インテリジェントカーがモビリティ社会にもたらす3つのプラスの影響

モビリティ分野では、「ソフトウェア駆動」という新しい時代が到来しつつあります。

モビリティ分野では、「ソフトウェア駆動」という新しい時代が到来しつつあります。 Image: Getty Images/iStockphoto

Maya Ben Dror
Maria Alonso
Lead, Autonomous Systems, World Economic Forum
Nikolaus Lang
Managing Director and Senior Partner; Global Leader, Global Advantage Practice, Boston Consulting Group
Alex Koster
Managing Director and Partner, Boston Consulting Group
  • テクノロジーの急速な発展に伴い、自動車がスーパーコンピューターを搭載する流れが加速しています。
  • 自動車産業は変革期を迎えており、より安全かつサステナブルで、よりインクルーシブなモビリティの実現に期待が高まっています。
  • ソフトウェア駆動型の時代における自動車イニシアチブでは、自動車、新モビリティ、ICTの3分野の企業が連携し、モビリティ社会にプラスの影響をもたらすことを目指しています。

自動車を構成する最も複雑な要素といえば機械部分でしたが、それはもはや過去の話。自動車は今、スーパーコンピューターを搭載した車両へと進化を遂げつつあります。自動車業界そのものも、データやソフトウェア、AI(人工知能)の導入による変革期を迎えています。時代は、ソフトウェア駆動型自動車へと移行しつつあるのです。


自動車業界は、100年以上前にヘンリー・フォードがライン生産方式を初めて導入し、自動車の大量生産を成功させたとき以来、最大の変革期を迎えています。インテリジェントに進化した自動車は、自動車業界自体だけではなく、私たちユーザーのモビリティのあり方をも変えつつあります。それは、より安全且つサステナブルで、よりインクルーシブなモビリティを提供し、私たちの日々の移動にプラスの影響をもたらすものです。

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1. より安全なモビリティ

交通事故の90%以上は、ヒューマンエラー、つまり運転者のミスが原因であることが、米国運輸省道路交通安全局(National Highway Traffic Safety Administration、NHTSA)のデータやその他の調査で明らかになっています。交通事故による死者をなくすという目標を達成する上では、先進運転支援システム(Advanced Driver Assistance Systems、ADAS)などのテクノロジーが有効です。機械ならば人間のように同じミスを繰り返すことはありません。

では、ADASなどの安全テクノロジーは、どのように道路上の安全性を向上させるのでしょうか。それを説明するために、ソフトウェア定義型自動車が機能する仕組みを6階層に簡略化してまとめたのが図1です。この図では、これら6階層が道路上の安全にどのように寄与するか、例として道路上にある物体をどのように検知するかを簡単に示しています。

図1:インテリジェントな自動車とADASが機能する主要なプロセスを6階層で簡単に示した図。
図1:インテリジェントな自動車とADASが機能する主要なプロセスを6階層で簡単に示した図。 Image: World Economic Forum and Boston Consulting Group.

世界経済フォーラムでは、5年前から自律走行車(AV)に関するイニシアチブをいくつか展開しており、自動車業界の安全性確保に向けた取り組みと、AV公共政策を周知するための支援を行っています。その一つが、安全走行イニシアチブ(Safe Drive Initiative)です。このイニシアチブでは、AVの安全性への理解促進にまつわる課題を分析するとともに、実際の道路で安全走行を実現するためのシナリオベースのアプローチを提案しました

「ソフトウェア定義型自動車の実現には大きな課題がいくつかあります。それらを効率的かつ安全に解決していくには、業界で長期的に強固な協力関係を築いていくことが重要です」

―ボッシュ・モビリティ 事業部長、マルクス・ハイン博士

2. よりサステナブルなモビリティ

インテリジェントカーは、よりサステナブルなモビリティも実現します。例えば、電気自動車(EV)には機能性に優れたソフトウェアソリューションが求められます。テクノロジーの進化によってEVがよりインテリジェントになれば、電力網の安定化に貢献できるようになるでしょう。グリーンエネルギーが利用可能な状況であれば、それを優先的に選択して充電することができます。また、分散型の蓄電池として利用し、電力需要が高まる時間帯に電気を電力網に送り返すことも可能になります。


EVのカーシェアリングを普及させることにもサステナブルな効果があります。例えば、ニューヨークでは、現在駐車場となっているスペースのうち約900ブロック相当が解放されると見込まれています。また、ロサンゼルスでは、年間270万トンの二酸化炭素排出を削減できると試算されています。

「自動車産業は急速に発展しており、状況を明確に周知するためには『共通言語』が必要です。世界経済フォーラムのソフトウェア駆動型の時代における自動車イニシアチブは、そのニーズを満たす上で役立ちます」

―TTテック 最高経営責任者、ゲオルグ・コペツ氏

3. よりインクルーシブなモビリティ

インテリジェントカーは、パーキングアシストなどの機能によって運転操作が大幅にサポートされるようになっています。完全なAVが実用化されれば、運転免許を取得する必要も誰かに運転を頼む必要もなくなり、誰もが目的地まで気軽に移動できるモビリティ社会が実現します。


車載機能のカスタマイズや、シームレスでマルチモーダルな交通システムと組み合わせることで、移動がより容易になり、特に、遠隔地で暮らす人々や障がいを持つ人々や年配者に大きな恩恵をもたらすことになるでしょう。もちろん、一般の人々にもメリットはあります。例えば、世界経済フォーラムとボストン・コンサルティング・グループ(BCG)が過去に実施した調査では、ボストン市内では将来的にすべての移動の3分の1をオンデマンドモビリティによる移動が占めることになるという予測が出ました。

インテリジェントカーからプラスの影響解き放つには

ソフトウェア定義型のインテリジェントカーを実用化するためには、自動車とテクノロジー両産業の英知を結集するというユニークな協働が求められます。現在進行中の変革の道筋を示すとともに、インテリジェントカーからプラスの影響を得られるようにするために、世界経済フォーラムは、ソフトウェア駆動型の時代における自動車イニシアチブを立ち上げました。

BCGと共同で行なっているこのイニシアチブには、現時点ですでに30以上のリーディングカンパニーが参加しています。その根底には、安全性やインクルージョン、サステナビリティ、システムの総合的なレジリエンス(強靭性)の向上を図るために、業界横断的な取り組みや官民協働の可能性を引き出すという強い目的意識と熱意があります。

参加企業はこれまでに、ソフトウェア定義型自動車の実現に向けた階層と段階を示した共通の枠組みを共同で考案しています。図2は、実現までのプロセスの各段階と、そのプロセスを進めていく上で業界に求められる主要な戦略的意思決定を示したものです。これらの段階がそれぞれ、より安全で、よりサステナブルで、よりインクルーシブなモビリティの実現にも貢献していくことになります。さて、あなたはインテリジェントな自動車がもたらすメリットのうち、どれに最も期待しますか。

図2:ソフトウェア定義型自動車実現への道を4段階で示した図。
図2:ソフトウェア定義型自動車実現への道を4段階で示した図。 Image: World Economic Forum and Boston Consulting Group
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