公正、多様性、包摂性

ジェンダー平等を加速させる、インクルーシブなイノベーション・システム

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イノベーション・エコシステムは、イノベーション経済を構成する要素であり、ジェンダー・インクルーシブであることが必要です。

イノベーション・エコシステムは、イノベーション経済を構成する要素であり、ジェンダー・インクルーシブであることが必要です。 Image: Getty Images

Kusum Kali Pal
Specialist, Centre for the New Economy and Society, World Economic Forum
  • 3月8日は「国際女性デー」。女性の功績を称え、公平と平等の前進に向けて話し合う機会として設けられた記念日です。
  • 今年のキャンペーンテーマは、#EmbraceEquity(公平性の尊重)。国連は「DigitALL: ジェンダー平等のためのイノベーションとテクノロジー」をテーマに掲げています。
  • 企業は、STEMの男女格差を埋め、ジェンダーのステレオタイプに挑み、差別に立ち向かい、偏見に注意を向け、ジェンダー・インクルージョンを確保するためのシステムを導入しています。

イノベーション・エコシステムは、イノベーション経済を構成する要素です。人、リソース、制度、インフラの有意義な関わり合いによって、アイデア、プロセス、テクノロジーの進歩を引き出す重要な場であり、その対象は食料システムから健康や環境まで、生活のあらゆる分野に及びます。

各国は、イノベーション・エコシステムへの投資拡大に乗り出す中で、イノベーション・エコシステムをジェンダー変革力のあるもの、つまり、ジェンダー・ギャップの解消にとどまらず、ジェンダー平等のためのソリューションを形成するものとするチャンスを得ています。

イノベーション・エコシステムにおいて、女性が平等なステークホルダーになるためには、4つの条件が満たされる必要があります。

1. 未来の仕事への平等なアクセス:イノベーション関連の労働力に占める女性の割合は低く、例えば米国では、科学、工学分野の労働者の34%に過ぎません。テクノロジー分野ではここ数カ月、女性が不当なレイオフの影響を受けています。インクルーシブなイノベーション・エコシステムは、労働力のジェンダー・ダイバーシティを大いに高め、女性のキャリアの機会を向上させます。

2. インクルーシブなデザイン:革新的な製品、サービス、テクノロジーは、ジェンダーのバイアスを深めることなく、コミュニティの多様なニーズや嗜好をより適切に反映することができます。そのためには、ユーザー調査を実施し、開発サイクル全体で女性やジェンダー・ダイバース(性的多様性)な人々をテストの中心に据え、性別による役割や嗜好を前提としない設計を行い、バイアスがかかっていないかを点検し、ジェンダー・ダイバースな設計チームをつくることが必要です。

3. 資本への平等なアクセス:女性起業家は、資金やリソースへのアクセスに際して壁にぶつかることが少なくありません。米国では、2022年、創業者が女性のみのスタートアップに投じられたベンチャーキャピタル資金は2%にとどまり、ベンチャーキャピタリストのうち、女性はわずか8.6%でした。イノベーション・エコシステムが女性主導のベンチャー企業の特性やニーズに合った資金調達商品やサービスへのアクセスを橋渡しすれば、このギャップの縮小を促すことができます。

4. パートナーシップ:各国政府、企業、投資家、起業家、教育機関、市民社会など、イノベーション・エコシステムの主要なステークホルダー間で結ばれる重要なパートナーシップは、ほかの変革手段を網羅する役割を果たします。これらの重要なパートナーシップのもとで、リソースや専門知識、ネットワーク、新しい資金源を活用し、ジェンダー変革力のあるイノベーション・エコシステムを発展させることができます。重要なパートナーシップは、意思決定プロセスで批判的な声が排除されるのを防ぐこともできます。このことは、システムの変化を促すど同時に規模を拡大し、ジェンダー・インクルージブなイノベーション・エコシステムに向かうモメンタムを維持するために不可欠です。

国と企業の優先課題が競合する中、業界のリーダーたちがジェンダー・インクルージブでジェンダー変革力のあるエコシステムの発展を先導する機会を新たに得ているとすれば、それはどのようなものでしょうか。2人のリーダーたちが見解を示します。

「適切な投資と官民連携が、変化する世界でジェンダー・パリティ(ジェンダー公正)を進める鍵となります」

コーセラ チーフ・コンテンツ・オフィサー、マルニ・ベイカー・スタイン氏

ジェネレーティブAIのようなディスラプティブ(創造的破壊)なテクノロジーは、世界を進歩させ、機会を創出しますが、ジェンダーを含む既存の不平等を悪化させる可能性もあります。女性が新しい経済に参加する機会を平等に得られるよう、ジェンダー・パリティを加速させるための措置を講じることが極めて重要です。

パンデミック(世界的大流行)は、オンライン学習やテレワークの導入を加速させ、従来型の教育や職場で女性が直面する多くの障壁を解決することを可能にしました。オンライン学習は、教育やスキルへのアクセスをより平等にし、テレワークもまた、仕事やキャリアアップへのアクセスをさらに平等にします。マッキンゼーとリーンイン・オーグの報告書では、10人中9人の女性が主にリモートで働きたいと考えていること、また、テレワークを選択肢として提供している企業の70%以上が、女性や過小評価されたグループからより多くの従業員を呼び入れ、定着させていることが明らかになっています。

コーセラでは、オンライン学習がSTEM(科学、技術、工学、数学)分野におけるジェンダー・ギャップを縮小することを直接確認しています。グーグル、IBM、メタなどの企業が作成したエントリーレベルのプロフェッショナル認定書は、IT、UXデザイン、ソフトウェア開発などの新しいキャリアに女性が参入する手助けとなっています。

女性が新しい経済に参加する機会を平等に得られるよう、ジェンダー・パリティを加速させるための措置を講じることが極めて重要です。

コーセラ チーフ・コンテンツ・オフィサー、マルニ・ベイカー・スタイン氏

STEM関連の認定登録者に占める女性の割合は、2019年の25%から、2022年には38%に上昇しています。例えば、ガイアナ保健福祉省英国女子教育スキルパートナーシップなど、各国政府は新興国の女性と女子がコーセラでこれらの認定書取得を目指せるよう、数万の奨学金を用意しています。また、アメリカンドリーム促進ミルケンセンターでは、奨学生が認定プログラムを終了する際に、学士号取得に向けて単位を取ることができる道を提供しています。

変化が急速に進む中で、各国政府、企業、アカデミアが一体となり、社会と経済のモビリティを促進するためのシステムとインフラを構築する必要があります。これには、女性や女子に無償のオンラインSTEM教育を提供するプログラムへの投資や、ブロードバンドアクセス、地域の指導、職業紹介などへのアクセスとその実現を促す包括的な支援サービスのほか、より多くの女性がこうした重要リソースを利用できるようこれらのプログラムの認知度を高めることが含まれます。

適切な投資と官民連携があれば、私たちは変化する世界でジェンダー・パリティを前進させ、場所や経験に関係なく、どんな女性や少女にも次のフロンティアを形作るチャンスがあることを保証することができます。

「スキル優先の採用アプローチは、すべての人材、特に、女性のための平等な機会とキャリアパスをつくる上で重要です」

米国リンクトイン グローバル・パブリック・ポリシー・アンド・エコノミック・グラフ・チーム責任者、スザンヌ・デューク氏

労働市場は、機会に人材を適合させるという非効率的で不平等な方法のために、長い間負担を強いられてきました。特に、女性に関してはその傾向が顕著です。リンクトインの新しいデータでは、世界的に見ても、組織のリーダーのポジションに就いている女性の割合は3分の1に満たないと推定されています。人材はどこにでも存在しているのに、機会に関してはそうではないことは明らかです。

スキル優先の採用アプローチは、すべての人材、特に女性のための平等な機会とキャリアパスをつくる上で極めて重要です。リンクトインの考察では、企業が従来のように前職の肩書きなどの資格情報を優先することをやめ、スキル優先で採用した場合、人材プールに占める女性の割合は、女性の割合が少ない職種に男性が占める割合より24%以上高くなるとみています。

例えば、ドイツでは、「エンジニアリング・チーム・リード」の採用候補を過去の経験をもとに検索した場合、女性の割合は14%です。しかし、スキル優先のアプローチを採用して検索すると、女性の割合は35%に上昇します。より全般的には、企業がスキルを優先して採用した場合、全体の人材プールは男性が3倍増えるのに対し、女性は10倍増加します。

労働市場におけるジェンダー平等が実現するのはまだ先のことですが、ジェンダーの不均衡に今すぐ対処するために雇用主にできる簡単な方法があります。それは、スキル優先の採用はもちろんのこと、職務記述書に必要とされるスキルを明確に記載すること。これにより、より多くの女性が応募し、円滑に職を得ることができるようになります。

「企業がスキルを重視して採用した場合、全体の人材プールは、男性が3倍増えるのに対し、女性は10倍増加します」

米国リンクトイン グローバル・パブリック・ポリシー・アンド・エコノミック・グラフ・チーム責任者、スザンヌ・デューク氏

国際女性デーは、従来から変わることなく、これまでに成し遂げた進展を確認する大切な日ですが、私たちにさらに何ができるかを考える機会でもあります。来年、私たちはさらなる進歩を遂げる必要があります。そして、スキル優先の採用は、それを実現するための明確でインパクトのある、エビデンスに裏付けられた方法なのです。

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ジェンダー平等な成果を引き出す

女性は長年にわたり技術イノベーションに貢献してきましたが、その役割が過小評価されたり、認められなかったりすることが多くありました。今日、女性はテクノロジー消費者の大部分を占め、製品、サービス、プロセスの概念化における嗜好をけん引しています。しかし、イノベーション・エコシステムは、女性やジェンダー・ダイバースなグループを排除し続けており、絶好の機会を逃しているばかりでなく、大きなリスクを背負っています。

技術イノベーションは、ジェンダー平等な成果を引き出すことを可能にし、人材と能力を補完するソリューションを開発するものでなければなりません。加えて、根強いジェンダー・ギャップを解消する戦略を加速させるものであるべきなのです。

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「適切な投資と官民連携が、変化する世界でジェンダー・パリティ(ジェンダー公正)を進める鍵となります」 「スキル優先の採用アプローチは、すべての人材、特に、女性のための平等な機会とキャリアパスをつくる上で重要です」ジェンダー平等な成果を引き出す

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