労働者の健康を中心に据え、製造業をよりレジリエントに変革する方法
気候変動によるサプライチェーンへの影響が、働く人々の健康にも直接的な影響を及ぼしています。 Image: Unsplash/Matthias Mitterlehner
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- 気候変動が製造業とサプライチェーン及ぼす影響は、製造業で働く人々の健康にまで悪影響を与えています。
- 「労働力の脆弱性」メトリクス管理を開発し、労働者の健康状態を定期的にモニタリングするすることは、気候リスクを低減し、その影響に適切に対処し管理するために極めて重要です。
- 企業と政策立案者は、スマートな気候変動の適応策と緩和策を実施することで、ビジネスモデルとサプライチェーンの見直し、経済効果をもたらす活動の推進、インセンティブの活用、協働の促進を図ることが期待されています。
気候変動と極端な異常気象が製造業とサプライチェーンに影響を及ぼしており、そのことが製造業で働く人々の健康とウェルビーイング(幸福)にも直接的なインパクトを与えています。製造業における組織とシステムの長期的なレジリエンス(強靭性)強化に取り組む上で、気候変動が働く人々の健康にどのような影響を与えるかを把握し、貴重な人的資産のレジリエンスを高めていくことは極めて重要です。
変動する状況下で、医療へのアクセス、コスト、品質は大きな課題を抱えており、少数派の人々が犠牲となる健康格差が広がりつつあります。
深刻化する健康リスク
気候変動が健康に与える影響は、ぜんそくや心血管疾患などの慢性疾患から、メンタルヘルスの不調まで多岐に渡ります。こうした健康リスクを招いている原因は、極端な暑熱下での労働、異常気象、大気、食料、水の質の低下です。「健康と気候変動に関するランセット・カウントダウン2022年報告書(The 2022 report of the Lancet Countdown on health and climate change)」は、気候変動の重大さを、21世紀における「世界の健康に対する最大の脅威」と表現しています。
この脅威は、製造業のさまざまな職種で働く人々にまで直接及んでいます。例えば、2020年には、極端な暑熱という一つの要因により、2,950億時間という膨大な労働時間が失われました。気候変動が進行するにつれて、こうした影響の頻度と深刻さが増していくと予測されています。
迫り来る財務への影響
気候変動は、財務的影響ももたらします。気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は、健康への影響やインフラへの損害、経済的混乱、資源の不足など、さまざまな側面にその影響が及ぶことを指摘しています。低炭素経済への移行についても、慎重に管理しながら進めていかなければ、さらなる財務的混乱を招きかねません。
金融機関や投資家から気候変動に関する情報開示の要望が高まっていますが、そのことは、気候変動が重大な財務リスクとして認知されつつあることをよく物語っています。財務上の決定を行う際には、気候変動の影響も考慮する必要性が増してきました。そしてそれが、世界経済のレジリエンスと働く人々のウェルビーイングの維持にもつながるのです。
社会的弱者に対する製造業の役割
気候変動と健康格差には、共通する根本原因と促進要因があります。気候変動の影響を受けやすいのは、社会的に弱い立場ある人々。それは、製造業における労働力も例外ではありません。特にこの影響が顕著なのは、医療へのアクセスが限られている僻地で働く人々。たとえ事業活動の本拠地が僻地にはなくても、サプライヤーの拠点が僻地にあることは少なくありません。気候変動が事業に及ぼす影響への評価と並行して、最も弱い立場にある労働者の健康対策を見直す必要もあります。
米国医療保険大手カイザー・パーマネンテの環境スチュワードシップ部門で、エグゼクティブディレクターを務めるシーマ・ワドワ氏は、「さまざまな分野のステークホルダーが持つ専門的なノウハウを融合させれば、持続可能性、気候変動、労働者の健康といった複雑に絡む複数の課題に対処する包括的な戦略を策定し、包摂的で影響力のある取り組みを実施することができる」と述べています。
労働者の健康と製造業のレジリエンス
企業においては、雇用主が従業員に福利厚生を提供することが多いため、企業の管理体制に労働者の健康が大きく左右されます。そのため、ビジネスリーダーたちには、気候変動が健康に与える影響に対し、レジリエントな労働力の構築に積極的に取り組むことが求められます。米国の疾病予防管理センターが考案した、気候変動の影響に対するレジリエンスの構築(BRACE: Building Resilience Against Climate Effects (BRACE)という枠組みは、気候変動が健康に与えるインパクトに対して、レジリエントな環境を構築するためのロードマップを提供しています。
このような複雑な課題に対処していく上で、企業は以下の戦略を組み合わせて実施することができます。
労働力の脆弱性の評価:気候変動が労働者の健康に及ぼすリスクに対する脆弱性を、業種および職種別に評価し、労働力の健康についての公平性とレジリエンスを向上させるプログラムを策定する。
労働安全方針の策定:気候変動が従業員の健康に及ぼす影響を低減する目的で、安全方針の策定や、安全性確保のための機器やワークフローの導入を行う。自動化やAI(人工知能)の導入、安全機器の性能の向上、業務スケジュールの見直し、極端な暑熱下などの危険な状況で作業が行われないよう適切に管理する。
最先端の安全技術の活用:勤務地にかかわらず、すべての従業員が高品質な医療にアクセスできるようにするために、強靭で包摂的な戦略を策定する。具体的には、遠隔医療などのバーチャル医療サービスの活用や、メンタルヘルスやストレス軽減のプログラムへのアクセスの拡大を促進する。
インフォームドチョイスの啓発:気候変動が製造業の労働者の健康に与える影響、気候変動がもたらす食料安全保障上の課題、持続可能な慣行の重要性などに対する認識を深める教育プログラムに、従業員がアクセスできる環境を整備する。これにより、インフォームドディシジョンを行ったり気候変動のリスク低減に貢献したりする意識を醸成する。
従業員の健康状態のモニタリング:気候変動によるリスクの低減に対する感度と、その影響に適切に対処・管理する能力によって従業員の健康状態を定期的にモニタリングする「労働力の脆弱性」メトリクス管理を開発する。
米国高度製造業センター(US Center for Advanced Manufacturing)の最高執行責任者であるステファニー・ライト氏は、「特定の労働者に悪影響やストレス要因が度重なって降りかかると、それが蓄積されてやがては心身の健康上の問題として顕在化してきます。そのため、企業内で労働者の健康状態を定期的にモニタリングする指標を開発・導入しなければなりません」と警鐘を鳴らします。
気候変動政策イニシアチブの導入
持続可能性、レジリエンス、労働者のウェルビーイングを向上させる上では、政策立案者の役割も重要です。
サプライチェーンとビジネスモデルの見直し:製品が、生産者から消費者へと直接流れていく過程での価値のフローをベースとする直線型のサプライチェーンから、デジタルネットワークを活用したアジャイルなエコシステムへの移行を推進する。これにより、需要重視型の規模の経済を促進させるとともに、持続可能な製造に積極的に取り組むサプライヤーを優先的に選択することができる。また、サプライチェーンのデジタル化により、流動性の高いプロセスとサーキュラー・エコノミーなどの革新的なビジネスモデル(二次市場)の構築を促進する。
インセンティブを通じた変革:税制優遇や補助金や資金援助プログラムなどのインセンティブを提供し、持続可能な慣行を導入すると同時に、労働者の健康とウェルビーイングを保護するように製造業を後押しする。
持続可能性の経済効果を呼びかける:持続可能な製造がもたらす経済的なメリットをアピールして、政策決定者と製造業が持続可能な慣行を優先的に実施し、グリーン技術の導入とグリーンジョブの創出を推進するように働きかける。
協働パートナーシップの構築:環境への影響の低減を目的とする企業、医療事業者、地域団体の間の協働パートナーシップ構築を促進し、持続可能で健康重視の製造業への転換を促す。
世界経済フォーラムのヘルスアンドウェルネスヘッド、アンドリュー・ムースは、「持続可能性への道は、私たちの健康の維持・向上なくして拓くことはできません。私たちの健康を中心に据えることで、社会全体の取り組みを高いレベルで実施し、政策変更と影響力のあるソリューション創出へのモメンタムを生み出すことができるのです」と強調します。
気候変動とレジリエンスに関するイニシアチブを導入し、部族、準州、地方、連邦という国家のすべてのレベルで健康サービスを支援することも不可欠です。
「私たちの健康を中心に据えることで、社会全体の取り組みを高いレベルで実施し、政策変更と影響力のあるソリューション創出へのモメンタムを生み出すことができるのです」
”働く人々の健康とウェルビーイングを第一に考えることで、気候変動がもたらす課題に対処できる、よりレジリエントで持続可能な製造業を構築することができるのです。
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