増える「アンリタイアメント」が、企業、政府、年金受給者にもたらすもの
新たな傾向として、年金受給資格のある人々が、さまざまな理由から再就職する「アンリタイアメント」が増加しています。 Image: Unsplash/aaronburden
- 労働力における新たな傾向として、定年退職後に再就職する「アンリタイアメント」が増加しています。
- ランスタッドの最新のレポートは、インフレ、不透明な経済の見通し、深刻化する高齢化が、定年退職者の再就職を後押ししているとしています。
- 本稿では、アンリタイアメントの増加が、企業、政府、年金受給者によい影響をもたらす理由について説明します。
年金は、私たちが150歳を迎えるまでの経済的余裕を保障できるのでしょうか。
医療の進歩、生活環境の改善、公衆衛生への取り組み、さまざまな社会的・経済的要因により、平均寿命が延び続けているために、人は150歳まで生きられるようになる可能性があるとする調査結果があります。
平均寿命が延びることは、純粋に喜ばしいこととして捉えられがちですが、すべての人が長生きするようになると、老後に必要な資金の額や、高齢化が及ぼすより広範な経済的影響などを含む、経済的、社会的、個人的な課題が数多く生じる可能性があります。世界経済フォーラムが発表した新たな報告書「よりよく、より長く生きる:長寿のためのヘルスリテラシーへの理解(Living Longer, Better: Understanding Longevity Literacy)」は、世界が、人口統計学的に新たな時代を迎えるにあたり、誰もが考慮すべき重要な要素のロードマップを提供しています。
人材紹介会社ランスタッドの「ワークモニター・レポート2023(Workmonitor report 2023)」によると、労働力における新しい傾向として、定年退職後に再就職する「アンリタイアメント」が増加しています。
本稿では、アンリタイアメントの増加を引き起こしている原因と、企業、政府、年金受給者に与える影響について掘り下げていきます。
アンリタイアメントの増加
現在、57歳から75歳で占められている人口グループ、団塊の世代は、定年退職に近づいているかすでに退職している状況にありますが、1970年代以降、出生率が低下しているために、生産年齢層(15~64歳)を超える人の数が、社会人となる人の数を上回っています。
加えて、ランスタッドによれば、2020年以降、早期退職をする人が多い傾向にありました。これは主に、新型コロナウイルスの感染拡大に関連した健康と安全への懸念、「偉大なる目覚め」、政府によるサポートがきっかけとなっています。
しかし、パンデミックが収束に向かっている今、この傾向は急速に逆戻りしてきており、「働くことをやめない」時代に移行し始めています。
今も続くエネルギー危機、気候危機、ウクライナ侵攻はすべて、経済の不確実性、高インフレ、政府援助の減少の原因となっています。ある調査では、昨年は回答者の61%の働く人々が65歳までに引退すると考えていましたが、現在そう考えているのは半数に減っていることを明らかにしました。
誰もがそれを望むとは限りませんが、定年まで働くという考えを好む65歳以上の人にとって、その意義は収入を維持すること以上のものでしょう。働くことを、人との繋がりを保ち、忙しく過ごすための手段として捉えている人もいます。
世界的なスキル不足が、進化する企業にとって重要な課題となっていると、世界経済フォーラムの「仕事の未来レポート2023」は指摘していますが、こうした考えはその緩和に貢献するでしょう。
定年退職後のスキル不足を解消
仕事の未来レポート2023は、今後10年間においてで、さらに何百万人もが労働市場から去るなど、世界の高齢化の影響は重大な局面を迎え、世界中の経済に空白が生じると仕事の未来レポート2023は警笛を鳴らし、労働者が定年退職に向けた目標に早めに達成できるよう、生涯学習を支援することを推奨しています。
しかし、すでに企業は、柔軟性を持ち、これまで埋めることが難しかった上級職の役割を50代以上に求め、仕事復帰を容易にする機会を提供するようになってきています。
定年を過ぎても働くことを望む経験豊かで知識豊富なスタッフを採用し、スキル・ギャップを埋めることは、企業と定年後に再就職する人の両者にとって好都合であり、依存度がますます高まる人口増加の課題を緩和する一助となるでしょう。
すべての年齢層で仕事の質を確保すること、そして、高齢労働者を支援することを目的に、グッド・ワーク・アライアンスが、世界経済フォーラムおよびマーサーと共同で開発した「グッド・ワーク・フレームワーク(Good Work Framework)」は、職場における5つの目標を掲げています。
1. 公正な賃金と社会正義の推進
2. 柔軟性と保護の提供
3. 健康とウェルビーイング(幸福)の実現
4. 多様性、公平性、インクルージョンの推進
5. エンプロイアビリティ(雇用され得る能力)と学習文化の育成
職場における年齢差別に対し、政府ができること
こうした高齢化の課題が、より早いスピードで深刻化している国もあります。日本の年齢中央値は、49歳近くと世界で最も高い一方、米国は37歳、インドはわずか27歳です。高齢化のスピードに差はあれ、生産年齢人口が減少し、社会制度や経済を圧迫している国が増えていることは事実です。
急速な高齢化は、雇用における課題を意味するだけでなく、定年退職者をサポートするための医療費、年金給付、その他公的資金が膨らむことも意味します。
ロンドン・ビジネス・スクールの経済学の教授であるアンドリュー・スコット氏は、高齢の従業員が生産性を維持できる方法を見つけ、彼らを支援することが極めて重要だとし、政府は、雇用の権利を強化し、職場の年齢差別から従業員を守り、多様性を支援する法律を導入することで彼らを支援をすることができると、話します。
ランスタッドのレポートによると、ほとんどの人が51歳から60歳までにリタイアしたいとしつつも、実際にリタイアできるのは65歳から69歳になると見込んでいます。刻々と変化する経済的背景を考えると、リタイアのタイミングを見極めるのは容易なことではないでしょう。しかし、政府の支援と柔軟なビジネス・アプローチがあれば、アンリタイアメントの増加とキャリアの延長を後押しすることができるでしょう。
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