合が進む今、教師はAIをめぐる対話の中心にあり続けなければなりません。

同氏にとって、AIの恩恵はすべての学校のすべての学習者に行き渡る必要があります。「教育とは、社会を作り、民主主義を構築する場です。私たちが何者であるか、そしてさらに重要なことに、私たちが何者になりたいかというナラティブを生み出す場所であり、教師はその物語を紡ぐ人たちなのです」。

教育に公平なAIを組み込む

世界経済フォーラムのレポート「Shaping the Future of Learning: The Role of AI in Education 4.0(学習の未来を形作る:教育4.0におけるAIの役割)」によると、AIにはグローバルな教育システムに真の進歩をもたらす可能性が秘められています。このテクノロジーは、学習の成果を向上させ、教師に力を与え、生徒に将来の仕事で必要となるスキルを身につけさせることができます。

しかし、そのためにはAIを公平に導入し、不平等を悪化させないようにしなければならない、と同レポートは指摘しています。教育における公平性の格差がすでに存在する中、世界中で26億人以上が基本的なインターネットにアクセスできない現状を踏まえると、AIという新しいツールが、こうした格差をさらに広げる可能性があります。

同氏は、AIにより人間の教師が特権階級の贅沢品になるという別の視点も付け加えます。既存のスキルやコネクティビティの格差と並び、手段や資源を持つ人々だけが機械が提供できない対人交流から今までどおりに恩恵を受け、そうした余裕のない子どもたちは、「教室にチャットボットしかいない」状況になるのでは、と憂慮しています。

「(AIだけでは人間の教師と)同じような交流も、同じような指導も、同じようなサポートも受けられません。そうならないよう、さまざまな恩恵が世界中に平等に行き渡るようにしたいのです」と同氏。

同レポートは、教育におけるAIの恩恵が広く行き渡るよう、教育用AIの開発を教師と協力して行い、機密情報を保護し、常に公平性とインクルージョンをプログラム設計の中心とするための措置を含む、一連のガードレールを整備することを推奨しています。

AIが教師にもたらすメリット

教育という仕事の中身は、自動化や拡張が難しいものばかりです。
教育という仕事の中身は、自動化や拡張が難しいものばかりです。 Image: 世界経済フォーラム

同フォーラムのレポートでは、対人交流を重視する幼年者向け教育課題については、AIの影響を受けない、あるいはAIがイネーブラーになるものではないと指摘しています。また、ルーチンワーク(定型業務)や反復的なタスクを自動化できれば、教育者がカリキュラム設計のような創造的なタスクに集中する時間を増やすことができるとも指摘。それでも、AIは教師の仕事を混乱させる可能性があります。このため、教師がAIの支援を受けながら教育システムの中心にあり続けられるように慎重な管理が必要です。

エドワーズ氏によると、多くの教師はAIツールがもたらす可能性を楽観的に見ています。例えば、特別支援教育の教師がアクセシブルなデジタル教科書を使用することで、障がいを持つ人を含む多様な学習者が様々な方法で教科書の内容を理解し、対話することができます。また、同氏が話を聞いた語学教師たちは皆、多言語でサポートを提供できることに「大きな期待を寄せている」とのこと。

同氏によると、教師は常に、新しいテクノロジーを教室に導入して学びを強化する方法を見つける、アーリーアダプターなのです。

「ラジオの時もそうでした。『ラジオは教師を時代遅れにする』と言われましたが、教師はラジオ番組を授業に取り入れ、どう思うかをクラスで話し合いました。

ビデオテープが登場した時も同様に、『1人の教師が授業を録画して、全員でその授業を見ればいいじゃないか』と言われました。もちろん、どちらもそんなことにはなりませんでした」と同氏。

「教育という経験は、単にコンテンツを提供するだけではありません。取引ではなく、関係性なのです。今AIで起こっていることを、私はそのように見ています」。

AIによって教師たちは、カリキュラム設計のようなより創造的な仕事に集中する時間を確保することができます。
AIによって教師たちは、カリキュラム設計のようなより創造的な仕事に集中する時間を確保することができます。 Image: 世界経済フォーラム

教師の代わりにはなれないAI

178の国と地域の383の加盟団体で構成され、3,200万人以上の教師と教育支援者を代表するエデュケーション・インターナショナル。エドワーズ氏は、現在の教育のトレンドをグローバルな視点で捉えています。

AIの倫理的な使用という点では「ちょっとした戸惑い」は予想されるものの、世界中でテクノロジーが教師たちに取って代わることについては「それほど心配していない」とのこと。

「教師は知識労働者だと言われることがあります。しかし、AIが台頭する現在の状況において、教師を単なる知識労働者と定義すると、社会性、メンターシップ、コーチング、関係性が失われてしまいます。

ですから、私は教師たちを知恵の労働者と呼びたい。知識を持っていることと、それを倫理的・道徳的に多くの人のために活用する方法を知っていることは別なのです」。

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