高齢化と共に増加する認知症、急がれる共生社会の構築
認知症の患者数は世界で5,500万人にのぼり、年間1兆3,000億ドルの経済損失が生じています。 Image: Unsplash/Bertin Paquin
- G7長崎保健大臣会合では、誰もが安心して暮らすことのできる社会の実現に向けた取り組みの一つとして、認知症に関する項目が盛り込まれた共同宣言が採択されました。
- 世界的に高齢化が進む中、認知症に対して有効な新しい治療法の必要性が高まっていますが、なによりも、誰も取り残すことのない共生社会の構築こそ、早急に取り組まれるべき課題です。
- 日本では、高齢化に伴う認知症の影響に対応するために、研究や取り組みが積極的に進められています。
世界屈指の超高齢社会最先進国である日本が議長国を努めたG7広島サミットが、閉幕しました。同サミットに先駆けて開催されたG7長崎保健大臣会合では、新型コロナウイルスのパンデミックの教訓を生かし、安心して暮らすことのできる社会の実現に向けた取り組みをまとめた共同宣言が採択されました。認知症に関する項目が盛り込まれたことも、注目すべき点です。
認知症の予防、リスク軽減、早期発見、診断、治療を含めたトータルパッケージで健康アウトカムを改善するための研究開発を促進することで合意された宣言では、研究開発の分野において、アルツハイマー病を含むさまざまな種類の認知症に対して、疾患修飾の可能性がある治療薬の開発の進展を歓迎するとし、製造者が有効な新しい治療法をできるだけ早く世界市場に持ち込むよう努めることを推奨しています。
G7長崎保健大臣会合では、国際社会が連携して認知症施策を推進していくことを目的としたシンポジウムや、市民社会、研究者、産業界、行政などマルチステークホルダーが一堂に会し、医療提供体制のイノベーションについて議論を深める場も設けられました。
高齢化の進展とともに増加する認知症
2021年に、世界保健機構(WHO)は、全世界の認知症患者が5,500万人にのぼり、年間1兆3,000億ドルもの経済損失が生じているとのレポートを発表しました。その約50%は、1日平均5時間のケアと監視を行う家族や親しい友人などの介護者によって提供されるケアに起因しているとのこと。WHOが公衆衛生上の優先事項として進めている認知症の対応に関し、G7広島サミットの直後に開催されるWHOの世界保健総会においても、焦点が当てられる予定です。
日本では、総人口に占める高齢者人口の割合が2022年に29.1%に達しました。高齢化社会と切り離すことのできない認知症は、深刻な社会課題です。「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」の推計では、65歳以上の認知症患者数は、2025年には約675万人と、5.4人に1人が認知症になるといった予測もあります。
加速する新薬と技術の研究開発
日本の大手製薬会社エーザイは、米国のバイオジェンと共同開発した同社のアルツハイマー病疾患修飾薬「レカネマブ」の販売承認申請を、カナダの保健省が受理したと今月発表しました。レカネマブは、アルツハイマー病早期患者の症状悪化スピードを抑制効果があると期待されており、米国ではすでに販売が承認され、1月に発売されました。欧州や中国でも審査が進められており、日本でも優先審査の対象品目として指定されています。
また、3月には、東京医科歯科大学などの研究グループが、アルツハイマー病の薬を極めて小さな粒の中に包むことで、効率よく脳に届けることにマウスの実験で成功したことを発表。高額なアルツハイマー病の新薬は製造コストが高額ですが、この技術により、少ない量でも有効性を発揮する薬の開発につながることが期待されています。
アルツハイマー病の原因とされる脳の異常なたんぱく質を取り除く抗体を用いた新薬の開発が相次いで行われている中で、抗体はそのままの大きさではわずかしか脳に届かないため、効率が悪いことが課題となっています。同研究グループが開発した技術を用いることで、抗体が脳に届く量は、抗体を小さくしただけの場合と比べておよそ80倍に増え、効率が大幅に改善するとともに脳が記憶を維持しやすくなることが、マウスの実験で明らかになりました。
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