観光のあり方を変革し、観光地にポジティブなインパクトを
観光の未来をサステナブルかつリジェネラティブなものにするためには、旅行者の意識と行動の変化が求められます。 Image: Reuters/Jonathan Ernst
- 訪日外国人観光客数が急速に回復し、日本で暮らす人々の国内旅行も活発になる中、日本から海外旅行へ出向く人の数は2019年の水準の約4割にとどまっています。
- サステナブルな旅行をしたいと思ってはいるものの、実際には、生活費の危機により、多くの人がサステナブルな選択に追加料金を支払うことに難しさを感じています。
- サステナブルでリジェネラティブな観光の未来を築くためには、旅行者の意識と行動に変化がもたらされる必要があります。
昨年10月に、新型コロナウイルスの水際対策が大幅に緩和されて以来、日本でも海外からの観光客が順調に戻ってきています。
日本政府観光局(JNTO)によると、7月の訪日外国人観光客数は232万600人に上り、新型コロナウイルス感染拡大前の2019年の水準の約8割まで回復しました。
また、国内・海外旅行も活発になってきています。JTBが発表した旅行動向調査の結果によると、7月と8月の夏休みシーズンに国内旅行をした人の数は、7,250万人でほぼ2019年水準まで回復。一方、海外旅行をした人の数は120万人と、2019年の水準の約4割にとどまりました。同調査に対し、海外旅行へ行きたくても行けない、または行きたくないとする回答の理由には、治安や健康面でまだ安心できないこと、海外旅行に伴う出入国手続きに手間がかかること、そして、円安や物価高などが挙げられています。
アウトバウンドの回復に勢いをつけるためには、安全で経済的負担の少ない環境が整う必要があるでしょう。
オーバーツーリズム、対策を急ぐ日本政府
インバウンドの復活が地域経済に活力を与えている一方、懸念されているのは、人気観光地に訪れる観光客が過剰に増加するオーバーツーリズムの再燃です。これに対し岸田首相は、混雑や交通渋滞、ゴミ問題、騒音など、観光が地域の生活に負の影響を及ぼすオーバーツーリズムを重要課題と受け止め、今秋にも対策を取りまとめる考えを表明しています。
新型コロナウイルス感染拡大以前より、日本の一部の観光地では、オーバーツーリズムが問題視されるようになっていました。パンデミックによる打撃を受けた日本の観光産業や観光地が、復活に向けて歩みを進める今、こうした課題を変革のチャンスと捉え、観光のあり方をよりサステナブルなものへと舵を切る時が来ていると言えるでしょう。
ホテルが展開するサステナブルな取り組み
サステナブルな取り組みは、全国のホテルで加速しています。国の重要文化財に指定されている東京駅の駅舎内に位置する、東京ステーションホテルは、宿泊時に生じる二酸化炭素排出量を実質ゼロにする「CO₂ゼロSTAY」の取り組みを展開。カーボン・オフセットの仕組みを利用したこの取り組みは、宿泊で発生する二酸化炭素排出量を算定・可視化し、その排出相当分を削減活動へ投資することで、実質ゼロにします。その費用は、全額ホテルが負担するため、宿泊客は同ホテルに滞在するだけで森林保全活動や再生エネルギーの拡大に協力することになります。
また、森トラスト・ホテルズ&リゾーツでは、木製や竹製の歯ブラシやヘアブラシ、プラスチック含有量を減らしたカミソリやシャワーキャップの導入、ソープやアメニティの個包装の廃止、アメニティの有料化などを通じて、観光資源の保全に取り組んでいます。同社は、全国で運営する18のホテルで、年間約16トン使われているホテルアメニティの見直しをし、2024年度を目処に、アメニティのプラスチック使用量を90%以上削減することを目指しています。
問われる旅行者の意識と行動
サステナブルな観光の未来に向け、宿泊施設をはじめとする観光事業者が変革を進める中、観光の主体となる旅行者もこうした流れに足並みをそろえ、意識と行動を変えていくことが極めて重要になります。
世界35の国・地域の3万3,000人以上の旅行者を対象に行われた、ブッキングドットコムによる2023年版「サステナブル・トラベル」に関する調査の結果によると、世界の旅行者の76%(日本の旅行者の56%)が、今後1年間において、よりサステナブルに旅行したいと回答しています。一方、世界の旅行者の76%(日本の旅行者の75%)が、世界的なエネルギー危機と生活費の高騰が支出計画に影響を及ぼしていると回答。旅行費用の削減も余儀なくされていることから、サステナブルな認証を受けた旅行のために追加料金を支払うことをいとわないとした世界の旅行者は43%(日本の旅行者は22%)にとどまりました。
こうした傾向から、観光事業者による、割引や経済的なインセンティブなどの提供は、旅行者のサステナブルな旅行の選択を後押しすることができるかもしれません。また、世界と日本の約過半数の旅行者が、サステナブルな旅行の選択肢の数が十分にないと回答していることから、情報や選択肢を増やすこともサステナブルな旅行を後押しするかもしれません。
リジェネラティブな観光が主流になる未来
トラベル・ジャーナリストの寺田直子氏は、「私たちがすることはひとつ。積極的にサステナブルなホテル&リゾートを選び、経済効果を与えること。ゲストの私たちがいてこそサステナブルな環境は続いていくのです」と述べています。
環境、社会、経済への影響に配慮したサステナブルな観光の実現には、地域住民の生活や自然環境に与える影響に責任を持ち行動する、旅行者の意識の変革が不可欠です。受け入れ側と旅行者による、足並みの揃った行動変容が実現した先には、サステナブルな観光をさらに発展させた、リジェネラティブ(再生型)な観光が主流化した未来が待っているでしょう。
世界経済フォーラムが発表した「2021年旅行行・観光開発指数:持続可能でレジリエントな未来に向けた再構築(Travel & Tourism Development Index 2021: Rebuilding for a Sustainable and Resilient Future)」では、日本が開発指数ランキングの1位に選出されています。
魅力的な観光地として、世界に高く評価されている日本が、「旅行者が訪れれば訪れるほど、その地がより良く変えられていく」リジェネラティブな観光の未来をリードする役割を担うことは、グローバルな観光産業の変革に大きな影響を与えることにもなるでしょう。
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