2型糖尿病のより良い管理につながる心理的要因が明らかに
2型糖尿病は慎重に管理する必要があります。 Image: Unsplash/isens usa
- 2型糖尿病には数多くの治療法があります。
- 人が自分の健康についてどのように意思決定を行うかを研究する学際的分野、健康意思決定科学を用いることで、認知的要因が2型糖尿病患者の行動に与える影響を理解することができます。
- 医療関係者は、時間をかけて患者の意思決定におけるメンタルモデルとその役割を理解することで、2型糖尿病患者に対し、よりホリスティックで人道的かつ洗練されたケアを提供できるようになります。
2型糖尿病の治療法は、60種類の薬剤のほか、より健康的な食事、運動、服薬アドヒアランスをサポートする持続的グルコースモニタリングやデジタルツールなど、行動変容を促すことを目的としたイノベーションを含め、多岐に渡ります。それにも関わらず、世界中で 5億人 以上がこの病気に罹患しており、HbA1cが7%以下、つまり「適切に管理できている」と考えられる2型糖尿病患者の割合は減少しています。
2型糖尿病の治療法の普及と治療成績の伸び悩みとの間の逆相関は、2型糖尿病患者の行動と意思決定について、実際に何が起こっているのかをよりよく理解する必要があることを示唆しています。コンサルティング企業のZSは、これを詳細に調査するため、人が自分の健康についてどのように意思決定を行うかを研究する学際的分野である健康意思決定科学を用いて、認知的要因が2型糖尿病患者の行動に与える影響について検討しました。
メンタルモデルが患者の意思決定に与える影響
私たちの研究は、2型糖尿病患者が持つ支配的なメンタルモデルを特定し、それが糖尿病を管理をする上でいかに望ましい行動につながるかを明らかにしようとするものです。存在するメンタルモデルを理解することで、どのような行動変容が可能なのかがわかります。メンタルモデルとは、私たち一人ひとりが、世界がどのように機能しているかについて、自分の知識や認識を説明、分類、理解するために用いる枠組みのことで、たとえば、相手を高齢者と認識する年齢についてのメンタルモデルを持っている人、医師の助言なしに医療上の決定を下すことに抵抗がないメンタルモデルを持っている人などがいます。つまり、メンタルモデルが私たちの選択を形作るのです。
米国の多様な2型糖尿病患者を代表して抽出した411人の回答者に対する量的調査と、25人へのインタビューという質的調査から成る私たちの患者調査では、2型糖尿病患者が糖尿病管理をする上でより良い決定を下すには、ダイナミックな生活環境、時間的次元、糖尿病に対する意識という、3つのメンタルモデルが最も大きく関わっていることがわかりました。そこで、革新的な定性的・定量的研究手法と機械学習を組み合わせて、それぞれのメンタルモデルが行動に与える影響を調査した結果、糖尿病管理を改善することを目的とした介入は、これらの3つのモデルに焦点を当てるべきであるという結論に達しました。これらのモデルには、医療関係者がより良い管理を「ナッジ」する、または奨励するために利用できる個別の行動が含まれています。
ダイナミックな生活環境
ダイナミックな生活環境とは、私たちの暮らす世界を形作る物理的、社会的、文化的環境の相互作用を理解するための概念です。ダイナミック生活環境モデルは、患者が糖尿病を管理する際に、こうした環境要因をどのように内面化してしているかを捉えるのに役立ちます。私たちの調査では、57%の患者が、病気を管理する上で十分な精神的サポートを受けていると回答。これは素晴らしいことですが、糖尿病患者の行動変容を起こすには不十分です。そのためには、物理的なサポートが不可欠なのです。
ある患者はこう語りました。「家族がいるので、糖尿病食に加えて普通食を作らなければならないことが多いです。運動する時間を確保するのにも、処方された通りに薬を飲むことにも苦労しています。特に、急いでいて忘れてしまうことが多いのです」。
患者と一緒に家族も食事療法と運動療法を同じように行って物理的なサポートをすることで、健康的な食事療法と運動療法を実践する患者が37%増えることがわかりました。現在、家族が自分と同じ食事と運動をしていると報告する2型糖尿病患者は約18%しかいません。これは、患者と医師が健康的なライフスタイルの変化の重要性について家族を教育すれば、2型糖尿病管理のアドヒアランスを劇的に改善する大きなチャンスがあることを意味します。
時間的次元
患者には、意思決定をする際に現在と未来を比較する固有の方法があります。これは、時間的次元のメンタルモデルとして知られており、人が世界を時間の観点からどのように見るかを支配します。物事が時間の経過とともにどのように変化するか、出来事が時間的にどのように関連し合うか、あるいはどのように計画を立てるか、などです。
ある患者は、「最初に糖尿病と診断されたとき、私はその診断を真剣に受け止めませんでした。本当に注意を払うようになったのは、糖尿病が私の人生の他の部分に影響を及ぼし始めてからでした」と述べています。
ダイエットのような長期的課題の成功確率を高める簡単な方法のひとつは、週に約200gずつ減らすというように、具体的で測定可能な目標を設定することです。私たちの調査によると、少なくとも週に1回体重を測っている患者は、健康的な食生活を続ける可能性が20%高いことがわかりました。医療従事者は、2型糖尿病の患者やその家族が生活習慣を改善するために、こういった段階的な目標を立てるよう促すことができるでしょう。
糖尿病に対する意識
私たちが話を聞いたある患者はこう語りました。「薬物療法、運動療法、食事療法のすべてが、私の健康とA1cの改善に役立っています。主治医と協力して最善の治療計画を立てることはとても重要だと思います」。これは、糖尿病に対する意識のメンタルモデルが機能している例です。健康的な食事、運動、薬物療法などの重要な活動を、完全な糖尿病管理計画の一部として認識し、枠組み化します。
私たちの調査によると、2型糖尿病患者のほとんどが、病気を管理する上で本当に必要な行動はわかっていながらも食事療法と運動を日常生活に組み込めていません。たとえば、処方された薬を服用することが糖尿病管理に含まれると思っていない患者は17%。また、血糖値検査に対しても、4人に1人は糖尿病管理の一環だと考えていません。しかし、極めて重要なことは、運動が糖尿病管理に含まれると考えている患者は、推奨される1日レベルの身体活動に参加する可能性が45%高いということ。このことは、患者の経過のすべてにわたって適切な糖尿病に対する意識を確立することの重要性を強調しています。
2型糖尿病患者が病気の管理に関して毎日決断しなければならない状況は、精神的負担が大きすぎます。あまりにも長い間、患者のケアを監督する医療者は、この意思決定疲労に気づくことも、対処方法を知ることもありませんでした。しかし、時間をかけて患者の意思決定におけるメンタルモデルとその役割を理解することで、医療関係者は、よりホリスティックで人道的かつ洗練されたケアを提供できるようになり、糖尿病管理を長期的に成功へと導くことができるでしょう。
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Naoko Tochibayashi and Mizuho Ota
2024年11月8日