公正、多様性、包摂性

AI主導の職場が変える女性のリーダーシップ

特にAIに関するスキルを重視することで、より多くの女性がリーダーシップを発揮できるようになる可能性があります。

特にAIに関するスキルを重視することで、より多くの女性がリーダーシップを発揮できるようになる可能性があります。 Image: Getty Images/iStockphoto

Sue Duke
Head, Global Public Policy and Economic Graph Team, LinkedIn
本稿は、以下センター(部門)の一部です。 ニューエコノミーとソサエティ
  • AI(人工知能)が職場を変革する中、今年の「グローバル・ジェンダー・ギャップレポート」にあるリンクトインのデータによると、上級管理職に採用される女性の割合は低下し続けています。
  • あらゆる国や分野で、女性が上級職に就くにあたって構造的な課題に直面することが、経済成長を損なっています。
  • グローバル経済を復活させ、ジェンダー・パリティ(ジェンダー公正)を向上させるためには、女性をリーダーにするためのサステナブルかつ体系的な取り組みが必要です。

経済が不安定になると、その多大な影響を受けるのは常に女性たちでした。そして、2020年と2021年の熱狂的な採用ブームが終わり、グローバルな労働市場が冷え込んでいる今、損をしているのは女性の専門職です。採用が鈍化する中、経営の一角を担う女性が増えつつあったここ数年のわずかな進歩が帳消しにされようとしています。

世界経済フォーラムは、毎年の「グローバル・ジェンダー・ギャップレポート」でリンクトインのデータを活用し、職場における女性に関連した主な傾向を発表してきました。今年のデータでは、上級管理職における女性の割合が昨年よりも低くなっています。これは女性にとっても経済にとっても悪いニュースです。

経営に携わる女性は依然として減少

2022年、グローバルで上級管理職に採用された女性の割合は37%を超えました。その後は年々減少し、現在では36%に低下しています。

上級管理職に就く女性の割合:リーダー職に就く女性の割合の経時変化。
上級管理職に就く女性の割合:リーダー職に就く女性の割合の経時変化。 Image: Global Gender Gap Report 2024/LinkedIn Economic Graph

この割合は、米国、英国、フランスなどの主要国を含め、世界的に緩やかではありますが着実に低下しています。このことは、セクターや国を問わず警鐘を鳴らすべきものです。上級管理職における女性の割合の増分は30.9%から31.7%と、6年間でわずか1%に満たないのです。

労働力の構成比:女性は労働人口の42%を占めていますが、上級管理職における女性の割合は31.7%に過ぎません。
労働力の構成比:女性は労働人口の42%を占めていますが、上級管理職における女性の割合は31.7%に過ぎません。 Image: Global Gender Gap Report 2024/LinkedIn Economic Graph

生成AIがもたらす好機

この減速は、職場の変革期に起きています。生成AIは私たちの働き方を大きく変えつつあり、デスクワーク中心の職務に就いている人の4人に3人が現在、生成AIを業務に活用しています。

この新しいテクノロジーには新しいスキルが必要です。リンクトインは、2030年までに世界の仕事に必要なスキルセットが68%も変化すると予測しています。その多くは、チームリーダーシップ、戦略的リーダーシップ、コラボレーションなど、メンバーと共に仕事を進める際に役立つ、対人的なソフトスキルになるでしょう。リンクトインのプロファイルに掲載されるスキルのうち、ソフトスキルについては女性が男性よりも28%多いことが分かりました。

同時に、技術的なアップスキリング(技能向上)も必要です。2016年以降、AI人材における女性の割合が大幅に増加しており、とりわけAIエンジニアリングに従事する女性が増えています。

つまり、生成AIの登場は、ジェンダー・ギャップを解消する好機なのです。

女性が取り残されれば経済も取り残される

女性はグローバルな労働力の大きな部分を占めており、経済が不安定な時期には、すべての労働者が潜在能力を発揮できるようにすることがより重要になります。職場でのジェンダー・パリティを追及することは、女性の経験することだけではなく、グローバル経済の健全性にとっても不可欠です。しかし、現状、リーダーシップにおけるジェンダー・パリティを達成している国や産業は1つもありません。2024年版「グローバル・ジェンダー・ギャップレポート」では、アプローチを大きく転換しない限り、この状況がすぐに変わる可能性は低いことが示唆されています。

女性の登用が進む兆しがあることは間違いありません。ただ、教育、政府、消費者向けサービスなど、より多くの女性が新しく入ってくる業界では最終的に上級職に就く女性も増えているとはいえ、それでも経営トップにおける女性比率の低下が見られます。一方、不動産、金融サービス、サプライチェーン、運輸など、男性優位の業界では落ち込みがさらに深刻です。

女性のリーダーシップの発揮が阻害され、それが経済にダメージを与えるという悪循環に陥っているのです。

サイクルを断ち切る行動

ジェンダー・パリティとその成果を得るには、経済全体にわたる構造的解決策が必要です。現時点の私たちの答えは、立ち止まってどうしてこんなことになったのかと自問することではなく、これ以上失地が拡大する前に、迅速に行動し、軌道修正することです。

政策立案者は、企業が女性を支援するための行動を取れるようにし、そうした行動を取るよう要請して、女性がキャリアを積んでいく中で閉ざされがちな扉を開いていく必要があります。

公正な雇用慣行と、特にプレ・ミドル管理職における研修や指導スキームなど、アップスキリングとキャリア成長に対するインクルーシブなアプローチが、より多くの女性を上級職に押し上げるのに役立つでしょう。

また、従業員のアップスキリングの際にジェンダーを念頭に置くことで、女性にも男性同様にAIなどの高成長分野で学び、進歩する機会が与えられます。

採用時に候補者のスキルに焦点を当てることでも、女性が有利な立場に立つことができるはずです。リンクトインの調査によると、自分がすでに持っているスキルがどのように職務要件に合っているかを示すと、女性の応募数の増分は男性の応募数の増分の約2倍となり、採用結果にも同様の影響が見られたとのことです。

一般に女性は男性よりも在宅勤務または出社と在宅の混合勤務の職務に応募することが多いものです。このため、柔軟な働き方を促進する施策も有効です。育児や介護を担うことが女性に過剰な影響を与えることが分かっているため、職場にはこの不均衡を打ち消すポリシーがなければなりません。

今行動しなければ、経営に参画する力のある女性が失われ続け、経済への悪影響を引きずることになるでしょう。AIによって変貌する未来の職場を期待するなら、世界中の女性の足かせとなっている不公平への対処は不可欠なのです。

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