バイオベース建築が、都市のネットゼロ達成を後押しする理由
ストックホルム・ウッド・シティは、バイオベース建材を用いて建設されます。 Image: Atrium Ljungberg/Henning Larsen
- 2050年までに、都市人口は世界人口の70%に拡大すると予想され、新たな住居への需要が高まる見込みです。
- こうした傾向は、建設業界にとってだけでなく、環境にとってもよい影響をもたらすでしょう。
- 都市で新たに建てられる建物のほんの数パーセントに、持続可能なバイオベース建材が使用されるだけで、炭素排出量の大幅な削減、炭素貯蔵の促進、ネットゼロ達成への大きな助けとなります。
現在、世界人口の半数以上を占める都市人口の割合は、2050年までに70%に拡大すると予想されています。これは、都市に暮らす人の数が増加した分だけ、住む場所、働く場所、生活を支えるインフラがそれぞれの都市に必要となることを意味します。
こうした傾向は、建設業界にとってだけでなく、環境にとってもよい影響をもたらすでしょう。都市で新たに建てられる建物のほんの数パーセントに、持続可能なバイオベース建材が使用されるだけで、炭素排出量の大幅な削減、炭素貯蔵の促進、ネットゼロ達成が大きく後押しされるからです。バイオベース建材とは、木材など、生物由来の物質から意図的に作られた材料です。
人気高まるバイオベース建築
バイオベースの建築は、建築物が環境に与える影響を最小限に抑えたいと考える人たちの間で広まりつつあり、こうした概念実証型の建物がきっかけとなり、バイオマテリアルが広く普及することが期待されています。
タンザニアのザンジバルシティ周辺で開発中の都市、フンバ・タウンに建設予定のブルジュ・ザンジバルは、高さ96メートルとアフリカで最も高いハイブリット木造建築となる予定です。柱には地元で調達されたグルーラム材(木材を重ねて装着して作られる構造用木材)、スラブにはクロスラミネート材が使われており、農村部と都市部の両方で地元の雇用を生み出すことが期待されています。また、建物内の全てのアパートの熱が最小限に抑えられるようにデザインされているため、電力を大量に消費するエアコンの必要性も減らします。高級アパート、ブルジュ・ザンジバルの売り上げは、今後、フンバ・タウンに建てられる低層住宅の開発資金に充てられる予定です。
北半球でも、主要な建設材料に持続可能なマスティンバー(複数の木材を組み合わせて、圧縮強度と張力強度を向上させた集成材)を使用する動きが見られます。スウェーデンの首都南部のシックラでは、世界最大規模の木造都市「ストックホルム・ウッドシティ」が建設される計画が発表されました。2025年に着工予定のストックホルム・ウッドシティは、25万平方メートルの敷地に、2,000戸の住宅と7,000戸のオフィス、レストラン、ショップスペースを備え、デザインには、緑の屋根など自然の要素が取り入れられる予定です。
自然の力を解き放つ
気候変動に適応する森林は、都市の拡大という課題に驚くべきソリューションを提供します。植え替えにより木が補充されることで、木材を継続的に供給することができ、木々は、成長過程で大気中の炭素を隔離または吸収してくれます。そして、その炭素は、木、森林植物、土壌に蓄積され、巨大な炭素吸収源となります。森林は、建物の骨組みや戸棚などに加工されたとしても炭素を蓄え続けます。その建物や戸棚が使われなくなった後にも、例えばフェンスとしてなど、そのバイオマテリアルは再利用され、炭素を閉じ込め続けることができるのです。これこそ、完全なサーキュラー・エコノミーです。
現在、世界のエネルギーとプロセス関連の排出量の約39%を、建設部門が占めています。炭素を排出するのではなく、貯蔵することができれば、新たな都市部は、気候変動を食い止め、洪水などの気候災害を減らす重要な役割を果たすことができるでしょう。典型的な鉄骨とコンクリートのビルが、2,000トンの二酸化炭素を排出するとされているのに対し、マスティンバーを使用した同等の質量の木造ビルは、これに匹敵する量の炭素を貯蔵することができます。
木材は、持続可能な炭素貯蔵材料として注目されていますが、木材以外の選択肢も出てきています。まずは、藻類。藻類建築技術(ABT)が用いられた革新的なファサードは、建物を暖める効果があります。そして、菌類は、持続可能な断熱材、パネル、床材、家具用の菌糸体複合建材として利用が可能。さらに、麻は、レンガに姿を変えることができます。これらの素材がマス市場に出回るようになるには、さらなる研究開発が必要ですが、こうした素材は計り知れない可能性を秘めています。
ネットゼロを超える利点を持つバイオベース建材
バイオベース建材の利用を拡大することは、環境に恩恵をもたらすだけでなく、地域経済、雇用創出、生物多様性、森林再生への取り組みも活性化します。クライメート・スマート・フォレスト・エコノミー・プログラム(Climate Smart Forest Economy Program, CSFEP)は、森林や林産物をどのように利用すれば気候に恩恵をもたらし、地域社会の経済的・社会的ニーズを支えることができるかについての知識を生み出し、普及することを目的としたグローバルなイニシアチブです。CSFEPが支援する多くのプロジェクトのひとつが、現在、ケニアで進行中です。建築・エンジニアリング・建設企業のBuildXは、CSFEPと協力して、ケニア、タンザニア、ウガンダにおいて、地元の持続可能なマスティンバーの使用促進と地域のバリューチェーンの開発、持続可能な森林管理を拡大する取り組みを行なっています。BuildXの「脱炭素都市居住モデル(Model for Decarbonised Urban Living, MODUL)」は、クロスラミネート材を用いたフラットパック都市住宅システムで、低・中所得者向け住宅に焦点を当て、手頃な価格で持続可能な住宅を大規模に提供することを目指し、設計されています。
バイオベース建築への転換
バイオベースの素材は大きな可能性を秘めているにもかかわらず、マス市場への普及にはいくつかの障壁が立ちはだかっています。大きな課題は、デベロッパー、建築家、エンジニア、投資家、保険会社、政府、政策立案者などのステークホルダーに、建築へ天然素材を取り入れることの利点を理解してもらうことにあり、需要側には多くの神話が蔓延しています。建築物が自然と調和して機能する未来を創造するためのネットワークであり、助成を提供する組織でもあるBuilt by Nature(BbN)は、「木材の神話を否定する(Debunking Timber Myths)」という小冊子を発行し、この課題に取り組んでいます。BbNは、マスティンバーとバイオベース建材の市場需要を拡大し、市場拡大の障壁を取り除くことを使命としています。建築におけるバイオベース建材の使用については、すでに多くの研究が行われていますが、BbNは、その知識を統合し普及させることで、地域の状況に応じた実装を加速させるという重要な役割を担っています。
政策や規制が需要を刺激するだけでなく、産業の変化を推進する上で重要な役割を果たすことは、歴史が証明しています。一部の政府は、すでにこの視点からの取り組みをリードしています。例えば、フランス政府は、国が資金を提供する公共建設プロジェクトは、バイオベース建材を50%以上使用しなければならないと規定しています。また、アムステルダムでは、2025年以降、市の住宅プロジェクトの20%にバイオベース建材が使用されなければならないと定めています。
バイオマテリアルの価格が、その利用を足踏みさせることも多いですが、バイオマテリアルを用いた生産物への需要がある場所の近くで成長する持続可能な林業経済は、規模の経済を働かせ、生産と輸送のコストを引き下げる可能性を秘めています。マスティンバーを使用した建物は、従来型の化石燃料を大量に使用した建築物よりも短期間で建設できるため、すでに木材のコストは予想よりも下がっています。例えば、現在フィンランドで建設中のStora Enso本社ビルは、マスティンバーを使用することで、鉄骨造の同様のビルと比較し、二酸化炭素排出量を2,795トン削減できると見込まれています。また、建築の大部分はオフサイトで組み立てられるため、建築にかかる時間は短縮され、騒音や公害、現場での事故も減らすことができるとされています。
建設業界は、さまざまな環境的・社会的ガバナンスの目標達成や、二酸化炭素排出量削減へのコミットメントを口にしますが、他の多くの業界と同様に、惰性、分断、リスク回避、そして、自然の潜在能力を最大限に引き出すための資金不足など、課題に直面しています。私たちは今こそ、計画を行動に移し、データに裏付けされた実証済みの解決策をサプライチェーン全体で活用し、脱炭素化を確実に実現して行く必要があります。
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