国の経常収支とは。経常赤字は経済に悪影響を与えるのか
経常収支は、国のお金の出入りを記録する指標です。 Image: Unsplash/adamnir
- 経常収支は、一国のお金の出入りを記録する指標です。
- 経常収支の大部分を占めるのは貿易ですが、海外直接投資の流れや、国外の在住者が国内に送金する仕送りの金額も影響します。
- 米ドル換算で、2021年の最大の経常黒字国は中国、最大の経常赤字国は米国でした。
- 経常赤字は悪いことのように受け取られることがありますが、必ずしもそうではなく、経常黒字がネガティブな傾向を示唆していることもあります。
国の経済の健全性を測る指標は数多くあります。最もよく知られているのは国内総生産(GDP)ですが、その他に、経常収支という指標があります。
日常的な金銭管理のために、個人が銀行に保有する当座預金と同じように、国の経常収支では海外とのお金の出入りが記録されます。経済協力開発機構(OECD)は経常収支を「国の対外的な経済取引の記録」と定義しています。
このようなお金の流れにおいて大部分を占めるのが、モノやサービスの貿易ですが、経常収支を構成する要素は貿易だけではありません。以下に例を挙げます。
- 海外に提供した、または海外から受けた資金援助
- 一国の企業が他国で長期投資を行う海外直接投資
- 居住者が受け取る給与または年金
- 海外居住者が母国に送金する仕送り
経常収支の算出方法は
一国の経常収支は、GDP比として米ドルで算出されます。入ってくるお金よりも出ていくお金の方が多いと、経常収支は赤字になり、支出よりも収入が多ければ、黒字となります。
先進国や高度開発途上国は、経常赤字になる傾向があり、新興国は経常黒字になることがよくあります。国連貿易開発会議(UNCTAD)による2021年の統計では、経常赤字国は北米・南米、アフリカ、南東ヨーロッパ、中央・西アジア、経常黒字国は中央・北ヨーロッパ、東アジア、オセアニアに多くみられました。
下表に示す通り、ドルベースで、2021年の最大黒字国は中国、最大赤字国は米国でした。
フィンランド銀行新興経済研究所によると、中国が多額の経常黒字を計上した背景には、輸出が好調で、海外直接投資の流入が流出を上回っていることがあります。また、中国の外貨準備と金準備の価値が急上昇したことも、黒字拡大を後押ししました。
米国の経常収支は、20年以上にわたって赤字となっています。非営利独立研究機関であるピーターソン国際経済研究所は、貿易赤字の拡大に加え、米国内の外国人投資家が米国内で所有している資産の価値が、米国企業の海外資産よりも大きいことも一因としています。
割合で見ると、2021年の GDP比の経常黒字が最も大きかったのは、ギニアとパプアニューギニアで、20%以上でした。UNCTADによると、経常赤字が大きい国は重債務貧困国で、GDP比3.7%、内陸開発途上国では 2.9%でした。
経常赤字は悪なのか
経常赤字は悪いことのように受け取られることがありますが、必ずしもそうではありません。
国際通貨基金(IMF)は、「輸入額が輸出額を上回るために赤字になっている場合は、競争力に関わる課題の可能性もありますが、貯蓄に対する投資超過の場合にも経常赤字になるため、経済の生産性が大きく成長しているために赤字になるケースもあります」と述べています。
また、最終的に高収益が見込まれる海外投資への資金提供によって、多額の負債を抱えて経常赤字になっている国や、国内向けに価値の高い完成品を生産するために原材料を大量輸入し、その費用によって赤字になる国もあると考えられます。
そして、経常赤字が大幅に減少したからといって、これが良いこととも限りません。経常赤字を大きく抱えた国には、通貨安のリスクがあります。
パキスタンの経常赤字は、2023年1月に90%縮小しましたが、これは自国通貨の価値がドルに対して4分の1以上下落したためで、この結果、ほとんどの輸入品の価格が大幅に高騰してしまいました
経常黒字は善なのか
経常収支が黒字であれば、余剰資金を投資や外貨準備に回すことができます。しかし、黒字は、政府部門の投資不足を示していることもあり、IMFはドイツに対して公共投資を拡大するよう促したことがあります。
さらに、経常黒字は経済が不均衡であることを示唆している場合もあります。「日本の経常黒字は、輸出競争力に加えて国内需要の低迷が原因となっています。内需低迷によって経済がスタグフレーションに見舞われ、これが賃金の低上昇率につながったのです」と、
インベストペディアは述べています。
経常黒字は、不況による個人消費の落ち込みと輸入需要の縮小に起因することがあります。世界経済フォーラムが発表した「チーフエコノミストの展望2023(Chief Economists Outlook 2023)」の回答者のほぼ3分の2が、2023年に世界的な景気後退が起こる可能性があり、多くの国では深刻な生活費危機によって個人消費が落ち込むだろうと答えています。
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