グローバル・コラボレーション・ヴィレッジ:メタバースが現実世界にもたらす影響
グローバル・コラボレーション・ヴィレッジのパートナーは、メタバースを活用して複雑な課題の解決に取り組んでいます。 Image: Accenture
Iris Vimbai Jumbe
Lead, Marketing and Communications, Global Collaboration Village, World Economic Forum- 世界経済フォーラムは、独自のメタバース「グローバル・コラボレーション・ヴィレッジ」のパートナーイベントを、アクセンチュアとマイクロソフトと共同で開催しました。
- グローバル・コラボレーション・ヴィレッジは、世界規模の課題解決に向けた協力を促進する、メタバースのプラットフォームです。
- グローバル・コラボレーション・ヴィレッジのパートナーは、コスト効率が高く、スケーラブルなメタバースソリューションを、人道支援トレーニングや環境保全活動、ヘルスケアの変革、教育、アップスキリングに役立てています。
先ごろ、グローバル・コラボレーション・ヴィレッジのパートナーイベントが開催され、さまざまな分野のリーダーたちが一堂に会し、働き方の変革や社会への価値提供において、メタバースがどのような影響を与えているか、議論が行われました。
現在のインターネットをはるかに超えた没入体験が期待され、「次世代のインターネット」とも呼ばれるメタバース。人道支援トレーニングからヘルスケア、教育、アップスキリング(技能向上)に至るまで、あらゆる領域に大きな変革をもたらす可能性を秘めています。
本稿では、世界経済フォーラムのパートナーが、これまでにメタバースを活用して生み出してきた現実世界への影響をご紹介します。
人道支援トレーニングと社会参画を支援
世界の都市圏から遠く離れた地域では、どうすれば大勢かつ広範囲に暮らす人々に対してトレーニングを実施することができるのかが大きな課題となっています。そうした地域のすべてに、専門の訓練士を派遣して、最新の情報とスキルを提供することは現実的ではないでしょう。しかし、メタバースの力を借りれば、この課題に真っ向から挑むことができます。
コスト効率が高くスケーラブル、かつ没入性もあるトレーニングを提供するために、国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)は、VR(仮想現実)とAR(拡張現実)を利用したトレーニングプログラムと災害対応活動の強化を図っています。
VRトレーニングは、コスト効率が高くスケーラブルなソリューションとして、さまざまな地域で災害対応力を高める効果を発揮しています。IFRCは、デジタルトランスフォーメーション戦略や主要テクノロジー企業との連携を通じて、人道プログラムを策定するノウハウを獲得。さまざまな地域にプラスの影響を幅広くもたらしています。
コンサベーション・インターナショナル(CI)は、市民に環境保全活動への参画を効果的に促すツールとしてメタバースに着目。2016年から、VRを利用して世界各地の保全イニシアチブを紹介する取り組みを行っており、仮想世界を通じて保全活動のメリットを体験し、理解を深めてもらうのに役立てています。
メタバースを使った同社のストーリーテリング手法は、市民の責任感を育み、社会全体の活動へとつなげる成果をあげています。その良い例が、海中の世界に没入するとともに、世界中の海に蔓延するプラスチック汚染の実態を知ることができるインタラクティブな社会系VR体験キャンペーンの「Drop in the Ocean」です。
CIは、メタバースの可能性を取り入れることで、多様なオーディエンスを繋ぎ、グローバルな環境保全教育とエンゲージメントを促進しています。
ヘルスケアとウェルネスを変革
医療機関で受けた診察に、戸惑いやプレッシャーを感じた経験がある人は少なくないでしょう。人体の仕組みや、病気の予防や治療に必要な方法を理解することになると、混乱したり圧倒されたりすることは、珍しいことではありません。
インドで数多くの病院を展開するアポロホスピタルズは、メタバースとAI(人工知能)を活用したプログラム「ProHealth DeepX」を開発しました。このプログラムには、各地域の住民データに基づいてパーソナライズされた心疾患発症のリスクを予測できるリスクスコアが含まれています。また、利用者は没入感のある体験を通じて、自身の心臓の状態を把握するとともに、心臓の健康維持のための対策を学ぶことができます。
教育、アップスキリング、能力開発の戦略を策定
教育やアップスキリングへの取り組みの加速は、2030年までに世界経済に8兆3千億ドルの利益をもたらすと試算されていますが、メタバースは、こうした分野にも貢献できる可能性を秘めています。
シンガポール国立大学(NUS)は、リスキリング革命の最先端を走る機関の一つで、未来の社会や経済を担う人材の育成に向けた教育、スキリング、学習の変革に重点を置いた取り組みを進めています。
NUSは、「My Virtual Lab」と呼ばれるメタバースのプラットフォームを用い、STEM(科学、技術、工学、数学)教育に大きな変革をもたらしています。My Virtual Labの目的は、VRを通じて学生に実際のラボ業務に慣れてもらうことです。
リスクのない状況で、ラボでの業務手順を体験させることで、学生たちは実際のラボ環境にスムーズに対応できる能力を養うとともに、実用スキルと自信を身につけることができます。
マサチューセッツ工科大学(MIT)も、変革力のあるテクノロジーで知られるMIT Media Labという研究所から、数多くのメタバース関連の研究・学術イニチアチブを展開し、トップクラスの教育・研究に広く世界からアクセスできるよう取り組みを進めています。
MIT Media Labは、2008年からメタバースに関する情報を集約・発信しているほか、センサーデータと動画機能を取り入れて仮想世界と参加者のつながりを育んでいます。
そして、「AIのある生活」と「未来の世界」という研究テーマが交錯するメタバース空間の中で、教育とヘルスケアを向上させる共同空間運営とAI生成キャラクターについての洞察を提供しています。
欧州宇宙機関(ESA)も、太陽系探査を支援する目的でメタバースを活用し、トレーニングや計画立案のサポートをしています。VRとMR(複合現実)をクルーのトレーニングや宇宙での活動計画の立案、条件のシミュレーションに役立てています。また、国際的な機関やパートナーとも連携し、アウトリーチ活動と学習のゲーム化に重点を置き、宇宙探査と宇宙教育の促進を図っています。
一方、インドのコングロマリット企業であるリライアンス・インダストリーズは、自社工場のデジタルツインを構築して、工場の複雑な環境に問題なく適応できるように従業員をトレーニングしています。仮想環境によって臨場感のある学習体験を提供できるようになった結果、従業員の労働意欲とスキルが向上。これを受けて、同社は引き続き従業員のアップスキリングを重視し、メタバースを共同体験型のトレーニングに利用していくとしています。
グローバル・コラボレーション・ヴィレッジのパートナー社であるインフォシスは、メタバースの可能性の探求・活用に意欲的なクライアントに対し、インフォシス・メタバース・ファウンドリー(Infosys Metaverse Foundry)という包括的なサービスを通じて、メタバース導入の機会を提供しています。このサービスを利用することで、クライアントはメタバースのユースケースの参照、ビジョンと戦略の策定、概念実証の実施、実施規模の検証などを行うことができます。
包摂的な体験で社会的なつながりを強化
パンデミックは、人と過ごす有意義な時間や繋がりを奪い、私たちの多くは、不安や孤独を感じながらの生活することを強いられることになりました。そして今、安全で包摂的、かつ楽しい方法で人々のつながりを取り戻す機会を提供してくれているのがメタバースです。
グローバルなメディア企業であるリンギアーは、音楽のコンサートに行くことができずに失望している人々を救う方法を、実践で示しました。メタバース上でラジオの生放送と仮想コンサートを融合させることで、コミュニティや人間同士のつながりの回復を成し遂げたのです。
ポップロックシンガーソングライターのバスティアン・ベイカーが参加したその仮想コンサートは、人と人とのつながりを作り、ユニークなパフォーマンス実現したことで、メタバースの可能性を垣間見せてくれました。同社は、アクセシビリティの確保も徹底しており、包摂的なサービスの提供と、ユニークな非代替性トークンの活用によって、誰もが参加して没入できる環境づくりに努めています。
強く待ち望まれていた社会的なつながりを復活させ、経済的安定を得る機会を提供するツールとしてのメタバースの汎用性を示したという意味では、ハイネケンの取り組みも注目に値します。孤独の問題が深刻化し、小規模ビジネスが生き残りに苦闘していたパンデミックの最中に、同社は、傘下のタイガービールとのコラボレーションにより、マレーシアで、同国初となるメタバース空間でのストリートフードフェスティバルを開催しました。
訪問客は、自分好みにカスタマイズしたアバターで参加し、3Dで作成された街を歩いて屋台を訪れ、食事を注文します。注文した食事は提携するデリバリーサービスを通じて直接自宅に配達されます。また、他の訪問客と交流したり、ゲームで遊んだりすることもできます。
このストリートフードフェスティバルを通じて、同社は、人々の孤独感を和らげると同時に、困難な状況にある企業を支援したのです。世界の何百万もの人々にリーチした、このストリートフードフェスティバルは、メタバースの仕組みの理解を促し、市民の教育にも貢献しました。また、部門横断的な専門チームの発足も促しました。
核エネルギーに対する理解を促進
「核」という言葉は、人々の不安を掻き立てることがありますが、メタバースは、核にまつわる誤解を解消し、持続可能な未来に向けた潜在的なメリットを正しく理解してもらう機会を提供することにも役立ちます。
原子力技術の開発を手がけるスタートアップ、ニュークレオは、従来の原子力発電所と同等の能力を有しながらも、低コストで炭素排出量が圧倒的に少ない、高さ6mの原子炉のプロトタイプ開発を進めています。同社のAMR(先進モジュール型原子炉)は、未使用の核物質を燃料として使用することで、燃料サイクルを閉じるユニークな能力を持っており、エネルギー自給と廃棄物削減の課題解決に貢献することができます。
同社は、デジタルツインを構築し、仮想環境をつくり出すことで、装置に対する理解を得ること、安全性の強化、課題解決、訓練品質の向上、稼働管理の最適化、ステークホルダーとの連携の促進を目指しています。より良い世界の構築に、核エネルギーが重要であることを強調していく上で、メタバースの力が不可欠であると同社は考えています。
グローバル・コラボレーション・ヴィレッジは、間違いなく、メタバースを用いた連携、学習、イノベーションを促進する無限の可能性を秘めています。
世界経済フォーラムのパートナーは、学習、理解促進、実施運用、革新といった分野で、没入型の連携が秘めた変革力を引き出す方法を模索し始めています。
メタバースでの連携から生まれたソリューションが、現実世界にインパクトを与え続け流よう、今後も、メタバースという新たな領域が秘めた変革力に関するより多くのアイデアを共有できることを私たちは期待しています。
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