海洋保護に貢献する6つのロボット
世界の海底の約80%は地形図がなく、未知の領域です。 Image: Unsplash/Joseph Barrientos
- 地球の生物にとって、無くてはならない存在である海への負荷が、深刻化しています。
- 世界経済フォーラムの「フレンズ・オブ・オーシャン・アクション(Friends of Ocean Action)」によると、健全な海を取り戻す時間はまだ残されています。
- 本稿では、海洋環境の保護に貢献しているロボットを紹介します。
地球の表面の約4分の3を占め、地球上の生物の80%が生息する海。生命が存続する上でなくてはならない存在であるその海が、今、かつてないほど深刻な脅威にさらされており、未来に向けて海洋保護の取り組みが進められています。そこで力を発揮しているのが、ロボット技術です。
海は、地球上に排出された二酸化炭素の約3分の1を吸収するとともに、人間活動に伴う地球温暖化によって発生した余剰熱の90%を吸収しています。
海が直面する課題に取り組むことを目的とし、世界経済フォーラムが主催する世界のリーダーの連合体「フレンズ・オブ・オーシャン・アクション(Friends of Ocean Action)」は、海を救うための時間はまだ残されているとして、次のように述べています。
「私たち人間には、海を健全な状態に戻すための知識、力、技術があります。人間が機会を提供しさえすれば、海は計り知れないほどの再生力を発揮するでしょう」
海洋保護において、テクノロジーが重要な役割を果たしています。本稿では、ロボットの力を活用した海洋保護のソリューションを6つご紹介します。これらのソリューションの多くは、世界経済フォーラムが提供するクラウドソーシングのイノベーションプラットフォームであるアップリンク(UpLink)内の「オーシャン」コミュニティから生まれたものです。
1. 海底マッピング
ドイツのプランブルー社は、非常に詳細な海底地形図の作成に潜水ロボットを利用しています。同社が「水中衛星」と呼ぶこのロボットは、その運航にAI(人工知能)と機械学習が用いられています。
世界の海底の約80%は地形図がなく、未知の領域です。同社の高度なイメージング技術により、気候変動の影響や生物多様性の喪失、海洋汚染の実態が明らかになるでしょう。課題を明確にすることが解決策を導き出す第一歩になるのです。
2. クジラの保護
世界鯨類連盟(World Cetacean Alliance)によると、船舶との衝突によって命を落としたり負傷したりするクジラの数は毎年3万頭にものぼります。最も大型で絶滅の瀬戸際にある種にとってはきわめて深刻な話ですが、ここでもテクノロジーが事態の改善に貢献しています。
米国カリフォルニア州は、「Whale Safe(ホエールセーフ)」と呼ばれるシステムを活用しています。音を出すブイ(浮標)を通じてクジラの鳴き声を探知し、周囲を航行する船舶に減速するよう警告する仕組みであるこのシステムにより、多くの船舶が往来するロサンゼルス港周辺の航路では、クジラと船舶の衝突事故が減少しています。
一方、カナダのホエールシーカー社は、AIを利用して空撮画像や赤外線画像による海洋哺乳類の位置情報の把握を自動化しています。これにより、クジラと船舶の衝突事故を回避できるほか、広範囲にわたってクジラの活動を監視することができます。
3. 海洋の健全性のモニタリング
オーストラリアの革新企業であるアドバンストナビゲーション社は、水深3,000mの地点まで潜航できる「ハイドラす(Hydrus)」という名の水中ドローンを開発しました。強力なライトを搭載するとともに、完全な自律航行が可能なこのドローンは、新種の海洋生物を発見・特定することが可能です。
また、サンゴ礁の健康状態のモニタリングもできるほか、海洋生態系について欠けているわたしたちの知識を補ってくれます。これにより、海洋生態系を保護・保全する方法についての新たな知見を政策決定者に提供できるようになるでしょう。このような大きな可能性が、わずか7kg未満のその筐体に秘められているのです。
4. 海洋生物の探査
自然を保護するためには、まずはどこにどのような生物が生息しているのかを把握する必要があります。それは陸上でも海洋でも同じです。世界の海には220万種の生物が生息していると言われていますが、現在までに発見され命名されているのは10%にすぎません。科学者たちは現在、残りの90%の発見に乗り出しています。
「オーシャンセンサス(Ocean Census)」は、10年で10万種の新種生物を発見することを目標に掲げる海洋生物発見プロジェクトです。その探査では、遠隔操作が可能な水中ロボットを活用する予定です。また、海洋生物から海中に放出されたDNAをシーケンスする技術のほか、高解像度のイメージング技術やレーザー技術も組み合わせて適用される予定です。
5. 海洋探査を支援する海中インターネット
陸上ではIoTが急速に普及しつつありますが、はたして海中でも同じことはできるのでしょうか。そのためのソリューションを提供しているのが、イタリアのWセンス社です。
同社は、特許を取得している音響技術と光学技術を活用することで、水中装置やリモートセンサーをネットワークで結び、データ共有を可能にする海中ネットワークシステムを開発。海洋探査に伴う大きな課題を解決するのに貢献しています。海洋環境の探査以外にも、水産養殖やエネルギー、安全保障、防衛の分野への応用も見込まれています。
6. DNAによる海洋健全度の調査
海には膨大な数のDNAが漂っています。それは海中に生息する生物由来のDNAで、eDNA(環境DNA)と呼ばれています。米国カリフォルニア州にあるモントレー湾水族館研究所(Monterey Bay Aquarium Research Institute, MBARI)のチームは、自律型の長距離ロボット潜水艇を利用してeDNAの採取と海洋健全度の調査を行っています。
「DNAが豊富に含まれた海水を手がかりとして、影響を受けやすい場所の生態系の変化、稀少種や絶滅危惧種の生息状況、侵略的外来種の拡大状況を把握しています。それらはすべて、海洋の健全度の理解と向上と維持に欠かせない情報なのです」と、同チームは述べています。
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Tony Long
2024年10月28日