未来の空港がめざす、二酸化炭素削減への道とは
世界経済フォーラムの「エアポート・オブ・トゥモロー」イニシアチブは水素インフラを視野に入れています。 Image: Getty Images/iStockphoto
- 空港が直接管理可能なスコープ1と2の排出量の削減に奔走する一方、長期的にはスコープ3の排出量削減に向け、サステナブルな航空燃料をバリューチェーン全体で統合していくことが重要な戦略となります。
- アラブ首長国連邦、イタリア、ブルガリアの空港をはじめ、いくつかの空港が炭素排出量を削減するために包括的な電化戦略を採用しています。
- 燃料源としての水素は、サステナブルな空の旅に向けた重要な一歩となるでしょう。空港は水素インフラの実現可能性を模索しており、これには大規模なクリーンエネルギー資源が必要です。
空港はサステナブルな未来を描く準備ができています。航空機の脱炭素化を加速させることは、今後数年間における最も重要な課題のひとつ。空港の規模や立地にかかわらず、世界で多くの空港が、国際空港評議会(ACI)によるの国際的な空港カーボン認証制度(ACA)のもとで様々なレベルの認証取得を目指し、短期・中期・長期の持続可能性目標に対応した脱炭素化ロードマップの策定に着手しています。
短期的には、各空港は現在の二酸化炭素排出量を評価し、科学的根拠に基づいた脱炭素化戦略を確立して、空港の全排出量の約3%に当たる、自らが直接管理する排出量(スコープ1と2)を削減するための早急な行動を特定する必要があります。
スコープ1と2に焦点を当てる一方、サステナブルな航空燃料(SAF)の普及も必要でしょう。ゼロエミッションエンジンが長期的に成熟するまで、スコープ3の排出量への取り組みにはSAFがますます重要になると考えられます。
SAFに関しては、2025年までに少なくとも燃料の2%にSAFを使用し、2030年までに6%、2050年までに70%まで拡大することが欧州連合(EU)で義務付けられているなど、規制上の義務化にも支えられています。
長期的に見れば、空港が直接管理していないもの(供給業者や消費者)による上流と下流の排出を含むスコープ3排出への対処を進めるにつれて、課題は大きくなります。ハイブリッド電気、電気動力、水素飛行機などの代替エンジン技術が重要な役割を果たすと予想されており(2050年までに温室効果ガスを最大15%削減)、空港は今後からこれらのテクノロジーの活用に向けた準備を始めることができます。
空港の電化
いくつかの主要空港では、二酸化炭素排出量を削減する革新的な戦略として、空港運営の電化を行っています。
アラブ首長国連邦では、ドバイ国際空港のターミナル2が、サッカーのピッチ3面分に相当する15,000枚の太陽光発電パネルを備えた地域最大の太陽光発電システムを導入。この屋上ソーラーパークは現在、同ターミナルの電力需要の29%をまかなっており、同空港はこれをさらに拡大する計画です。
イタリアのローマ・フィウミチーノ空港も包括的な電化戦略を策定しており、その中には60メガワットのクリーンエネルギーを供給する大型太陽光発電所も含まれています。これは、同空港の二酸化炭素排出量を大幅に削減するだけでなく、空港の持続可能性を追求する際の手本となるものです。
空港でのグランドハンドリングやエンドユーザー対応も、日常業務に欠かせないものです。ブルガリアのソフィア空港は、すべての車両を気候に影響を及ぼさない代替車両に置き換える計画で、地上業務用車両の電動モビリティへの移行を進めています。そのために同空港は34台の電気自動車やハイブリッド車を導入し、22の充電ステーションを配備して、電気自動車に必要な送電網インフラを強化しています。
同様に、ローマ・フィウミチーノ空港は、駐車場に500基の充電ステーションを設置。また、中古のカーバッテリーを利用した毎時10メガワットの蓄電システムを導入し、エネルギー消費を最適化してサーキュラー・エコノミーを推進していく予定です。
こうした取り組みは、世界中の空港にとって再現可能なモデルとなり、航空業界における包括的な脱炭素戦略の実現可能性と利点を実証するものです。また、このような事例からは、空港における電力需要が高まっていること、土地や屋根などのスペースがあれば空港内で直接発電が可能であることが分かります。
空港におけるスコープ3の排出量削減
空港にできることは他にもたくさんあります。ただ、SAFはスコープ3排出量を抑制する上で極めて重要ですが、空港だけではこの変革を達成することはできません。SAFの採用を効果的に拡大するには、航空会社、SAF生産者、利用者、政策立案者を含む協力的な取り組みが必要です。
空港は、化石燃料サプライヤーとの関係を活用し、SAFの混合と貯蔵を促進することで、採用拡大を促進することができます。さらに、SAFは再生可能燃料の製造に必要な原材料となることから、完全な循環ループを形成できます。これは、米国のダラス・フォートワース空港でも試験的に導入されました。
加えて、SAFにインセンティブを与えるためのファンドのような革新的なアプローチも登場しており、空港が航空会社にとって空港航空会社の抱えるはSAFと従来のジェット燃料との間に生じるコスト格差をの緩和するのに役立つでしょう。このようなファンドは、グリーン・プレミアムの一部を補完するもので、様々な資金源からの調達が可能です。また、グリーン・プレミアムの一部を旅客が負担する傾向も強まっています。当初は任意制でしたが、シンガポールのチャンギ空港のような空港では、全出発便の搭乗者に対して税金を徴収することになりました。
空港は政府所有であることが多く、着陸料や、従来のジェット燃料にバイオ燃料を混合する際に発生するコストをまかなうための混合料などの規制を導入する上でも極めて重要です。一部の地域では、空港が自主的に国の基準よりも厳しい措置を試行。一例として、オランダのロッテルダム・ハーグ空港は、2030年までに、欧州の規定である「ReFuelEU」の6%を上回る8%の混合率を義務付けるとしています。
さらに、空港は航空セクターとエネルギーセクターのステークホルダーたちが交わる場所でもあります。空港は、この立場を活用して、旅客向けの情報キャンペーンを展開したり、セクター間のパートナーシップを促進したり、SAFの利用を促進するための研究を先導したりすることができるでしょう。これらの戦略を調整して、水素など他のテクノロジーの将来的な展開も支援することができます。
水素の役割
燃料源としての水素の統合は、サステナブルな空の旅に向けた重要な一歩です。しかし、これには2050年までにグローバルに毎時600~1,700テラワットのクリーンエネルギーが必要です。これは、世界最大規模の風力発電所10~25基分、またはベルギーほどの大きさの太陽光発電所1基分のエネルギーに相当します。
膨大な天然資源を有し、再生可能な資源から水素を製造できる可能性のある国々は、水素を利用した航空産業にとって戦略的な場所となり得ます。しかし、空港は、水素航空機のコンセプト、運航、供給、インフラ、燃料補給のニーズを把握するためのフィージビリティ・スタディを実施する必要があります。これらは、各地域で強固な水素航空エコシステムを発展させるために不可欠だからです。
世界の空港は、投資とビジネスチャンスという観点から、水素インフラの持つ意味を十分に理解したいと考えています。前回のACI年次総会において、空港へのグリーンエネルギーの十分な供給を確保し、適切な金融メカニズムを通じて気候変動への適応と緩和のためのインフラ整備にインセンティブを与えるなど、航空機の脱炭素化に対するグローバルな統一アプローチの必要性が強調されました。
最近では、エアバスとカナダのトロント・ピアソン国際空港の先の協定のように、空港で必要とされる水素インフラの実現可能性を探ることを目的とした、航空機メーカー、空港、航空会社間の多くの協力が行われています。
しかし、代替燃料の推進が空港運営に与える影響を評価するには、グリーンエネルギーのエコシステムにおける自然なパートナーを特定し、代替推進インフラを投資計画や運営計画に組み込む必要があります。
サステナブルな航空に向けたグローバルな移行において、マルチステークホルダー戦略を採用して排出量を削減し、ネットゼロを目指す空港は極めて重要な存在です。SAFの利用、電化、水素の潜在的な統合における積極的なイニシアチブは、より環境に優しいフライトを実現する上で空港が重要な役割を担っていることを裏付けています。
国や地域の規制当局、そして基準(例えば空港での水素補給など)の策定は、この新しい未来のマルチ燃料の普及に極めて重要な役割を果たすでしょう。