素材イノベーションで資源自律経済を実現する
製造業は、素材を進化させ、循環型経済への移行を後押しすることができます。 Image: Francesco Lo Giudice on Unsplash
- 日本の経済産業省は2023年3月、資源を効率的に活用し、循環的な利用を最大化する「資源自律経済」を成長戦略として掲げました。
- 資源の自給自足に焦点を当てた新たな循環型経済モデルを開発することは、新たな産業と雇用を創出し、日本の国内産業の強化を可能にします。
- 循環型経済を世界的な成長産業として確立するためには、産官学が協力して技術主導のイノベーションを起こす必要があります。
日本の経済産業省は2023年3月、資源を効率的に活用し、循環的な利用を最大化する「資源自律経済」を成長戦略として掲げました。
その背景にあるのは、従来の「直線型」の経済モデルでは環境への負担が大きく、持続可能性の観点から「循環型」の経済モデルへの転換が求められていること。資源の循環的な利用によって温室効果ガスの排出量を減らしていくことは、パリ協定に基づく国際社会の共通の取り組みでもあります。
しかし、歴史的に資源に恵まれない日本にとっては、もっと差し迫った事情もあります。コロナ禍、ウクライナ情勢に端を発した物資や資源の供給制約が生じる中で、自国または近隣地域の中で資源を安定的に確保し、効率的な利用や再生をすることが喫緊の課題として浮き彫りになったのです。
一度使用した資源をいかに効率的に循環利用していくかが、その課題解決の重要な鍵を握っています。そして「資源自律」という観点で新しい循環型経済モデルを構築することは、新たな産業の育成や雇用の創出による国内産業の強化と、国際市場における競争力を確保することにもつながります。
3R+Renewableを実現する動静脈の連携
資源自律経済の確立に向け、日本は今、「3R+Renewable(再生可能)」を実現する、動静脈連携による資源循環を目指しており、産業界は、省資源かつ再生可能な代替素材/循環配慮設計/カーボンリサイクル(CCU)等の技術開発に注目しています。
「省資源かつ再生可能な代替素材」の候補のひとつとなり得るのが、日本のユニコーン企業TBMが開発した、石灰石を主原料とした新素材LIMEX。石灰石は、地球上の限られた地域でしか採掘されない石油などの資源とは異なり、日本をはじめ多くの国が自給自足できる豊富な資源です。
その組成はグレードによって異なりますが、LIMEXは、石灰石由来の炭酸カルシウムなどの無機物(重量比で50%以上)に、汎用樹脂や植物由来の樹脂、各種添加剤を均一に混練した新素材で、プラスチックや紙を代替することができます。LIMEXを使用した袋や日用品等の製品は、一般的なプラスチック製品と比べて石油由来プラスチックの使用量を低減し、原料調達から廃棄・リサイクル工程のLCA上、ライフサイクル全体で温室効果ガス(GHG)の排出量を削減することができます。また、LIMEXをシート状に成形した際、ラベルや建材等の産業資材の用途で用いることも可能です。
さらにLIMEXは、紙の代替として原料に森林資源を全く使わないだけでなく、紙と比べて水の利用量を約97%抑えて製造することができます。
石油資源に恵まれずプラスチックを輸入に依存する国や、水資源に恵まれないために自国で紙を作れない国は多くありますが、そのような国でも石灰石なら採れることが多く、LIMEXであれば作ることができます。LIMEXは、資源が乏しい国々に新たな産業を生み、富を分配する事業といえるでしょう。
少ない資源で大きな豊かさを生み出すと同時に、身近で手に入りやすい資源でコンパクトなサプライチェーンを実現するLIMEXは、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)やG20サミット等の国際会議で注目を集めており、「資源自律経済モデル」の構築に貢献できる可能性を秘めています。
国を挙げて技術を起点としたイノベーションに取り組む
さらに、TBMは、神奈川県横須賀市で、使用済みのLIMEX製品やプラスチック製品のマテリアルリサイクルを行う日本最大級のリサイクル工場も運営しています。私たちは、素材生産や製品化に関わる「動脈」に加え、使用後に回収した製品をリサイクルする「静脈」にも携わる経験から、資源の効率的な再生のためには動静脈の連携が欠かせないことを訴えています。
ただ、個社の努力だけで社会全体を変えるのは容易ではありません。異なる素材の部品が複雑に組み合わされているなど、3R+Renewableを前提に設計されていない製品はいまだ多くあります。国も、循環配慮設計を促すルールづくりに注力する必要があるでしょう。国の政策ビジョンと産官学の連携、さらに、動静脈にわたる異業種間の協調を支える施策は、ますます大きな意義を持つようになります。
資源循環と技術開発という観点で協調が求められるもう一つの例に、「CCU(Carbon capture and Utilization)」が挙げられます。これは、カーボンニュートラル実現のための技術であると同時に、身近なCO₂を資源として新たに別の有価物として転換する、資源自律経済のコンセプトにも沿うものです。
CCUの領域としては、現在、化学品、燃料、鉱物・コンクリート等が有望視されています。その中でも、特に早期の実用化が見込まれているのがコンクリートです。日本では、コンクリート原料となるセメント産業のCO₂排出量が、電力、鉄鋼に次いで多く、国内CO₂総排出量の4.5%を占めています。そのため、回収したCO₂をカルシウムと合成し、コンクリート等の原料となる炭酸カルシウム(CaCO3)を製造することを計画しています。
こうした取り組みを、ひとつの業界・業種にとどめることなく、さらに応用範囲を広げていく必要があります。日本政府も「GX(Green Transformation)実現に向けた基本方針」において、CO₂を吸収して資源化することで生成できる「人工炭酸カルシウム」の応用先として、コンクリート以外にも幅広い製品開発と、その需要喚起策を推進しています。
LIMEXも、その新しい活用先のひとつとなり得えます。近い将来、天然資源の石灰石のみならず、CO₂由来の人工炭酸カルシウムもLIMEXの原料として使えるようになり、より環境負荷の低い素材に進化を遂げるでしょう。
循環型経済を理想論に留めることなく、成長産業として確立させるには、従来の廃棄物対策、環境対策という概念を超え、産官学が一体となって技術を起点としたイノベーションを起こさなければなりません。
また同時に、動脈産業は循環性をデザインし、リサイクルまでリードする循環産業へと、そして静脈産業は、消費された廃棄物を再生材に変えてメーカーへ戻すリサイクル業だけではなく、多様な使用済製品の広域回収や自動選別技術等を活用した高品質な再生材の安定供給を行うリソーシング産業へとビジネスモデルを転換し、互いに連携を図ることが不可欠です。それが、経済合理性と国際競争力を併せ持った循環型経済の確立への道となります。
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Gayle Markovitz and Spencer Feingold
2024年12月3日