アートとテクノロジーの融合:環境イノベーションの未来を拓く
AI(人工知能)と大規模自然モデルによるアートとテクノロジーの新時代が幕を開けようとしています。 Image: World Economic Forum
- ステーブル・ディフュージョンのようなAI(人工知能)モデルを活用することで、テクノロジーが芸術を新たな段階へと導きます。
- 新たなテクノロジーを活用した主要な作品では、世界初の大規模自然モデルも導入されました。自然関連の画像、音、香り、テキスト、気候の測定値を含む世界最大規模のデータセットです。
- 世界経済フォーラムの委託により、新しいアートとテクノロジーの融合に関わる2つの大作が、2024年2月16日から4月7日まで、英国ロンドンのサーペンタイン・ノース・ギャラリーで展示されています。
テクノロジーはアートの世界に大きな影響を与え、アートの創作や体験方法を一変させました。デジタルツールの台頭により、アーティストは新しい技法やメディアを自由に使えるようになり、創造性やアートの可能性が広がっています。
テクノロジーとアートの進化
テクノロジーは、歴史を通じてアーティストに独創的な表現方法を提供してきました。印象派の誕生、アナログからデジタルへの移行など、芸術運動の大きな転換はこれまでもテクノロジーと科学の進歩によりもたらされてきました。こうした進歩が、創造的な制作の限界を押し広げ、探求すべき新たなフロンティアを切り拓いてきたのです。テクノロジーを取り入れることで、アーティストたちは芸術の可能性を広げ、芸術表現の進化に貢献してきました。
アートにおけるテクノロジーは、従来の創造性を超えた新たな美学、バーチャル体験、科学的概念、論理的推論を導入することで、これまでの認識を覆す重要な役割を果たします。こうしたアートとテクノロジーの融合により、新たな可能性を探求し、私たちの暮らす世界の変化や、アーティストが創造性を表現する革新的な方法を反映した没入型の体験を生み出すことができるのです。
過去2年間、私は、メディア・アーティスト、ディレクター、そして、データと機械知能の美学のパイオニアであるレフィーク・アナドール氏とコラボレーションし、今日のテクノロジーが持つ力で可能な創造的アウトプットを探求してきました。
革新的な新境地
アナドール氏と共に2つの作品「人工現実:サンゴ(Artificial Realities: Coral)」(2023年)と「データランド:熱帯雨林(Dataland: Rainforest)」(2024年)を制作しました。これらは、2023年と2024年にスイスのダボスで開催された世界経済フォーラム年次総会で、同フォーラムの芸術文化プログラムの一部として発表されています。
「人工現実:サンゴ(Artificial Realities: Coral)」は、アートとテクノロジーの接点を探る革新的なアート作品で、特に画像制作における最先端のAIテクノロジーの一つであるステーブル・ディフュージョン(Stable Difusion)を用いています。
このテクノロジーを活用し、Refik Anadol Studioは、オンラインで公開されている約50億枚のサンゴの画像を独自のAIモデルに学習させました。AIで抽象化されたサンゴの画像を生成し、データセットに基づいて新しいビジュアルと色の組み合わせを構築します。この作品は、科学、テクノロジー、ビジュアル・アートを融合し、データのデジタル・エコシステムと、多くの生態系が生息する景観を結びつけることで、メタバースとブロックチェーン経済の両方の可能性を利用し、地球規模の気候変動問題の緩和に貢献しようとするものです。
「データランド:熱帯雨林(Dataland: Rainforest)」は、世界初の大規模自然モデルを紹介するAIベースのインスタレーション。アナドール氏は、グーグルやエヌビディア、スミソニアン博物館、ロンドン自然史博物館などの主要研究機関と協力し、自然に関連する画像、音、香り、テキスト、気候に関する世界最大規模のデータセットを収集しました。
この大規模自然モデルは、大学、博物館、財団、政府機関、図書館などのデータ提供者が加わることで、今後数年間でさらに拡大する予定です。その結果、自然界に関するデータ主導の物語が生まれ、エコシステム間の微妙な相互作用を検証するダイナミックなプラットフォームが生み出されます。このように、大規模自然モデルは、単なるデータリポジトリではなく、生きたアーカイブ、創造性のためのキャンバス、イノベーションのための道標、変化のための触媒となるのです。
「データランド:熱帯雨林(Dataland: Rainforest)」は、サステナブルな未来を形作る生成AIと没入型ストーリーテリングの変革の可能性を示しています。
アートは、人類の想像力です。AIの出現により、私たちは集合的な記憶を保存するという使命において、唯一無二のパートナーを得ました。
”再イメージング:想像の再構築
この2つの作品は、2024年2月16日から4月7日まで、英国ロンドンのサーペンタイン・ノース・ギャラリーで開催されている「Echoes of the Earth: Living Archive(地球のこだま:生きているアーカイブ)」展で展示されています。この展覧会は、エンゲージメントとコラボレーションを通じて、オーディエンスの幅を広げることを目的に、サーペンタイン・プログラム「New Alliances(新たな提携)」の一環として開催されているものです。
「人工現実:サンゴ(Artificial Realities: Coral)」は、マルチチャンネルのサウンドとビデオの体験として表現され、見る人を仮想の水中空間に没入させます。一方、「データランド:熱帯雨林(Dataland: Rainforest)」は、インスタレーションと共に再構成し直したもので、ギャラリーをAIモデルによる熱帯雨林の解釈へと変貌させます。この作品は、世界16カ所以上の熱帯雨林の動植物データを含む、これまでで最長の自然に関する3D生成AI出力を特徴としています。
「アートとは、人類の想像力です。AIの出現により、私たちは集合的な記憶を保存するという使命において、唯一無二のパートナーを得ました。人間の直感と機械の精密さの相乗効果により、私たちは環境を再構築し、復元する力を活かすことができます。こうしたコラボレーションは、私たちの芸術表現を増幅させるだけでなく、地球の美しさを何世代にもわたり保護するという私たちのコミットメントを強化するものです」と、アナドール氏は強調します。
新しい芸術表現、科学的発見、自然環境の進歩を可能にする上で、テクノロジーは極めて重要です。バーチャルリアリティと拡張現実は、没入型のアート体験や科学的シミュレーションに新たな可能性をもたらしました。また、テクノロジーを駆使したデータ解析やモデリングも、生態系への理解を深め、サステナブルな実践を可能にしつつあります。
私たちが、現実としてあるいは確固たる地盤として知っているものを見直し、再構築することで、自然に対する私たちの見解や理解を限界まで押し広げることができるでしょう。
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