アジア太平洋地域のグリーンエネルギー転換を加速するには? 3人のリーダーが語るビジョン
膨大な人口を抱えるアジア太平洋地域が排出する温室効果ガスは、世界の総排出量の約45%を占めています。 Image: REUTERS/Stringer/World Economic Forum
- ネットゼロとグリーンエネルギー転換に向けたグローバルな取り組みが進む中、アジア太平洋(APAC)地域の動向が注目されています。
- エネルギー危機を背景に、開発ペースを上げて発展を進める国が増加しているAPAC地域では、エネルギー転換に効果的なモデルを構築し、取り組みを加速させることが急務です。
- APAC地域において、産業界の役割に焦点を当て、エネルギー効率化と再生可能エネルギーの導入を優先的に進めていくために必要なこととは。3名のリーダーのビジョンを紹介します。
ネットゼロとグリーンエネルギー転換に向けた取り組みが世界規模で進む中、アジア太平洋(APAC)地域の動向が大きく注目されています。
膨大な人口を抱えるAPAC地域。マッキンゼー・アンド・カンパニーによると、温室効果ガス排出量が多い国の上位10位に、APAC地域の5カ国(中国、インド、インドネシア、日本、韓国)が入っており、APAC地域の排出量は、世界全体の排出量の約45%を占めています。
多様性に富み、各国の状況に応じた取り組みが求められるのもこの地域の特徴です。例えば、インドは、急成長する経済の需要を満たすため、過去に例をみないほどエネルギーの供給拡大を目指してる一方で、政府は、2070年までにネットゼロを達成するという公約を掲げており、意思決定の重大な局面を迎えています。
専門家らは、「これまでのように、エネルギー燃料とブルー水素キャリアの供給元である石油大国に頼り、ときには国際価格の変動によって痛手を受けながら、エネルギー転換を進める。これがインドに与えられた一つ目の選択肢である」とする一方で、「研究・開発・実証に多額の投資を行い、電気分解コストの抑制を目指す。この選択肢を選べば、世界有数の低コストで太陽光発電を行う国としても改めて脚光を浴びることになる」とも述べています。そして、クリーンエネルギーのある明るい未来をインドにもたらすのは、ブルー水素ではなくグリーン水素であると主張しています。
APAC地域では、エネルギー危機が収束する兆しが見えない中、開発ペースを上げて発展を進める国が増えてきていますが、エネルギー転換についても効果的なモデルを構築して加速させていくことが急務となっています。
世界で最も多く自然災害が発生するこの地域。2014年から2017年の間だけでも、地震が55回、猛烈な嵐とサイクロンが217回、大洪水が236回発生し、6億5,000万人が被害を受け、3万3,000人が命を落としました。
適切な計画なしに都市化が急激に進行した結果、過密な都市部では気候変動の影響への脆弱性が目立つようになりました。これは、特に沿岸部や大河川の近くの地域で顕著です。
このような課題を抱えるAPAC地域が、産業界の役割に焦点を当てながら、エネルギー効率化と再生可能エネルギーの導入を優先的に進めていくためには何が必要でしょうか。APAC地域でのグリーンエネルギー転換の加速に向けた、リーダーたちのビジョンを紹介します。
「エネルギー転換は長く困難な道のり。そこには、協力、忍耐、理解、そして決意が求められます」
アショク・ラバサ氏
アジア開発銀行(ADB)民間部門業務・民間連携担当副総裁
世界全体でみても、化石燃料由来の温室効果ガスがきわめて多く排出されているAPAC地域では、膨大な数の人が電気やクリーンな調理用燃料に十分にアクセスできずにいます。これらの課題に対しては、継続的かつ果敢に取り組まなくてはなりません。
そして、その取り組みは、包摂的であるべきです。
エネルギー転換は長く困難な道のり。そこには、協力、忍耐、理解、そして決意が求められます。そして、大きな変革も伴い、その変革は抵抗にあうこともあるでしょう。
継続的かつ持続可能で公正なエネルギー転換を実現する上で、すべてのステークホルダーが、情報と知識を共有し、調整と参加の機会を得られるように取り計らうことが重要です。クリーンで現代的、信頼性があり手頃な価格のエネルギーシステムの利用を大幅に促進させるには、開発途上国に対し適切な政策と技術移転と追加の譲許的融資が必要だとADBは認識しています。
開発途上国に対する、適切な政策、技術移転、追加の譲許的融資が必要です。
”ADBは、2021年に新たなエネルギー政策を策定しました。目的は、APAC地域において、開発途上加盟国(DMC)が低炭素転換を加速させるための支援を行うことです。エネルギー効率と再生可能エネルギーの分野を中心に、DMCが検討すべき重要な優先事項や技術を多岐にわたって示しています。
私たちは、エネルギー転換を支援するための革新的なイニシアチブもいくつか進めています。例えば、エネルギー移行メカニズム(Energy Transition Mechanism, ETM)は、石炭発電資産を持続可能な方法で早期に廃止し、クリーンエネルギー発電に置き換えることを目指す最も重要な取り組みです。また、2019年には、東南アジアでのグリーンインフラ投資の活発化を目的とした、ASEANカタリティック・グリーン・ファイナンス・ファシリティ(ASEAN Catalytic Green Finance Facility)を立ち上げました。さらに、ベンチャー投資部門であるADBベンチャーズを通じて、スタートアップへの支援と投資も行っており、持続可能な開発目標の達成に寄与する影響力のある技術ソリューションを提供しています。これらは、現在進行中のイニシアチブのほんの一例にすぎません。そして今後も、取り組みを拡大させていく予定です。
「石炭発電のインフラと資産を、再生可能エネルギー用途に転換することが、ソリューションの一つになるでしょう」
ピーター・レイシー氏
アクセンチュア社チーフ・レスポンシビリティ・オフィサー兼グローバル・サステナビリティ・サービス・リード
エネルギー転換が勢いを増す中、それをさらに加速させる上で大きく貢献するのが、石炭からの脱却と再生可能エネルギー資源への転換です。特に、世界の石炭発電の75%を占める新興市場国と開発途上国にとっては、非常に重要です。
再生可能エネルギーへの転換にあたり、最も旧式で効率が悪い石炭を燃料とする発電所を再生可能エネルギー資産として再利用していくことは必要不可欠です。
再生可能エネルギーを新たに導入した場合の均等化発電原価は着実に低下しており、石炭発電よりも低くなっているケースは、全体の約77%を占めます。そして、その割合は2030年には99%に達する見通しです。
再生可能エネルギー転換にあたり、最も旧式で効率性が悪い石炭を燃料とする発電所を再生可能エネルギー資産として再利用していくことは必要不可欠です。
”閉鎖した石炭発電所を利用して別の方法で発電する、つまり再生可能エネルギー発電所として再利用することのメリットは、他にももあります。例えば、エネル社はスペインのテルエルという町の、EDP社はポルトガルのシネスという町の石炭発電所を、再生可能エネルギー発電所に転換する計画を進めています。既存の敷地と送電線の再利用、従業員の再雇用、主要な設備資産の再運用など多くのメリットがあります。
「この広大な地域の多様なニーズ、天然資源、そして社会情勢の違いを理解すること。それが第一歩となります」
宮永俊一氏
三菱重工業株式会社取締役会長
APAC地域には、生活向上のために多く電力を必要としている人々が多くいます。そして、世界中で利用されている物品の多くを生産する場所として、重要な役割を担ってもいます。
この広大な地域の多様なニーズ、天然資源、そして社会情勢の違いを理解すること。それが、手頃な価格で公正なエネルギー転換を実現していくための第一歩となります。
この困難な課題を実現するには、既存のインフラをよりクリーンな方法で利用できる高効率のガスタービンや、CCUSなどの技術の導入から、本格的な水素エコシステムや二酸化炭素エコシステムの開発に至るまで、利用可能なテクノロジーと持続可能な燃料のすべてを、余すことなく活用していく必要があります。例えば、三菱重工グループでは、世界トップレベルの二酸化炭素回収技術を提供しています。また、2025年までに100%水素専焼のガスタービンの実用化を目指しています。
政府のインセンティブも一助になりますが、ノウハウとベストプラクティスを共有することも必要です。そして、国際協力が重要なカギとなるでしょう。
”テクノロジーはすでに存在しています。真の課題は、それを適切かつスピーディーに磨き上げていくことです。そのためには、政府のインセンティブも一助になりますが、ノウハウとベストプラクティスを共有することも必要です。そして、国際協力が重要なカギとなるでしょう。
アジアだけでなく、世界中で自然環境を取り戻しより良い未来を築いていけるかどうかは、私たちの力に懸かっているのです。