未来思考:世代を超えた意思決定のための心の整え方
もしあなたが未来思考なら、未来の自分に何を語るでしょうか。 Image: Pexels/Paula Schmidt
Ewa Lombard
Senior Researcher, Lab for Uncertainty, Collective Intelligence and Decision-Making, University of Geneva- 社会のポジティブな未来を信じることが、現在の人々の行動や意思決定に影響を与えるという研究結果があります。
- ポジティブな未来を信じると、そのモデル化された未来が単に遠くにある理想ではなく、実現しそうな予測になるように行動が変わるのです。
- より良い未来を想像することは難しいかもしれませんが、ロールプレイングやシミュレーションで未来思考を身につけることで、ポジティブな未来を想像する力を高めることができます。
空いている椅子を想像してください。これは、2050年のあなたです。そして、この椅子に腰をおろし、気候変動という課題に直面しながらも勇気とレジリエンス(強靭性)に満ちた未来の自分の姿を思い浮かべ、この未来の自分にあなたの恐れや懸念について率直に話してみてください。知恵と安心感にあふれた未来の自分がくれる答えに耳を傾けましょう。不確実な状況を乗り切るための指針を与えてくれるでしょう。あなたの中に、恐れを克服し、サステナブルな未来への希望を抱く能力があることに気づいてください。
この短い心理劇の台本は、「エンプティ・チェア(空の椅子)」と呼ばれる手法に基づいています。過去の難しい感情に対処したり、将来の会話や状況に備えたりするために行われるもので、未来思考のグループワークにおいて、気候変動による未来への恐怖を和らげるのにも役立つ手法です。
戦略的先見性をもたらすシナリオ思考
シナリオ思考は、戦略的先見性(または戦略的未来洞察)の分野で極めて重要なツールです。10年以上の時間軸で、起こり得る未来を予測するために用いられます。特に不確実性が高い状況において、シナリオが意思決定の助けとなります。
シナリオの作成というプロセスを経ることで、意思決定者とその組織は、未来がもたらす潜在的なリスクと機会にうまく対処できるようになります。また、未来に関する現在の思い込みを調整するための予測モデルも提供します。
予測やテストは、人間の脳がどのように世界を認識し、学習していくかの基礎となるものであり、仮定の経験をあらかじめ体験しておくことで、同じような状況に陥ったときの対応を前もって訓練しておくことができます。言い換えれば、未来の記憶を作るということです。そうすることで、脳にとって意味のあること、可能なこと、受け入れられることの幅を広げ、新しい現実が引き起こす可能性のある感情、行動、決断を事前に体験することができます。
今、未来思考が重要な理由
未来学者の多くは、様々な未来を想像する際の利用可能性バイアスや確証バイアスといった認知バイアス(偏見)について警告しています。しかし、主観的に信じ難いことをふるい落とすだけでなく、私たちの心は、遠い未来のことを想像したり、単に話したりすることによってかき立てられる恐怖や不安を避けている可能性があります。
2024年9月に開催予定の国連未来サミットを間近に控えながらも、国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)が推進する「未来リテラシー」(未来を効果的に活用する能力)について、まだピンとこない人が多いのではないでしょうか。2050年という、遠い将来のことを想像するのは難しいかもしれません。それは、人間が未来を認識できる一般的な時間軸は10年とされているからです。特に、開発途上国やそのコミュニティのように、生存の必要性を満たすことが優先される場合はなおさらです。
神経科学的には、未来思考(プロスペクションとも呼ばれます)は、個人が自分の未来をシミュレーション、想像、計画、予測することを可能にするいくつかの精神的プロセスから成ります。実際、記憶と未来想像は同じ神経認知メカニズムを通じて複雑にリンクしており、どちらも現在の精神状態(気分や感情)、過去の経験、そして「未来展望」として知られる性質に影響されます。
未来のネガティブバイアスを生み出す原因
個人の心象風景は、ポジティブな未来を思い描く能力に大きく影響します。研究は、過去に対する負の感情(頭を離れない嫌な記憶、反芻、後悔として現れる)と、未来に対する悲観的な見通しとの間に有意な相関関係があることを明らかにしています。
未来に対する負の感情が、未来への絶望感、ネガティブな予測、思考停止につながります。そうなると、ポジティブな未来を想像し、それに向かって努力する能力が阻害されてしまいます。同様に、うつ病、燃え尽き症候群、無気力が、未来を想像する能力を低下させます。さらに、環境悪化への懸念に煽られたエコ不安や、ソラスタルジア(故郷がなくなってしまう恐怖など、環境変化による実存的苦痛の一種)が高まれば、未来のために前向きに行動する自分の能力を信じることができなくなるでしょう。
未来思考に集中することは、このような恐怖の出現につながり、私たちの想像力を集団的なディストピアのビジョンに閉じ込めてしまうかもしれません。
強力な動機づけとなる、ポジティブな集団的未来への信念
一方、社会のポジティブな未来を信じることが、現在の人々の行動や意思決定に影響を与えるという研究結果があります。24カ国、6,000人以上の参加者から得られたデータによると、経済発展や科学の進歩、そして、将来より思いやりのある道徳的なコミュニティを築くことへのメリットを信じることが、公的、私的、財政的な環境保護行動への個人の関与につながることが示唆されています。
ポジティブな未来を信じると、そのモデル化された未来が単に遠くにある理想ではなく、実現しそうな予測になるように行動が変わるのです。実際、エピソード的な未来思考は、最終的に私たちの意思決定や行動に影響を与え、目標追求に有利に働きます。
未来思考と意思決定の間には、未来に対する心理的・時間的距離を縮めることから、未来の結果の推定確率を高めることまで、様々なつながりがあります。エピソード的未来思考や集団的未来思考は、想像した出来事が将来起こる(または起こらない)という感覚を形成することによって、共通の目標の追求を促進する可能性があります。これは、研究において「未来の出来事に対する確信」と呼ばれています。
未来思考のためのロールプレイングとシミュレーション
集団的未来思考の研究はまだ始まったばかりですが、社会心理学者と未来学者は強い関心を寄せています。注目すべき最初の研究の一つにおいては、数十年にわたる紛争を経験した集団では、平和への希望が高齢者よりも若い世代で低いことが示唆されました。この研究では、興味深いことが分かりました。参加者に老いた自分の手を見せ、自分が80歳であることを想像して、3分の間、過去を回想するように誘導する仮想加齢体験の後、参加者の平和への希望の度合いが増加したのです。
気候変動に関する現在の予測を考慮すると、今よりも良い未来を想像することは難しいかもしれません。しかし、この研究事例は、ロールプレイやシミュレーションに基づく介入が永続的な印象を生み出し、ポジティブな集合的未来を想像する能力を増強することができることを示しています。
例えば、ワークショップに参加して、未来の自分を具体的に想像したり、今日の選択を25年後の成長した子孫に説明したりすることができます。このような没入型体験は、未来との深いつながりを生み出し、次世代への共感と責任感を育みます。あるいは、未来への恐れと決別し、今を行動する力を与えてくれるでしょう。
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