宇宙からの情報が、気候変動研究を新たな境地へ
人工衛星やその他の最新技術が、地球の観測に役立てられています。 Image: Unsplash/SpaceX
- 1990年代に地球温暖化による極域の氷床の急速な変化を明らかにした初の地球観測衛星が、地球の大気圏で燃え尽きました。
- 本稿では、国際宇宙ステーションに配置された機器から超小型衛星まで、宇宙から地球の健康を監視する最新技術を紹介します。
- 世界経済フォーラムは、気候変動に関する膨大なデータをオンラインリソースとして「グローバル・エコシステム・アトラス」に統合することを目指しています。
先月、欧州宇宙機関(ESA)の運用済み地球観測衛生「ERS-2」が大気圏に突入して燃え尽き、その役目を終えました。ERS-2は、「ヨーロッパにおける地球観測の祖父」と科学者たちが呼ぶ2つの衛星のうちの最後の一つであったと報じられています。
1990年代初頭に打ち上げられた2つのERS(ヨーロッパリモートセンシング)ミッションは、海氷、森林伐採、オゾン層の状況など、地球の健康に関わる極めて重要なデータを収集し、大気、土地、海洋の研究を前進させる知見をもたらしました。
また、気候変動に関わる懸念事項を明らかにしたともBBCは報じています。極域の氷床は、数十年後まで気候変動の影響を受ける可能性が低いと考えられていましたが、ERSの情報により覆され、すでに劇的な変化を遂げていることがわかったのです。
2011年にミッションを完了したERS-2は、宇宙からの地球観測の基盤を築きました。では、これに続く衛星はどのように進化しているのでしょうか。
1.「PACE」による植物プランクトン観測
プランクトン(Plankton)、エアロゾル(Aerosol)、雲(Cloud)、海洋エコシステム(ocean Ecosystem)の頭文字からなる「PACE」は、NASAによる最新の地球観測衛星です。2月に打ち上げられたこの衛星は、地球の気候を左右する重要な存在である海の植物プランクトンや大気中の微粒子を観測。生態系や気候変動に関する研究に役立つ貴重なデータが得られると期待されています。
PACEには、二酸化炭素を吸収して細胞物質に変換することで、地球の炭素循環において重要な役割を果たしている植物プランクトンの分布を追跡する観測装置が搭載されています。この装置は、漁業の健全性、有害藻類の繁殖、海洋環境の変化も同時に調べることができます。
その他の観測装置は、太陽光が大気中の粒子とどのように相互作用するかを調べ、大気エアロゾル、雲の特性、大気の質などの情報を提供します。
2. 国際宇宙ステーションから地球を監視
地上約400キロメートル上空を飛んでいる国際宇宙ステーション(ISS)では、特有の視点から地球を観測することができ、軌道上では地球の人口の90%が視野に入ります。さらに、約90分で地球を1周するISSでは、1日に16回の日の出と日没を見ることができます。
例えば、宇宙飛行士が撮影する写真は、嵐や火山の噴火をリアルタイムで追跡するための主要なモニタリングソースの一つです。NASAによると、これに加え、宇宙ステーションの外側に配置された数々の機器が気候データを収集しています。ISSで収集されたデータは、大気中の鉱物塵粒子から海洋表面温度やオゾンのような大気ガスまで、温暖化、寒冷化、大気の質に影響を与えるさまざまな要素を含みます。
3. 宇宙を探索し、気候データを収集する「Cube Sat」
靴箱サイズの超小型衛星「CubeSat(キューブサット)」は、ERSミッションの孫とも言える存在です。
ISSから打ち上げられ、新しい気候科学の実験を行うCubeSatは、気候変動科学における研究領域の拡大に貢献します。
CubeSatはモジュール式で高度に統合され、市販のハードウェアを使用します。これにより、ミッションの特定のニーズにスケーラブルに対応することが可能。また、標準化されているため、打ち上げロケットの標準輸送コンテナに簡単に収めることができ、低コストでより多くの打ち上げ機会を得ることができます。
4. 海洋と陸地の表面温度を測定する「SLSTR」
ESAの地球観測プログラム「コペルニクス」の一環として、「Sea and Land Surface Temperature Radiometer(SLSTR、海と陸の表面温度放射計)」が打ち上げられました。2016年と2018年に打ち上げられた2つの「Sentinel」衛星に搭載されたSLSTRシステムは、2024年と2025年に計画されている2つのミッションでも使われる予定です。1990年代から2000年代初頭にERSツインズによって行われた観測作業を継続するために設計されたSLSTRシステムは、海面地形だけでなく、陸地と海洋の表面温度に焦点を当てています。
今後の打ち上げにより、科学者たちは40年分の海面温度データを入手することができ、長期的な気候傾向への理解の促進が期待されます。さらにこの衛星は、2050年以降の脱炭素政策の影響の測定を可能にするベースラインの確立にも役立つと見込まれています。
5. 「MethaneSAT」が宇宙からメタン汚染を追跡
3月に打ち上げられた「MethaneSAT(メタンサット)」は、地球の健康状態を監視する最新の人工衛星です。その目的は、世界中の油田やガス井からのメタン排出量の確認と定量化を行い、排出損失率と時間の経過に伴う変化を追跡すること。
天然ガスの主成分であるメタンは、二酸化炭素に次いで地球温暖化への影響が大きいガスです。過去200年間で、大気中のメタン濃度は2倍以上に増加しています。
MethaneSATは、米国の非営利団体である環境防衛基金(EDF)とニュージーランド宇宙局によって共同開発され、石油・ガス業界に対して責任を問うことを目指しています。また、欧州連合や米国で今後導入されるメタン関連規制の遵守に備える企業の役に立つとも見込まれています。
あらゆるデータを統合し、地球を包括的に理解する
気候に関する膨大なデータが地球上や宇宙で生成されています。世界経済フォーラムの主要な目標の一つは、こうしたデータをオープンかつオンラインのリソースとして統合すること。同フォーラムの「グローバル・エコシステム・アトラス(Global Ecosystems Atlas)」は、生態系の状況の包括的な把握、保全目標の設定、規制の順守の監視、未来の食料・健康・モビリティシステムの設計に寄与することを目指しています。
また、世界経済フォーラムは独自の地球観測コミュニティを設立し、地球観測データがビジネス、人、地球に価値をもたらす方法に関する対話を促進しています。
同コミュニティについて詳しくは、こちら。参加方法や最新のブリーフィングペーパー「地球観測におけるAIの触媒的ポテンシャル(The Catalytic potential of Artificial Intelligence for Earth Observation)」についても概説しています。
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2024年11月21日