星空が「ごみ空」になる前に。日本の“木製”人工衛星が宇宙汚染対策に挑む
「宇宙とはどんなところだろう」「地球以外の星に生命体はいるのか」未知なことが多いからこそ、私たちの宇宙への好奇心は尽きない。 Image: Getty Images/iStockphoto
「宇宙とはどんなところだろう」「地球以外の星に生命体はいるのか」未知なことが多いからこそ、私たちの宇宙への好奇心は尽きない。
2021年に世界で打ち上げられた人工衛星の数は1,809機。2011年の打ち上げ数と比較すると14倍にもなる。雲の動きなどをもとに天気予報に利用される気象衛星や、山間部や海上での通信に使用される通信衛星など、人工衛星はいまや私たちの生活になくてはならない存在だ。しかしこの人工衛星が原因で「宇宙ごみ」の問題が深刻化している。
宇宙ごみとは、軌道上にある不要な人工物体のことで、故障したり運用を終えたりした人工衛星、ミッション遂行中に放出した部品、爆発や衝突により発生した破片などを指す。その数は、現在地上から追跡されている10センチメートル以上の物体で約2万個、1センチメートル以上のものは50~70万個、1ミリメートル以上のものは1億個を超えると推定される。
これら大小さまざまな宇宙ごみは秒速およそ7~8キロで地球軌道上を移動しているため、他の宇宙機や人工衛星などに衝突した場合、宇宙での活動を妨げたり、私たちの生活にも影響が出るほどの威力を持つ。実際に国際宇宙ステーション(ISS)からとみられる宇宙ごみが地球に落下する被害も報告されている。
この増え続ける宇宙ごみの回収が喫緊の課題であるが、大きさや形が多様で位置も特定しにくい。そのため現時点では、なるべくごみが出ないような衛星の作り方を模索する必要がある。
そこで、京都大学宇宙木材研究室と住友林業株式会社は、宇宙環境での樹木を育成・活用するための研究を行う「宇宙木材プロジェクト(通称:LignoStella Project)」を立ち上げ、木造の人工衛星「リグノサット」と呼ばれる世界初の木製の人工衛星の打ち上げに向けて準備を進めている。2024年4月現在、2024年9月打上げ予定でJAXAとの安全審査を実施中だという。
リグノサット(LignoSat)は、木を意味するリグノ(Ligno)と 人工衛星サテライト(Satellite)からなる造語で、金属より軽く電磁波や磁気波を通す木の特性を生かして、木箱の中にアンテナを設置したコンパクトな作りになっているのが特徴だ。
人工衛星は宇宙という特殊で過酷な環境に耐えるため、軽量でありながら丈夫な設計にする必要がある。通常、強度を必要とする部分には軽量で丈夫なステンレスやチタンが使われ、特殊な加工を必要とする部分にはアルミニウム、プラスチックなどの素材が使われる。
京都大学大学院 総合生存学館特定教授で宇宙飛行士でもある土井隆雄氏によると、衛星に使用されているアルミニウムは、運用終了後大気圏に突入して燃える際、小さなアルミナ粒子が上層大気中に放出され、長期的な環境脅威を引き起こすという。
リグノサットの開発プロジェクトでは、これまでの人工衛星に使用されてきた金属の代替品として遜色のない強度と耐性を持つ「木材」に着目した。木材は大気圏突入時に燃え尽きてガスになり、宇宙汚染を最小限に抑えることができる。
木造人工衛星1号機では、4ミリ厚の木板(パネル)を組み合わせ、日本古来の「留め形隠し蟻組継ぎ」という方法を使い、ボルトも接着剤も使わない箱型形状で作成した。昔から日本にある「自然の素材を自然な形で活用する」知恵が生かされていることも興味深い。
イーロン・マスク出資のSpaceXをはじめ、民間企業の宇宙ビジネスへの進出が著しい昨今、宇宙空間の利用はますます活発になり、今後数年間で年間2,000機を超える宇宙船が打ち上げられると予想されている。
地球も、宇宙も、私たちが暮らす場所が、ごみだらけになることを防げるように。リグノサットはその重要な一歩になるだろう。打ち上げの日を期待して待ちたい。
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