パートナーシップがサーキュラリティ拡大の推進力に
グローバル・バッテリー・アライアンスは、バッテリーの持続可能なバリューチェーンの構築を目指す、マルチステークホルダー・パートナーシップです。 Image: Unsplash
Kyriakos Triantafyllidis
Head of Growth and Strategy, Centre for Advanced Manufacturing and Supply Chains, World Economic Forum- サーキュラー・トランスフォーメーションは、幅広く経済的・環境的利益をもたらします。
- 循環型パートナーシップにより、規模を問わず様々なステークホルダーとサステナブルな建造環境を構築することができるでしょう。
- パートナーシップの成功例と、同様の成果を得るための3つの目標をご紹介します。
何十年もの間、サーキュラリティ(循環性)は、廃棄物を原料として再利用するより長持ちする製品を作るなど、持続可能性をもたらす手段として認識されてきました。最近では、企業は、レジリエンス(強靭性)の向上、新たな収益源、資源効率など、戦略的な事業目標を達成するための推進力としてサーキュラリティを活用し始めています。
環境省と世界経済フォーラムや持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)との協力が示すように、日本は、サーキュラー・エコノミーへのグローバルな移行を促進するために積極的かつ重要な役割を担ってきました。国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)では、「循環経済及び資源効率性の原則」を通じた循環型アクションの強化に関する重要なセッションを共催。さらに最近では、「グローバル循環プロトコル(GCP)」の下で協力を確認し合い、G7が承認した「循環経済及び資源効率性原則(CEREP)」に沿った活動を民間企業に奨励する上で、政府が果たす重要な役割を強調しています。
企業は、使い捨ての直線型モデルを循環型モデルに最適化し直そうとしながら、サーキュラー・エコノミーの実現に向けて一歩ずつ前進しています。しかし、サーキュラー・トランスフォーメーションのメリットを引き出すためには、構造的な変革が必要です。必要な変化をサポートするために、私たちはサーキュラー・トランスフォーメーション・フレームワークに沿った定量的調査と大企業の経営幹部とのディスカッションを行い、6つのイネーブラーを特定しました。
サーキュラリティのためのパートナーシップの価値
サーキュラー・トランスフォーメーションを成功させるために、企業にはパートナーシップが必要です。この考え方は、「循環経済及び資源効率性の原則(CEREP)」を見ても裏付けられます。その6つの原則の一つが、マルチステークホルダーによるパートナーシップと関与の重要性を強調しています。さらに、私たちの調査や経営幹部とのディスカッションでは、パートナーシップがサーキュラー・トランスフォーメーションのための重要なイネーブラーであることが明らかになりました。
2022年に行われた378人の経営幹部を対象とした調査では、回答者の大半が、パートナーシップはサーキュラリティを実現する上で価値があるとし、94%が何らかのパートナーシップに参加していることが明らかになりました。業界内の垂直型パートナーシップと業界のコアリションは、最も重要なパートナーシップのタイプと見なされています。日本市場においても、経営幹部とのディスカッションにより、同様の傾向が確認されました。
循環型パートナーシップの特徴
サーキュラリティのためのパートナーシップには、いくつかの独自の複雑さがあります。関係するステークホルダーの数が非常に多くなる傾向があり、アカデミアからパブリックセクター、その他の企業まで、より広範な企業が関与する必要があるのです。これには、バリューチェーンの上流・下流の企業や、バリューチェーンの外側、業界の変革者、あるいは競合他社までもが含まれます。
例えば、三菱電機は東京大学と提携し、サーキュラー・エコノミー・システムによるサステナブルな未来社会のための社会連携講座「持続可能な循環経済型未来社会デザイン講座」を立ち上げています。三菱電機サステナビリティ推進部部長の上野麻子氏は、「日本の最高学府である東京大学と提携することで、消費経済学の環境問題に取り組み、環境負荷を低減しながら経済成長を実現するサーキュラー・エコノミーの研究を推進することができます」と述べています。
グローバル・バッテリー・アライアンス(GBA)をはじめとする様々な組織で、このようなマルチステークホルダー・パートナーシップを通じてどのようにサーキュラリティのメリットを得るかを検討しようとしています。また、バッテリーのバリューチェーンの持続可能性を確保するため、GBAは最初の概念実証となるデジタル・バッテリーパスポートを作成しました。これは、バッテリーの持続可能性とライフサイクル要件に関するデータを収集し、報告することで、バリューチェーンのパフォーマンスを向上させるものです。2017年に世界経済フォーラムで初めてインキュベートされたGBAは、自動車メーカー、トラック&トレースソリューション事業者、バッテリー製造業者を含む、バッテリーのバリューチェーン全体にわたるマルチステークホルダー・パートナーシップを構築しました。
このマルチステークホルダー・パートナーシップの設立と運営には、意思決定の仕組みをどのように構築するか、パートナー間の連携をどのように推進するかなど、いくつかの課題がありました。GBAは競争が始まる前の段階で組織されているため、設立パートナーがパートナーシップの詳細、例えば、データや知的財産(IP)の共有、資金調達、意思決定方法などを定義できたことで、こうした複雑な問題に対処することができました。
ガバナンスについては、GBAは2年ごとに選出される20人の理事会を設置。理事会は10人の法人会員と10人の非法人会員で構成され、GBAの組織と今後の手続きを定義する憲章の変更を監督します。特定の業界や団体を優遇することなく、全体の優先事項を反映した課題を設定するよう十分な注意が払われています(例:理事会に申請書を審査する権限を与えるなど)。
議事を効果的に進行し、パートナー間の消耗を最小限に抑え、優先事項が常に満足されるようにするため、GBAは意思決定のメカニズムとして「構造的合意原則(Systemic Consensing Principles)」を活用しています。この方法論は、グループメンバー全員の抵抗感をツールとして活用して、発生した課題を探り、最初の提案を改善して、持続的な解決策をまとめるものです。
循環型パートナーシップのもう一つの例は、産業オートメーションおよび情報企業であるロックウェル・オートメーションと、包装企業であるシールドエアーが、循環型機械ソリューションを強化するために結んだものです。
これらの企業は、既存の包装設備を再利用し、紙などのよりサステナブルな新しい素材の利用に取り組みました。このようなサステナブルな素材には、多くの場合、機械制御の面で大幅な追加が必要ですが、ゼロから新しい機械を製作することはコスト効率が悪く、環境にも優しくありません。そのため、両社は、古い機械を改修して新しい機能を搭載することを選択しました。この目標を達成するために、両社は互いの専門知識を持ち寄りました。ロックウェルの上級グローバルOEM技術コンサルタントは、産業オートメーションと制御プログラミングに関する必要な知識と能力を持っており、シールドエアーのエンジニアは機械コードとオートメーション機器に変更を施す方法を知っています。
ロックウェルは、パートナーを選ぶ際に既存の関係を優先したことで、迅速なアクションと規模の拡大を実現しました。また同社は、これに加えてパートナーシップが持つ影響力を認識している企業を選びました。シールドエアーは、自社製品にサステナブルな包装を求めることが多い大手消費財企業を含む顧客に、望ましい成果を提供することができるようになるでしょう。さらに、将来需要が爆発的に増加する可能性のある産業である「サステナブルな製造」のための能力を戦略的に開発しているロックウェルも同様に、パートナーシップからさらなる価値の源泉を得るでしょう。
得られる成果
将来、世界中の企業は、原材料の不足やサプライチェーンの混乱といった問題に直面するでしょう。バリューチェーン全体がそうであるように、GBA、ロックウェル、シールドエアーのような組織は、循環型モデルを拡大し、最善のポジションを確立するための行動を起こしています。このような避けられない将来のアウトカムに対するレジリエンス(強靭性)を高めようとしているのです。バリューチェーン全体、そして、バリューチェーンを超えて他の企業と提携することで、サーキュラー・トランスフォーメーションを達成し、経済性と持続可能性の両面で幅広い利益を生み出すために必要な能力が得られるでしょう。
同様の結果を得るために、私たちは実践的な次の3つのステップを提案します。
- 求めるマルチステークホルダー・エコシステムの構造(含める必要のある相手やその理由)を明確に決定すること。
- パートナーシップを管理するメカニズム(インセンティブ、決定権、新規メンバーなど)を前もって正確に定義すること。
- 「ビッグバン」に向けた準備をしすぎて行動する機会を失うことのないよう、準備は十分に行いつつも、成長するための迅速な反復をモデルに組み込み、小さく始めること。
よりレジリエンスの高い、豊かな未来のために必要なパートナーシップを検討し始めることが極めて重要です。世界経済フォーラムは、ベイン・アンド・カンパニー、ケンブリッジ大学とともに、企業がサーキュラー・トランスフォーメーションを開始し、スケールアップできるよう支援する「産業のサーキュラー・トランスフォーメーション」イニシアチブを推進しています。
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