食料安全保障をめぐる現状
報告書「世界の食料安全保障と栄養の現状」によると、2019年以降、世界で飢餓に陥っている人々の数は1億2,200万人増加しています。 Image: REUTERS/Zohra Bensemra
- 2030年までに世界中の飢餓を撲滅するという目標は、複合的な危機により達成が危ぶまれています。
- 2019年以降、世界で飢餓に直面している人の数が増加していることが、国連の最新の報告書で明らかになりました。
- 本稿では、飢餓人口がパンデミック前より増加している理由を解説するとともに、その傾向を転換させるために必要な取り組みについて紹介します。
国際社会では、2030年までに飢餓を撲滅するという共通目標が掲げられています。しかし、パンデミックや紛争、気候変動による気象パターンの変化といった危機が重なった結果、その達成が危ぶまれています。
5つの国連機関が共同で公表した最新の報告書「世界の食料安全保障と栄養の現状(State of Food Security and Nutrition in the World, SOFI)」によると、世界の飢餓人口が近年増加傾向にあり、2019年以降、1億2,200万人増加しています。
2021年から2022年にかけて、世界の飢餓人口は横ばいで推移しましたが、深刻な食料危機に直面している地域は依然多く、食料不安の根本原因を解消するための世界的な取り組みの重要性が叫ばれています。
本稿では、飢餓で苦しむ人が近年増えている理由と、その傾向を転換させるために必要な取り組みについて解説します。
成果の停滞:その要因と求められる取り組み
昨年、世界で食料を安定的に入手できなかった人の数は、全人口の約30%に相当する24億人にのぼりました。これは、国連が掲げる持続可能な開発目標の目標2(SDGs目標2)である「2030年までに飢餓を撲滅する」という目標の達成が危ぶまれていることを意味します。各地域の課題の洗い出しと特定を行い、パンデミックを境に続く世界の飢餓人口の増加傾向を転換させるための行動を起こすことが今、求められています。
世界の飢餓人口は、2019年には全人口の7.9%に当たる6億1,300万人でしたが、2022年には全人口の9.2%にまで増加しました。
アジアとラテンアメリカでは飢餓が減少していますが、西アジア、カリブ海諸国、アフリカのすべての小区域では、飢餓が増加しています。アフリカは、依然として世界で最も飢餓が深刻な地域であり、世界平均の2倍以上に相当する5人に1人が飢餓に苦しんでいます。
アントニオ・グテーレス国連事務総長は、SOFI報告書の結果を受けて、食料不安の根本原因を解消するための世界的な取り組みを集中的かつ早急に実施するよう呼びかけ、特に重要なことは、紛争や気候変動などの危機やショックに対するレジリエンス(強靭性)を強化することであると強調しました。
2022年の食料安全保障をめぐる状況
SOFI報告書は、2022年における食料安全保障と栄養に関する課題も報告しています。2022年には、世界の24億人が食料を安定的に入手できておらず、そのうち約9億人は重度の食料不安に陥っていました。また、世界的なパンデミック以降は、健康的な食事を得ることもさらに難しくなりました。2021年に栄養ある食事を摂ることができなかった人は31億人にのぼりましたが、これは2019年に比べて1億3,400万人増えたことになります。
最も影響を受けているのは子どもたちです。SOFI報告書によると、2022年に5歳未満の子どもで発育阻害の状態であったのは1億4,800万人、消耗症だったのは4,500万人、過体重だったのは3,700万人でした。また、完全母乳育児率については、女性の栄養状態の改善によってある程度の進展がみられたものの、2030年までに栄養不良を解消するという目標については、より一層協調的な取り組みが不可欠であると指摘されています。
都市化によるアグリフードシステムの変化
SOFI報告書は、都市化の増大とアグリフードシステムの変化についての複雑なバランス関係についても言及しています。2050年には、ほぼ10人に7人が都市部で生活するようになると予測されている中、政策立案者は、飢餓と栄養不良の問題に取り組む上で都市化の進行が及ぼす影響の把握を急いでいます。
健康的な食生活に必要な果物と野菜の1日の摂取量を満たすには、世界のほぼ全ての地域で供給量が不足しています。
一般には、農村部よりも都市部の方が栄養価の高い食料を手頃な価格で入手しやすいですが、都市部の中には顕著な不平等が存在しています。
アグリフードのバリューチェーンの変化に伴い、食料安全保障と栄養のイニシアチブが裏目に出て、栄養価の高い食料がほとんどまたはまったく行き届かない地域が増えるということがないよう、政策立案者は十分に配慮する必要があります。そのような地域は、高カロリーではあるものの栄養価には乏しい食料ばかりが過剰に供給されていることから「フードデザート(食の砂漠)」または「フードスワンプ(食の沼地)」と呼ばれています。
食料安全保障に対する取り組み
SOFI報告書は、悪化し続ける飢餓の危機に対する取り組みの必要性を強調しています。以下で概説する包括的な対策は、2030年までに飢餓を撲滅するというSDGs目標2の達成に向け、国際社会が足並みを揃えて取り組みを進める鍵となるでしょう。
食料安全保障に対する取り組みとして、包括的な政策介入、行動、投資が早急に必要であると強調する同報告書による主な提言を以下に紹介します。
1. アグリフードシステムを変革する:SDGs目標2の達成が実現できるかどうかは、どこでどのように食料が生産・供給されるか次第です。小規模農家への投資、気候変動への適応、技術や資金へのアクセスの提供が、食料の生産性を高め、栄養価の高い食料を都市部と農村部に平等に供給するシステムの実現につながります。
2. 子どもの栄養状態の改善を優先課題に:SOFI報告書は、子どもの栄養状態の改善を優先課題にすべきであり、その取り組みとして、栄養価の高い食料を手頃な価格で入手できるようにすること、そして、必要不可欠な栄養サービスにアクセスできるようにすることが重要であると強調しています。また、栄養価の低い超加工食品から子どもや思春期の若者を守ることも必要であると提言しています。
3. 食料サプライチェーンを強化する:食料安全保障に対する取り組みには、食料と栄養のサプライチェーンの強化も含めなければなりません。子ども向けの栄養強化食品と栄養治療食品については特にそれが重要です。サプライチェーンの強化には、政府や国際機関などさまざまなステークホルダーの連携が不可欠です。
4. 都市化に伴う課題に取り組む:政策立案者は、進行する都市化が食料安全保障と栄養にどのような影響を与えるのかを理解する必要があります。そして、都市部と農村部の両方のニーズに応える強靭なアグリフードシステムを構築することが重要です。具体的な課題としては、空間的不平等の是正や、食料や栄養資源への公平なアクセスの確保が挙げられます。
世界経済フォーラムが推進する、食料システム関連のイニシアチブでは、地球環境と地球に暮らす人々のニーズを満たす、グローバルな食料システムへの変革を加速させる知見と政策を提案することを目指しています。過去15年で1,000以上の組織が参加し、ノウハウや知見や今後に向けた政策を提案するためのパートナーシップを形成しています。
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