急増する日本の「空き家」を地域資源に
高齢化と人口減少が進む日本では、空き家が急増しています。 Image: Unsplash/Pepe Nero
- 日本では、適切に管理されないまま放置された空き家が増加しており、その多くは相続によるものです。
- こうした空き家の増加抑制に向け、政府、地方自治体、スタートアップによる官民連携が加速しています。
- 新築住宅価格の上昇により中古住宅への需要が高まる中、空き家の有効活用は住宅市場の活性化を促し、持続可能かつ活気あるまちづくりに大きく貢献すると期待されます。
高齢化と人口減少に伴い、空き家が急増しています。総務省の調査によると、2018年までの20年間で空き家の数は1.5倍の約849万戸に増加。これは、住宅総数に占める空き家の割合が約8軒に1軒であることを意味し、2038年には、2,303万戸にまで増加すると推計されています。
同調査では、こうした空き家を、「賃貸用」、「売却用」、「二次的(別荘等)」住宅と、長期にわたり人が住んでおらず放置されている「その他の住宅」の4種類に分類。その中でも、「その他の住宅」は、約849万戸に上る空き家の40%以上を占めています。さらに踏み込んだ「空き家所有者事態調査」によると、売ることも貸すこともないまま時間が経過したこうした空き家の約90%が戸建てで、そのうち約70%が築40年以上となる1980年以前のものであることがわかりました。
こうした空き家の約59%は、相続によるものであることもわかっています。代々住んでいた家を相続したものの、現在の居住地から遠く、管理が行き届かないといった理由で放置されているのです。また、住宅用地の固定資産税は最大6分の1に軽減されるという現行の優遇措置により、空き家を撤去しない方が所有者の税負担が抑えられることが、空き家の増加を助長しているとされています。
法改正で本格化する政府の空き家対策
老朽化による倒壊、衛生面や景観の悪化、地域住民の生活環境への悪影響など、適切に管理されていない空き家がもたらすリスクは、住宅や街の価値低下を招きます。政府は、増加する空き家のへの対策として、2015年に「空き家対策特別措置法」を施行。放置すると倒壊のおそれがあるなど特に危険性の高い物件を「特定空き家」に指定し、撤去や修繕を所有者に命ずるほか、応じない場合は行政代執行で取り壊し、その費用を所有者に請求すると定めました。また、同法は昨年12月に改正され、窓や壁の一部が壊れるなど、放置すれば特定空き家になるおそれがある物件を新たに「管理不全空き家」に指定し、状況が改善されない場合には固定資産税の減額措置を解除するとも明記しています。
地域特性に応じた空き家対策
自治体による空き家対策も加速しています。全国の自治体で最も多い約5万戸の空き家があるとされる世田谷区では、空き家発生の予防の一環として、高齢者が抱える課題の解決を支援するNPO法人都民シルバーサポートセンターと提携し「遺言」の作成を支援。高齢者が健康なうちに「遺言」を残すことで、土地の資産価値が高いために遺産分割協議が長期化し、空き家が発生するという同区特有の課題に対応しています。
空き家解消に取り組むスタートアップ
クラッソーネは、空き家を処分したい個人に、同社が提携する1,900社以上の解体業者から適切な企業を紹介するマッチングサイトを運営。AIによる空き家解体費用や解体後の土地売却査定価格のシミュレーションから、跡地利用に至るサービスまでを一括提供しています。さらに同社は、全国の75の自治体と連携し、自治体単体では対処しきれなかった空き家の適切な除却・管理や、特定空き家の行政代執行回避などに貢献しています。
また、リノバンクは、リノベーションで空き家物件を再生し、空き家の解消と中古住宅市場の活性化を目指しています。中古住宅となる空き家の情報とそのリノベーション価格を同時に検索できるポータルサイトを運営すると同時に、所有物件の価値をウェブ査定できる空き家所有者向けのサービスも提供することで、空き家の活用を包括的にサポート。現在、中古住宅のリノベーション後のイメージ画像を短時間で自動生成するAIモデルの開発も進めています。
さらに、エイジテクノロジーズは、空き家を生む大きな要因である相続への課題にアプローチ。煩雑な不動産相続手続きの作業をワンストップで完結するウェブサービスを提供することで、空き家の正しい相続登記と、適切に不動産が管理されるための基盤作りを進めています。
連携して、住宅市場の活性化と持続可能なまちづくりを
2023年9月、不動産、金融、ITなど分野を超えた11の企業・団体は、「全国空き家対策コンソーシアム」を設立しました。情報発信や政策提言、意見交換などを通じて、空き家の増加抑制に向けた官民連携の強化を図ります。同コンソーシアムの理事を務めるライフルの井上高志代表取締役社長は、今あるとされる約850万戸の空き家のうち約500万戸が活用されれば、30兆円規模のマーケットを創出することができるとの見方を示し、空き家課題の解消がいかに大きな可能性となるかがわかります。
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