ケアエコノミーの未来 - コラボレーションと「ケアマインドセット」が鍵
80億人に達した世界人口。私たちは皆、いつか人の手を借りて生活をするようになります。 Image: Unsplash/Red John
- 世界のケアニーズは急速に増加する一方、多くの国で無報酬労働や不公平なケアの取り決めが蔓延していることが、世界経済フォーラムの最新の白書で明らかになりました。
- 白書、「ケアエコノミーの未来」は、グローバルなケアシステムの現状と、よりパフォーマンスと公平性の高いケアシステムを構築するために克服すべき課題を探るものです。
- 繁栄と成長を支える強力なケアエコノミーの構築には、各国政府、企業、地域社会のステークホルダー間の緊密な協力が不可欠です。
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人類は80億人を超えて増え続けており、皆が人生の大半で誰かのケアをし、ケアを受けています。食料生産、子育て、地域診療所、衛生設備、学校教育、理学療法、遠隔医療、老人ホームなど、多くのプロセスや人間関係が、広大で複雑なケアエコノミーをグローバルに構成しているのです。
しかし、ケアに関する商品、サービス、インフラは不十分で、アクセスしにくく、手が届かない人が多く存在します。さらに、ケアは社会的・経済的生活の貴重な要素であるという認識のの欠如により、家庭でケアを担う人々や介護者は就労やスキルアップの機会を得られず、偏見にさらされ、地域生活から疎外され、さらには自分自身のケアさえもできなくなることがあります。
世界経済フォーラムの「ケアエコノミーの未来に関するグローバル・フューチャー・カウンシル(Future Council for the Future of the Care Economy)」による最新の白書「ケアエコノミーの未来(The Future of the Care Economy)」は、ケアエコノミーの現状を概観し、ケアに関する取り組みをステークホルダーが連携して進めるための基本的な枠組みを示しました。ケアを安価でアクセスしやすく、サステナブルで質が高いものにすること、そして、最も重要なこととしてすべての人にとって経済上の優先事項とする必要があるのです。
国によるケアの格差
多くの国があまりに長い間、不安定で不公正な最小限の合意の上に成り立つケアに依存してきました。
2022年の米国労働統計局によるデータでは、親が6歳未満の子どもの世話に費やす時間は年間750時間強。これは、4.6週間分の標準労働時間、または、米国の大学で16単位を履修するのに相当します。コロンビアでは、女性は有給労働(7.7時間/日)よりも日常の家事(8.3時間/日)に多くの時間を費やしています。
労働条件の改善、育児格差の解消、家族全体のニーズを近隣で満たすことのできる都市空間の整備など、各国政府と企業が力を合わせれば、ケアを提供する人とケアを受ける人の生活は文字通り一変するでしょう。
未来を見据えるステークホルダーは、ケアに投資する機会を見逃しません。
企業は、多世代介護手当を提供することで人材を維持・獲得しています。特に、高齢化が進む国や社会的保護ネットワークのない国において、その重要性は高く魅力的です。
各国政府は、ケアを経済的優先事項のトップに据え、人口動態、環境、テクノロジーの変革において、ケアの権利を含む規範的枠組みを拡大しています。それにより、自国の経済が将来にわたり成長を続けることができるようになるからです。
現状把握
「ケアエコノミーの未来」は、ケアに関する制度が直面するいくつかの重要な課題を浮き彫りにしています。
第一は、無報酬のケアに対する過度の依存です。世界では、20億人近くが報酬なしにフルタイムのケア提供者として働いており、国際労働機関(ILO)のデータによると、これはグローバルGDPの9%に相当します。ラテンアメリカのような地域では、その割合は地域のGDPの4分の1にもなると推定されています。
ケア労働の大半は女性が担っており、移民の女性がグローバルなケアエコノミーの顔として台頭しています。また、世界的に見て、女性は男性の2.5倍の時間を無償のケアの提供に費やしています。
もう一つの要因は、有料ケア分野の不安定性です。ケア需要が高まる一方、ケアワーカーの賃金は低いままで、英国のような国では全労働者の賃金の80%に満たない場合があります。米国では、1990年から2017年の間に他の分野の賃金上昇率が4倍であったのに対し、ケアワーカーの賃金上昇率はわずか12%だったと、白書は報告しています。
同時に、利用可能なケアの提供には格差があり、例えば、幼い子どもを世話する親などの無報酬のケア提供者には、能力開発や雇用機会へのアクセスが妨げられています。
ILOの推計によると、育児政策の格差により、10人に9人の親が自分で代替ケアを探さなければならない状況にあり、その結果、主たるケア提供者(その多くは女性)が働けなくなってしまうのです。
成長エンジンとしてのケア
世界保健機関(WHO)によると、2030年までに60歳以上の人口は40%増加し、2050年には2倍になると予想されています。この人口動態の変化は、すでに存在するケアへのアクセス格差に拍車をかけ、ケアワーカーに対するさらなる需要を生み出すでしょう。
自動化により、他の労働者がリスキリングを余儀なくされている中、介護の仕事は、その不安定な性質にもかかわらず重要性を増しています。
世界経済フォーラムによると、ヘルスケアを成長エンジンに変えるには、公的支出の拡大と民間投資の拡大という2つの要素が不可欠です。
経済協力開発機構(OECD)加盟7カ国を対象とした調査によると、GDPの2%をケア産業に投資することで、全体の雇用を2.4%から6.1%増加させ、2,200万人近い雇用を創出できることがわかりました。これは、建設業に同じ投資をした場合の2倍に相当します。
パブリックセクターのコミットメントと並んで、企業にもケアエコノミーの未来を形作る手助けをする責任があります。従業員に育児手当/介護手当を支給する企業が増えれば、ケア分野の成長が促進されるだけでなく、病休や欠勤が減り、関連する生産性の低下も抑えられるでしょう。
ケアネットワークの再構築
ケアの複雑な性質を踏まえ、白書は世界のケアシステムが直面するさまざまな課題を克服するために、政府、企業、地域社会が協力することを呼びかけています。
これまでのところ、ニーズの異なるこれらのステークホルダーはそれぞれ独立した行動を取っているめ、ケアへの共同的かつ積極的なアプローチを構築し、繁栄と成長の原動力とするためにはその連携を強化する必要があると、同フォーラムは述べています。
将来的に質の高いケアを提供するための仕組みやプロセスへの投資は不可欠です。これには、ケアを提供する人と受ける人のニーズへの対応強化、質の高いケアの確保、導入システムの持続可能性、公平性と責任の共有などが含まれます。
「ケアエコノミーの未来」では、ケアエコノミーを再構築し、強化するための新しいケアモデルと実践についても探求されています。これには、国レベルのケアシステムの強化や、都市や郊外のケアフレームワーク、共同保育施設のようなコミュニティ主導のアプローチなどが含まれます。
また、ケア提供への投資や、デジタルケアなどの技術イノベーションへの貢献など、企業もケアエコノミーにおいてより大きな責任を負うべきであると提案されています。
ただし、このようなモデルを機能させるには、ケアを経済における優先事項に掲げ、一方では、ケア労働者の公平な参加と公正な報酬を確保する必要があります。ケアエコノミーの再構築と強化は、そのような「ケアマインドセット」の普及と協力によってのみ、達成できるのです。
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