クリーンエネルギーへの政府支出が、世界で拡大する理由

クリーンエネルギーへの転換: 2020年4月以降に低炭素電力や輸送などに拠出された金額は1.2兆ドル以上です。

クリーンエネルギーへの転換: 2020年4月以降に低炭素電力や輸送などに拠出された金額は1.2兆ドル以上です。 Image: Unsplash/Sander Weeteling

Stefan Ellerbeck
Senior Writer, Forum Agenda
  • 国際エネルギー機関によると、ロシアのウクライナ侵攻以降、世界の政府がクリーンエネルギーに拠出した金額は、5,000億ドル増加しています。
  • 2020年4月以降、低炭素電力、輸送、建物や産業分野のエネルギー効率化を中心に、1.2兆ドル以上が拠出されています。
  • 拠出額の大半は先進国によるものであり、開発途上国は消費者の負担軽減策に重点を置いています。

ロシアのウクライナ侵攻による地政学的不確実性の高まりから、多くの国は、化石燃料への依存を減らすべく懸命な努力を続けています。

これは、国際エネルギー機関(IEA)による最新版の「エネルギー関連政府支出調査(Government Energy Spending Tracker)」で明らかになった重要な結果の一つです。IEAは、2020年4月から2022年10月に67カ国で実施された1,600近い財政措置を分析し、結果をまとめました。

グローバル危機により、クリーンエネルギーが拡大

IEAによると、2022年3月以降、政府によるクリーンエネルギーへの支出額が5,000億ドル増加しています。新型コロナウイルスのパンデミック発生以降、クリーンエネルギーに拠出された金額は、1.2兆ドル以上になりました。

IEAのファティ・ビロル事務局長は、「各国政府の危機対応は正しい方向に進んでいる」と述べ、「クリーンエネルギーへの転換に対する資金援助は過去最大規模であり、これがエネルギー安全保障を向上させ、燃料価格高騰が消費者に与える影響を和らげている」と付け加えました。

また、IEAは、クリーンエネルギーに対する政府の大規模な支出が「大きな民間投資の流れ」の起爆剤となる可能性が高いと考えています。これにより、世界の総合的なクリーンエネルギー投資額がさらに50%拡大し、2030年には年間2兆ポンド以上になると推定されます。

現在、クリーンエネルギー投資の大部分を占めているのは先進国です。
現在、クリーンエネルギー投資の大部分を占めているのは先進国です。 Image: IEA

投資規模が最も大きいのは電力部門

IEAのエネルギー関連政府支出調査によると、低炭素電力部門の資源が2020年4月以降に4倍に増加したとされます。主な要因は、2022年に施行の米国のインフレ抑制法(US Inflation Reduction Act)における租税優遇措置や、欧州諸国で新たに導入された措置だとされています。

また、同調査は、クリーンエネルギー投資に対する資金援助額が最も大きいのは、低炭素電力(2,900億ドル)で、次に公共交通機関・代替交通手段(2,560億ドルのうち、半分近くが高速鉄道)が続くことを明らかにしています。

また、次に規模が大きいのは、建物や産業部門におけるエネルギー効率向上(2,540億ドルで、うち半分はエネルギー効率向上に向けた改修に充当)、クリーン燃料と技術革新(1,770億ドル)としています。

クリーンエネルギーに対する政府投資支援策の地域別実施状況。
クリーンエネルギーに対する政府投資支援策の地域別実施状況。 Image: IEA

クリーンエネルギー投資への拠出は不均衡

IEAによると、新型コロナウイルス危機以降のクリーンエネルギーに対する政府の投資支援のほぼ全て(95%)が先進国で行われ、先進国全体では1兆1,450億ドルが投入されています。そのうち米国が約半分、インフレ抑制法による投資金額だけでも3,700億を占め、欧州連合(EU)が37%(約450億ドル)の投資をしています。

しかし、国際的な価格高騰により、途上国や新興国は消費者の負担軽減策に重点を置き、電気、輸送、調理用燃料のコスト削減に向けて1,140億ドルを短期的に投入しました。

IEAのビロル事務局長は、「このような地理的な偏りは懸念すべき事態であり、国際社会が介入して新興国や途上国におけるクリーンエネルギーの投資促進策をとらないと、多くの国が取り残される危険性がある」と警告しています。

エネルギー危機から消費者を保護する政府の措置

IEAは、グローバルなエネルギー危機により、消費者の負担軽減が政府の最重要課題になっているとしています。これらの支援策が始まったのは2021年9月ですが、ロシアのウクライナ侵攻を受けて大幅に拡大しました。

「支援策には減税、燃料補助金、エネルギー価格規制によるコスト補填、流動性支援(エネルギー企業の救済や融資・信用保証、請求猶予)が含まれ、世界の政府が国内の家庭や企業を対象に実施したエネルギー価格支援策の規模は、総額約6,300億ドルに上る」と報告書は述べています。

この緊急支援支出の8割以上を先進国の政府が拠出しており、うち半分以上を占めているのが、エネルギー危機によって大きな影響を受けるEUだとIEAは報告しています。

世界の政府によるエネルギー支出は、コロナ2019のパンデミック発生以来、地域によって大きく異なっています。
世界の政府によるエネルギー支出は、コロナ2019のパンデミック発生以来、地域によって大きく異なっています。 Image: IEA

クリーンエネルギーへの転換を追跡する

グローバルなエネルギー転換の基本となるのが、産業の脱炭素化です。産業排出量の 80%を占めているのが、5つの産業(セメント・コンクリート、鉄鋼、石油・ガス、化学、炭鉱)です。

世界経済フォーラムは、10年以上にわたって、「エネルギー転換指数(ETI)」を通じてグローバルなエネルギー転換を追跡してきました。「効果的なエネルギー転換の促進2022年報告書 (Fostering Effective Energy Transition 2022 Edition)」のアップデートでは、最近の ETIの動向を踏まえ、現在の課題と転換促進に向けた優先事項に焦点を当てています。

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