仕事と働き方の未来

リスキリング革命と信頼の再構築

Reskilling and upskilling for the digital and sustainability transformations needs buy-in first.

デジタルトランスフォーメーションとサステナビリティトランスフォーメーションのためのリスキリングとアップスキリングには、まず賛同が必要です。 Image: Unsplash/Nathan Dumlao

Judith Wiese
Chief People and Sustainability Officer; Member of the Managing Board, Siemens
本稿は、以下会合の一部です。世界経済フォーラム年次総会2024
  • 変化に抵抗したり、不信感を抱いたりする人間の自然な傾向が、デジタルトランスフォーメーションとサステナビリティトランスフォーメーションの妨げとなります。
  • 現在のデジタルトランスフォーメーションとサステナビリティトランスフォーメーションから誰も取り残さないためには、スキル開発が極めて重要です。しかし、変化は絶え間ないものであるため、生涯学習、倫理観、好奇心を企業の戦略的中核に据える必要があります。
  • 官民連携によって、変革をもたらすテクノロジーへの信頼を築くことができます。

トップからのメッセージは一貫しています。「世界を変えるこの新たなデジタルテクノロジーを受け入れましょう。想像もつかないパワーがありますが、需要に応えるにはリスキリングが必要です。それを怠れば取り残されてしまいます。信じてください、これはあなたのためです」。

あなたも同様に「やるか、死ぬか」のメッセージでリードし、従業員が素直に従うことを期待しているかもしれません。しかし、もしそうでないとしたらどうでしょうか。

デジタルトランスフォーメーションと、企業がサステナビリティを重視した経営に転換することを指すサステナビリティトランスフォーメーションのモメンタムは、主に有無を言わせぬ前提の上に築かれたものです。しかし、変化を疑い、イノベーションが本当に個人にとって良いものであるのか、それが自分の生活にどのような影響を与えるのかを考えるのが人間の本質です。

変化は不確実性と混乱をもたらし、既成の信念や規範を揺るがします。そのため、変化に抵抗したり、最悪の場合、変化やそれに関わる人々を恐れたり、不信感を抱いたりする人もいるのです。

私たちは課題の山積する世界に生きており、多くの分野で人々の信頼が損なわれています。地球を救い、より公平でより良い生活を送るためのデジタルトランスフォーメーションやグリーントランスフォーメーションの推進に必要なテクノロジーに対する信頼もその一つです。テクノロジーの進化のスピードは、失職や自律性を失うことへの恐怖、未知なるものへの恐怖を助長しています。タイミングも最悪です。

今日、私たちが直面している多くの複雑な課題を解決するため、テクノロジーの必要性は高まり続けるでしょう。しかし、テクノロジーを信頼し、理解し、役立てようとする熟練した人材がいなければ、目標達成に必要な行動は起こせません。では、どうすれば失われた信頼を取り戻すことができるのでしょうか。

信頼と信用の構築に向けて

私たちの理解では、信頼には自分の能力に対する信頼と、外部の人々や要因に対する信頼の2種類あります。信頼とは、人、システム、事業体の信頼性、正直さ、誠実さに対する基本的な信念であり、その行動の源が、善良、誠実、正直であると確信することです。これらの要素のいずれかが欠けると、信頼は低下します。しかし、まだ希望は残されています。

エデルマンのトラスト・バロメーター2023によると、ほとんどの国において、人々は今でも職場を信頼できると考えており、労働者は、気候変動、経済的不平等、従業員のリスキリングなどの課題について、より多くの社会的関与を要求しています。しかし、これを利用して新たなテクノロジーに対する信頼を築き、より良い未来のために前向きな変化と進歩を加速させるにはどうすればよいでしょうか。

変化に対処する能力に自信を持ち、他者が自分を助けてくれると信じることが信頼だとすれば、この問いに対する答えは簡単です。企業や機関は、信頼されるアドバイザー、パートナー、知識の提供者となり、絶えず変化する世界で人々が未来を切り開く力を与えなければなりません。

現実として、多くの地域で人口動態が変化していることや、テクノロジーの進化に伴い、一部の仕事はシフトする必要があります。テクノロジーの進化が速いために、スキル習得を、人、労働市場、産業のニーズに合わせて再編成する必要性が出てきているのです。経済協力開発機構(OECD)によると、このような調整を行うことで、人々は不確実性に立ち向かう能力を高め、誰もが経済的に豊かでサステナブルな未来において役割を果たせるようになります。私たちは、人々がこの変化を受け入れられるよう支援する必要があります。

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制御を人の手に取り戻す

働き方の変化を、新しい方法で舵取りする必要があります。

スキルに関する戦略的課題の中で、変化に対処する自信を高めるレジリエンス(強靭性)と学習スキルは不可欠です。リスキリングとアップスキリング(技能向上)の施策は、従業員が長期にわたり働くことを可能にします。しかし、スキル開発だけでなく、生涯学習、倫理観、好奇心も中核戦略に組み込まなければなりません。さらに、クリティカルシンキング、創造性、多様な分野や文化を超えて協力する力を含む、継続的な適応のための成長マインドセットを育成します。

このような広範な能力を備えさせることで、私たちは単に次の技術革新のためだけでなく、変化が唯一の不変のものである未来、つまり予期せぬ方向へとイノベーションを先導し推進する能力を備えた人材を育成します。

政策立案者、各国政府、その他の機関と協力することで、教育の未来を形成し、導き、規制を標準化し、透明性を生み出すチャンスがあります。

私たちはすでに、ドイツの「サステナブルな雇用可能性イニシアチブ(Sustainable Employability initiative)」との連携において、このような幅広い教育の視点がもたらすメリットを実感しています。このイニシアチブには、デジタル化をすべての人の機会として捉え、生涯学習を奨励し、デジタルスキルやグリーンスキルの教育を向上させることが含まれています。世界経済フォーラムのリスキリング革命の一環として、私たちは他の民間・公共団体と協力し、教育モデルの大規模な変革に取り組み、より良い教育、スキル、機会の提供をグローバルに推進しています。また、「グッドワーク・アライアンス(Good Work Alliance)」との協働を通じて、仕事の未来を形作るための官民連携も行っています。

期待される成果

イノベーションの速度を遅らせることはできないかもしれませんが、スキルの習得と適切なツールがあれば、人々の知識と理解を加速させることができます。

デジタルトランスフォーメーションとグリーントランスフォーメーションを成功させ、すべての人にとってより良い未来を創造するためには、私たちは人々が今いる段階を理解し、未来に備える必要があります。

人には希望と励ましの言葉が必要です。私たちは、チャンスと前向きな成果を示すことで、モチベーションを高め続ける必要があるのです。私たちは、テクノロジーが一部の人のためではなく、すべての人のために使われていると示す必要があります。

自分たちの手で未来をコントロールできるよう、人々をインスパイアしましょう。リスキリング革命に招くだけでなく、一歩一歩、手に手を取って、私たちの行動の重要性とメリットを積極的に示そうではありませんか。

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