オーストラリア第二の都市で自給自足&ゼロウェイストを実現する住宅「Future Food System」
オーストラリア第二の都市で自給自足&ゼロウェイストを実現する住宅「Future Food System」 Image: Unsplash/Jakub Kapusnak
自給自足生活と聞くと、「田舎暮らし」を想像する人が多いのではないだろうか。
そんな「自給自足生活」かつごみを出さない「廃棄物ゼロ生活」を可能にする住宅が、オーストラリア第二の都市として知られるメルボルンの中心地に建設された。オーストラリアのフラワーアーティストであり、建築家、環境活動家の、ヨースト・バッカー氏によって手がけられたこの住宅は、10ヶ月間という期間限定のプロジェクトとして一般に公開された。(現在は公開を終了している。)
Future Food System(フューチャー・フード・システム)と呼ばれるこの建物のテーマは「循環」。3階建てで、2つの寝室と1つの浴室があるこの住宅は、87平方メートルの限られた敷地内で、住まいを提供し、食料を生産し、エネルギーを生成する。自然界のサイクルとプロセスを模倣した設計が印象的だ。
建築材料となる木材は地元で自然伐採されたものを使用し、壁は有機栽培の藁を圧縮して作られ、天然の石灰で塗装されている。化学物質や毒物、接着剤などは一切使われていない。タイルはリサイクルされたコンクリートから作られ、再びリサイクルすることができる。
2階・3階のベランダ部分には、35トンもの土が積まれ、菜園用の巨大なプランターがいくつも並べられた。土の重さはコンクリートに替わる住宅の基礎となり、一石二鳥の役割を果たしている。敷地内には、植物、昆虫、カタツムリ、魚、ムール貝、甲殻類、ニワトリなど、全部で200種類以上の生物が暮らしている。生ごみや排泄物などの有機廃棄物は、バイオダイジェスター(※1)に投入され、発酵して調理用のガスや農産物の肥料となる。雨水は採取して植物への水やりやアクアポニックスシステム(※2)に利用し、敷地内の魚から出る廃棄物で植物を育てる。
また、バスルームの隣にはキノコの壁が設置された。シャワーの蒸気が壁を通り抜け、菌糸が繁殖しやすい湿度の高い環境を生み出している。そして、キノコが二酸化炭素を発生させ、隣接する吹き抜けに住む緑に栄養を与える。まるで生態系の中で生活しているようだ。
家のあらゆる機能が無駄をなくし、副産物を有効活用する仕組みになっている。
プロジェクト期間中は実際に2人のシェフが滞在し、敷地内で栽培された食材のみを使った食事体験や見学ツアーが提供された。
バッカー氏は、「私たち人間は廃棄物を発生させる唯一の種。自然界には無駄がなく、すべてが他の種の食料となる。循環型経済に移行すれば、原生林や森林の破壊を食い止めることができる。都市部での持続可能性と自給自足を促進するきっかけにしたい」と話す。
はじめから完璧を求めるのは難しい。自分の生活スタイルの中で無理なくできることから始めていくと、それが自分のメリットにもなり、それが結果としてサステナビリティにも繋がる。このプロジェクトはそのための選択肢を提示してくれたように思う。都市部でのサステナブルな暮らしを可能にする、食料・エネルギーを生産する次世代の住宅が、今後は本格的に求められてくるのではないだろうか。
※1 家畜の糞尿や生ごみなどを嫌気性状態(無酸素状態)において発酵させ、メタンガスを発生させる装置。その過程で発生するバイオガスをエネルギー源・熱源として使う。
※2 水耕栽培と養殖を掛け合わせた次世代の循環型農業。魚の排泄物を微生物が分解し、植物がそれを栄養として吸収、浄化された水が再び水槽へと戻る循環システム。
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