新興テクノロジー

ガブテックは、公共イノベーションで信頼を再構築できるか

Night-time aerial image of Berlin: GovTech could be worth $1 trillion by 2028.

ガブテックは、2028年までに1兆ドル規模に成長する可能性があります。 Image: Unsplash/S. Widua

Stephan Mergenthaler
Managing Director, Chief Technology Officer and Head of Artificial Intelligence, World Economic Forum
Sebastian Buckup
Managing Director, Centre for Nature and Climate and Forum Foundations, World Economic Forum
本稿は、以下センター (部門)の一部です。 第四次産業革命センター
  • ガブテック(GovTech)は、世界最大のソフトウェア市場の一つとなり、2028年までに1兆ドルを超える規模になると予想されています。
  • ソリューションが、人々に焦点を当て、デジタル・デバイド(情報格差)解消に役立つ効果的なものであれば、市民と国家間の信頼を強化することができます。
  • スイスのダボスで開催された、世界経済フォーラム年次総会2024で、同フォーラムは、ドイツ、ウクライナとの戦略的パートナーシップを構築し、ガブテック開発を加速させることを発表しました。

起業家的公務員、創造的官僚機構、アジャイルな安定性、デジタル国家。

これらの言葉は矛盾しているように聞こえますが、世界の複雑な社会課題に取り組む基礎となるものです。そして、これらのアイデアはすでに世界の一部で現実のものとなりつつあります。世界最大級のソフトウェア市場になるであろうもの、それはガブテック(GovTech)です。

ガブテックとは、AI(人工知能)、高度なセンシング、ブロックチェーン、高度なデータ処理など、デジタル化と新テクノロジーを応用して効率を高め、コストを削減し、まったく新しい公共価値を創造することにより、公共サービスの提供を改善することを指します。

この分野は、2028年までに1兆ドルを超える規模になると推定されており、公共サービスをより効率的かつ効果的で、市民が利用しやすいものにするために欠かすことのできないものです。ガブテックは、競争が激化し、デジタルネイティブな市民からの期待が高まる中で、各国政府がアウトカムを提供し、信頼を構築・維持できるかどうかの鍵を握ることになるでしょう。

公共イノベーションの加速

スイスのダボスで開催された世界経済フォーラム年次総会2024で、同フォーラムとガブテック・キャンパス・ドイチュラントは、グローバル・ガバメント・テクノロジー・センター・イン・ベルリン(GGTCベルリン)の設立を発表しました。ガブテック・キャンパス・ドイチュラントは、政府とパブリックセクターの変革を加速させるための新たなテクノロジーとイノベーションのプラットフォームで、ドイツ連邦政府とドイツ連邦州が共同で設立しました。

GGTCは、パブリックセクターのイノベーション、デジタルトランスフォーメーション、組織における新技術の応用に焦点を当てる予定です。

新しく設立されたこのセンターは、世界経済フォーラムのガブテック・ネットワークのハブとして機能し、ガブテック・キャンパス・ドイチュラントの深い専門知識と、同フォーラムのグローバル・コミュニティや招集力を活用します。また、グローバルなベストプラクティスを紹介し、その規模を拡大するためのワークストリームを立ち上げることで、各国政府のデジタルトランスフォーメーションを加速させ、新たな公共価値の創造を支援します。

「私たちは今、ガバメントテクノロジーの時代を迎えようとしています」と語るのは、ガブテック・キャンパス・ドイチュラントの理事長であり、ドイツ連邦政府の最高情報責任者であるマルクス・リヒター氏。「テクノロジーが政府と行政に与える影響の規模は、我々の歴史における政府の変革のどの時期よりも巨大なものになる可能性があります」。

「私たちは、世界経済フォーラムと提携し、セクター横断的な共働、共創、共学習の新たな手法をテスト・実践し、洗練させることができる、国際的なガブテックセンターを構築できることを誇りに思います」と、同氏は付け加えました。

この発表に続き、同フォーラムは、ウクライナのデジタルトランスフォーメーション省と、同国の首都キーウにガブテックセンターを設立する意向書を交わしました。ウクライナは、ガブテック大国としての実績があり、同センターは政府のデジタルトランスフォーメーション、電子政府の開発、デジタルリテラシーの普及に焦点を合わせる予定です。

ウクライナのイノベーション・教育・科学技術開発担当副首相兼デジタルトランスフォーメーション担当大臣、ミハイロ・フェドロフ氏は、「このパートナーシップに大きな期待を持っています」と述べています。

しかし、ガブテックが真に変革をもたらすためには、公共サービスと国家のデジタル変革に取り組むアプローチを変革する必要があります。

ツールボックス

ガブテックとは、単一のテクノロジーではありません。公共の課題に対処するための一連の技術ツールの応用であり、決済などの公共デジタル・インフラや、医療、福祉、教育、さらには、国家的・国際的危機発生時に各国政府の提供するサービスまでを含みます。

国際電気通信連合(ITU)のドリーン・ボグダン=マーティン事務局長は、パンデミック(世界的大流行)は、ガブテックとデジタル公共インフラの重要性に対して警鐘を鳴らしたと指摘しています。

ダボスで開催された年次総会2024では、ほぼ全人口に普及したインドのデジタルIDシステム「Aadhaar」、ウクライナで約2,000万人が利用しているデジタル・パスポートなど主要文書への世界初のアクセスアプリ「Dia」、金融包摂を拡大するブラジルのデジタル決済システム「PIX」など、グローバルな成功事例が取り上げられました。

これらの成功の原動力となったのは、協働、政治的意志、そして価値観に基づく創造的思考です。今後、市民、テクノロジー開発者、各国政府が同様の取り組みを設計・実施するためには、重要な役割があります。欧州議会議員のエヴァ・メイデル氏は、ガバメントテクノロジーの早期導入者がその成功を世界と共有することが重要だと述べています。

重要なのは「人」

「重要なのは、テクノロジーではなく人々にサービスを提供し、彼らのニーズを理解することです」と、トーゴのシナ・ローソン デジタル経済・変革担当大臣は強調しています。「そのため、ガブテックのリーダーたちは、技術中心ではなく、人を中心に据えた視点を持つ必要があります」。

ガブテックの効果を引き出すには、各国政府が市民のニーズに耳を傾け、積極的に対応する必要があります。同様に、テクノロジーを提供する事業者は、従来の販売アプローチを取るのではなく、各国政府の声に耳を傾け、インパクトのある公共アウトカムを提供し、共同創造を行うためのニーズを理解する必要があります。

各国政府がテクノロジー事業者や市民と協力し、ガブテックが分かりやすく使いやすいものになるようにすることが成功の鍵となります。実際、ガブテックの課題はすでにコネクティビティからデジタルリテラシーへ、そして、カバレッジから利用状況へと拡大しています。ウクライナのミハイロ・フェドロフ副首相兼デジタルトランスフォーメーション担当大臣氏は次のように述べています。「サービスを提供することと、サービスの質を向上させ続けるためにユーザーデータを分析することは別のことです」。

真の構築を目指すのであれば、パブリックセクターこそが重要な場所でしょう。

ボサン・ティジャニ ナイジェリア通信・イノベーション・デジタル経済担当大臣

創造的な思考

ガブテックは複雑な課題を対象とするため、革新的思考が必要です。また、テクノロジーを利用して各国政府と市民の関係を変革し、社会のニーズに応えるには、開発の指針となる価値観や原則の枠組みも必須になります。

ナイジェリアのボサン・ティジャニ 通信・イノベーション・デジタル経済担当大臣にとって、テクノロジーはエキサイティングでチャレンジングな分野です。「真の構築を目指すのであれば、パブリックセクターこそが重要な場所でしょう」と同氏。さらに、ガブテックには「ステルスモード」が存在しません。アカウンタビリティが最も重要です。

そのため、何よりも先に、ハイテク人材を政府に迎え入れ、公共サービスの提供に不可欠な政府プロセスに関する専門知識を持つ政策立案者や公務員の業務を補完し、強化する必要があります。これには、人材開発プログラムや官民連携の活用が有効です。また、同フォーラムとガブテック・キャンパス・ドイチュラントが共同で設立したデジタルプラットフォーム「Atrium」のような、知識共有やコミュニティ形成のイニシアチブを通じて人材の力を強化することも可能です。

未だ残る障壁

ガブテックが持つ大きな可能性は、本来最も恩恵を受けるはずの世界の一部の地域におけるデジタル・デバイド(情報格差)により妨げられています。パンデミックはグローバルなデジタル化を劇的に加速させましたが、世界人口の33%、26億人が未だオフラインのままであり、デバイスの価格やデジタルスキル不足、デジタル・インフラへのアクセスといった根強い障壁が浮き彫りになっています。

これは、特にグローバルサウスで顕著です。5Gや光ファイバーなどの高度な接続インフラがないため、AI、ブロックチェーン、IoTなどの革新的な技術が制約されているのです。

こうした課題は、コネクティビティのみならず、デジタル・インクルージョンとインパクトあるガブテック・イノベーションの基盤として、緊急にデジタル・デバイドを解消する必要性を浮き彫りにしています。第4次産業革命センターのイニシアチブである「エジソン・アライアンス(EDISON Alliance)」はこの格差解消に向け、企業とパブリックセクターのリーダーたちを結集しています。

年次総会で同アライアンスは、パートナー各社のデジタルソリューションが、127カ国の320のイニシアチブを通じて7億8400万人の生活を向上させたことを発表しました。この大きな進展により、2025年までに次の10億人を接続するという目標に近づいています。

成功への道

ガブテック・イノベーションの成功は、ホリスティック(全体論的)なリーダーシップと、組織のイノベーションにかかっています。各国政府は旧態依然な縦割りから脱却し、明確なアウトカムを得ることを軸とした効果的な協力体制を構築し、デジタルトランスフォーメーションを実現する必要があります。

また、この変革には、アジャイルかつ反復的で適応可能なチームダイナミクスの醸成も必要です。ガブテックには、多様な専門知識を結集し、政策立案者、アカデミア、開発者、そして何よりも重要となる市民自身からの洞察を引き出す起業家的マインドセットが必要です。この組織的イノベーションを可能にするため、特別目的事業体や官民連携が活用されています。

ダボスで開催された年次総会2024以降も、ガブテックは世界経済フォーラムやグローバルリーダーたちにとって重要な戦略的関心事であり続けるでしょう。AIやブロックチェーンなどの新たなテクノロジーは、公共サービスの提供に革命をもたらす可能性があります。同時に、ガブテックが有益な公共成果を確実に提供し、デジタル・デバイドを解消するためには、サイバーセキュリティやデータのプライバシーに関する配慮が不可欠です。

新たに発足したGGTCベルリンと、調印後のウクライナのガブテックセンターは、ガバメントテクノロジーを開発するとともに、ベストプラクティスを増幅し、新たな価値創造を推進するためのプラットフォームを提供します。

ガブテックは、政府内で隔離された少数の「ギーク」だけに許される技術的ニッチというイメージを払拭し、日陰から一歩踏み出そうとしています。ガブテックの可能性は、デジタル時代に向けて各国政府を再構築し、デジタル・インクルージョンを促進し、サービス提供に革命をもたらすことにあります。各国政府が前例のない課題に取り組む中、市民と政府との間の信頼関係を再構築するためには、新しいものを生み出す能力の強化が不可欠です。だからこそ、今日のパブリックリーダーたちが優先する事項の最上位にガブテックを据えるべきなのです。

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