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データの越境移転を促進すべき理由とは?

国際的なデータの流れは、巨大なスケールでの経済活動を可能にしますが、それが危機にさらされているのです。

国際的なデータの流れは、巨大なスケールでの経済活動を可能にしますが、それが危機にさらされているのです。 Image: Getty Images/iStockphoto

Fumiko Kudo
Project Strategy Lead, Centre for the Fourth Industrial Revolution, Japan, World Economic Forum
本稿は、以下会合の一部です。世界経済フォーラム 年次総会2023
  • 国境を超えた電子商取引は、全世界で推定2.7兆ドル規模に達しています
  • こうした恩恵を支えるデータの越境移転が、いま揺らぎつつあります
  • 市民の権利を守りながら、国境を超えたデータ流通の価値を維持・強化していくために、各国政府は実効的な国際的枠組みと官民連携の構築に向けて働きかけていく必要があります

世界経済は、目まぐるしいスピードでデジタル化が進んでいます。国境を越えた電子商取引は10年間で45倍に膨れ上がり、推定2兆7,000億ドルに達しています。現在、世界の商取引の3分の2近くがデジタルテクノロジー関連です。

2020年から2023年の間に、企業と政府は約6兆8,000億ドルという巨額の資金をデジタルトランスフォーメーションのイニシアチブに投入しました。これはフランスとドイツのGDP合計額に匹敵します。

変化のスピードがデジタル化を止めることはもうできないと感じさせる一方で、こうした巨大な数字の背後には未解決の多くの課題が隠れています。データの越境移転が、国家間の軋轢や企業間の不満の種になりつつあるのです。断片化した規制制度によって、デジタル革命という、より大きな変革であり人々の生活をより豊かにする変化が阻まれています。

現代の経済に欠かせないデータ流通

誰もがこの課題のステークホルダーです。専門的・技術的サービスのように、国境を越えたデータ流通に大きく依存している産業は、世界経済を成長させる最大の原動力の一つになっています。伝統的な製造業でも「スマート」工場や配送ネットワークの出現により、データへの依拠が高まっています。地球環境を救うにもデータは必要です。炭素排出量に関する情報は、複雑なグローバルサプライチェーン全体で追跡する必要があります。

データの越境移転を許容することが広範な恩恵をもたらすと知りながらも、データ流通のコントロールは手放したくないーーこれが各国の抱える根本的なジレンマです。自国内でのデータ利用を規制するだけでも十分難しいことですが、各国政府にとって、国外の組織(それが政府機関であるにせよ、テクノロジー企業であるにせよ)が自国民のデータを責任ある形で管理しているかのトラストを担保するのは、より困難を伴います。結果として、混乱を招くような矛盾を含んだデータ関連規制が増加しています。これに言語の壁や各国特有の障壁も加わります。規制を遵守しつつデータの可能性を最大限に引き出したいと考えている人にとって、課題の克服は一層難しいものになっています。

約4年前、日本がこのジレンマに対する解決策を提示しました。DFFT(Data Free Flow With Trust, 信頼ある自由なデータ流通)と呼ばれるこの構想は、G20G7の参加国に支持され、多くの国際貿易協定に取り入れられています。世界貿易機関(WTO)は、その原則を利用してグローバルな電子商取引ルールをめぐる交渉を進めています

こうした政府間の取組みに、民間側はボトムアップ型イニシアチブで呼応しています。欧州では、カテナ-エックス(Catena-X)やガイア-エックス(Gaia-X)などの革新的イニシアチブにおいて、自動車やクラウドサービスセクター向けのデータ連携基盤が開発されています。日本のGreen x Digital コンソーシアムは、企業のカーボンニュートラル達成を支援する同様のツール開発に向けた取組みを行なっています。こうしたプロジェクトによって、データ連携に関する政府間協定を支えるために必要なインフラが構築され始めており、グローバルなデータ流通の対象が消費者の取引データから産業データへと広がりをみせています。

規制の断片化が脅かすデータ流通

それでも、なお多くの課題が残されています。最も深刻なのは規制の断片化です。2019年にDFFT構想が浮上して以来、この課題はむしろ深刻度が増しています。

データ流通に関するルール形成は、地政学的な対立から切り離すことが困難です。グーグルやフェイスブックなど米国発のインターネットサービスを中国政府が規制し、ティックトックやウィーチャットなど中国発のインターネットサービスに米国政府が圧力をかけていることからも、このことが分かります。同時に、米国と欧州はプライバシーとデータ保護に関して共通の立場を見出すのに苦戦しています。2022年3月、米国とEUは大西洋間のデータ移転に関する代替フレームワークに合意しましたが、その2年前には、EU司法裁判所が米国のデータ保護規制は不十分であり、欧州から米国への個人データの移転に関する枠組みが「無効」との判決を下していました。他方、データのローカライゼーションに対する要求も高まっており、各国は国民や企業に関するデータの国内保存と海外移転制限を要求しています。またガバメントアクセスに関する交渉も一筋縄ではいきません。

データの越境移転のための強固な組織を

DFFTは、各国の異なる価値観に対応できる高い信頼性と柔軟性を備えたデータ移転・検証メカニズムを構築することで、国境を越えたデータ流通を促進することを構想しています。世界経済フォーラムが発行した最近の報告書は、DFFTが直面する現状の課題を概観し、政策メカニズムやビジネスにおける具体的なツールの方向性を提示しています。そして、より重要な点として、政策とビジネスの観点からDFFTの実現に向けたグローバルな議論の促進を提言しています。こうした取組みには、制度の構築が不可欠です。具体的な制度枠組みは、断片化を阻止するために必要なだけでなく、WTOなどにおけるハイレベルの議論と企業が構築中のプラットフォームをつなげるためにも必要です。

制度上のギャップを埋める大きなチャンスが次に訪れるのは、DFFTのコンセプトを発案した日本が議長国を務める2023年のG7サミットになるでしょう。日本の河野太郎デジタル大臣は、デジタル分野において「より強固で効果的な国際連携・協力関係の構築」することを日本が目指すと述べています。

「各国のルールを尊重しながらも、どの国はどういうルールでやっているんだという透明性を高めていき、またデータの活用例を積み上げていって、相互運用性を高めていきたい」と、河野大臣はコメントしました。

G7で取り上げられるデータ政策アジェンダのヒントは、経済産業省が今冬に発表する報告書にあるかもしれません。データの越境移転に関する研究会の最終報告書では、政府間パネルとマルチステークホルダーパネルの両方を含む、グローバルな常設フォーラムの創立を提案しており、そのフォーラムを通じて、データの越境移転に関する規制の情報をマッピングするためのグローバルなシステムの構築、データ品質に関する認証の策定、プライバシー強化技術に関する協力などの各種プロジェクトを議論し推進することが期待されています。

世界がDFFTの取組みを後押しする必要があります。データの重要性は極めて高く、国境という壁の中に停滞させておくことはできません。

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