仕事と働き方の未来

従業員を大切にする企業の株価が上がる理由

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小売業はきびしい労働条件で知られていますが、労働者への投資は利益へとつながります。

小売業はきびしい労働条件で知られていますが、労働者への投資は利益へとつながります。 Image: Pixabay/Tung Lam

Don Howard
President and CEO, The James Irvine Foundation
George Zuo
Associate economist, RAND

・ 米国の小売企業を対象とした新しい調査によると、労働者に投資した企業の株価が上昇しています。

・ 労働供給が逼迫(ひっぱく)している現在、労働者に優しい企業はさらなる利益を得ることができます。

・ 費用便益分析により、労働者に投資し、そうした方針を開示することの利点を雇用主に示すことができます。

収益を上げるために人件費を抑える企業は、これまで、株主に大きな利益をもたらすと信じられてきました。一方、新たな研究では、現場の労働者に投資する企業は、長期的に株価が上昇し、それ以外の利益も得られることが示されています。

ランド研究所が5月に発表した世界初の研究では、過去20年間に米国証券取引委員会(SEC)に提出された約800件の開示書類を、人工知能(AI)を使って分析しています。その中で、研究者たちが焦点を当てたのは、全国で1,500万人を雇用し、そのほとんどが新入社員である小売業の大手上場企業です。

2020年以降、SECは企業に対し、労働者を惹きつけ、育成し、維持するために行う「人的資本管理」についての情報開示を義務付けています。ランド研究所が開発したAIモデルは、第一線で働く労働者への投資に関する小売企業の開示情報を評価し、それに対応する株価の反応を調査。すると、労働者への積極的な投資を開示した企業は、短期的に株価が最大2.5%上昇し、投資家だけでなく、労働者を支援する人々をも後押しする結果が得られました。

特に、賃金が低く勤務シフトの融通が利かないことで有名な小売業やファストフード業界では、人的資本への投資が労働者にとって有益であることがすでに知られていました。さらに、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は、現在も続く「必要不可欠な」エッセンシャルワーカーの問題を露呈しています。これらの仕事は、給与、福利厚生、柔軟性、昇進の機会に欠けることが珍しくなく、多くの労働者が、住居、育児、交通、そして食事や薬といった基本的なニーズを満たすのに十分な収入を得られていない状況です。

例えば、米連邦準備制度理事会(FRB)が発表した最新の「Economic Well-Being of U.S. Households report (米国世帯の経済的幸福度レポート)」によると、2023年、アメリカでは6人に1人が生活にかかるすべて費用を支払う余裕がなく、3人に1人は400ドルの急な出費を出すことができませんでした。また、低賃金の労働者は、女性、有色人種、特に有色人種の女性に偏っているため、低賃金ときびしい労働条件により、長年続いてきたジェンダーと人種の不平等を断ち切れずにいます。だからこそ、多くの労働者が自分たちの仕事の質を高めるために組合の結成や政策提言に関わる活動に携わるのは当然のことなのです。

労働者は、雇用主を選ぶことも可能です。最新の米国雇用統計によると、求人倍率は依然として高く、雇用主が少ない人材を奪い合う中で、労働者はより多くの選択肢を得ることができます。失業者数よりも求人数の方が多い現在、雇用主は労働力へ投資することで、競争が激化する市場で一歩先んじることができるかもしれません。

もちろん、官民を問わずあらゆる業界に、賃金や福利厚生の充実、シフト編成の自由度拡大、職場内訓練(OJT)の提供など、正攻法で労働者を適正に扱う雇用主は存在します。例えば、ブルームバーグが最近報じたところによると、イケアでは、2022年に従業員の3分の1が退職した後、報酬を増やし、採用者のシフトと配置を改善。そうすることで、同社はコストのかかる離職率を米国の店舗で約25%、世界全体では22%削減しました。

こうした例から、人的資本の強化に取り組む企業は、労働者に配慮した投資をより効果的に宣伝することの重要性を学ぶことができます。開示、共有を広めるほど、より多くの利益を得ることができるのです。投資家はこうした情報にこれまで以上に関心を持ち、情報収集に積極的になっており、曖昧なままにしておくと、潜在的な価値を逃してしまうことになりかねません。

労働者支援に積極的な企業は、復活しつつある労働運動や新たな労働者保護政策など、低賃金雇用の改善を求める他の勢力と連携していくことも可能です。例えば、カリフォルニア州の法律では、4月1日以降、ファストフード企業が労働者に最低時給20ドルの支払いを義務付けました。ファストフード店での賃金が上がったことで、その波及効果により、他の業界でも低賃金の労働者が昇給を求め始めています。

このような政策に対して、雇用主は費用対効果を正直に分析してみると良いでしょう。人件費は増えるものの、最終的に生活を保障する賃金は、忠実で生産性の高い労働者を生み、離職率が下がります。さらに、ランド研究所の新しい調査が示すように、企業の株式価値が目に見える形で上がり、まさにウィンウィンの関係です。

結論として、最前線で働く労働者の勤務場所と方法を明確にし、彼らに投資する企業は、株価が大幅に上昇するとともに、逼迫(ひっぱく)した労働市場において、求職者にとってより魅力的になります。さらに、従業員への投資は、株価の上昇だけでなく、人々の生活や経済的流動性に変革をもたらす可能性をも秘めているのです。

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