サーキュラー・エコノミー

「リジェネレーション(再生)」が鍵となる?日本のサーキュラーエコノミーのこれから

自然の再生を促すビジネスづくりが、サーキュラーエコノミーへの移行を後押しするでしょう。

自然の再生を促すビジネスづくりが、サーキュラーエコノミーへの移行を後押しするでしょう。 Image: Photo by Su San Lee on Unsplash

Naoko Kutty
Writer, Forum Agenda
Naoko Tochibayashi
Communications Lead, Japan, World Economic Forum
  • 日本政府は、サーキュラーエコノミーへの移行に向けて、2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言しています。
  • 官民のサーキュラーエコノミーに向けた取り組みは、今後加速していくでしょう。
  • その取り組みに、リジェネレーションの発想が加えられることで、自然の再生に貢献するビジネスの創出が期待できるでしょう。

世界的な人口増大と経済成長は、資源、エネルギー、食料需要を増大させ、大量生産・大量消費を生みました。その結果として生じている大量の廃棄物は、気候変動、資源枯渇、海洋汚染を中心に、地球規模の環境課題を深刻化させています。最新の国連人口基金(UNFPA)の白書によると、世界の人口は現在79億5,400人。2050年には97億人を突破するものと予測されています。それに伴い、現在の世界の年間廃棄物量も20.1億トンから34億トンに大幅に増加すると、世界銀行は推計しています。

地球上の有限な資源を守り、持続可能な経済社会へと世界がパラダイム・シフトを図る中、日本においても、政府や企業がサーキュラーエコノミーへの移行に向けた取り組みを急いでいます。

変革に向けた、日本政府の着実な歩み

2020年に経済産業省が「循環経済ビジョン2020」を公表してから、この2年間で日本でのサーキュラーエコノミーを取り巻く環境は急速に変化してきました。サーキュラーエコノミーへの移行に向けて、日本が進むべき方向性を示したこのビジョンに基づき、政府は2050年までにカーボンニュートラルを目指すと宣言。2021年には、世界初、政府主導でサーキュラーエコノミーに特化した開示・対話ガイダンスが策定されました。企業が投資家や金融機関と円滑に対話をし、適切な評価のもと投融資を呼び込むための手引きとして、このガイダンスは作られました。その後の大きな動きは、今年4月に「プラスチック資源循環促進法」が施行されたこと。国民一人当たりが排出する使い捨てプラスチック廃棄量が世界で二番目に多い日本で、プラスチックの生産から資源化までのライフサイクルの随所に規則が設けられたことは、変革に向けた大きな一歩と言えるでしょう。

タンザニアで普及する、サブスクリプション型のビジネスモデル

国家レベルの動きと連動して、日本の企業も革新的な取り組みを進めています。空調メーカーのダイキン工業は、省エネエアコンを小規模店舗や一般家庭にレンタルし、使用料をスマートフォンのアプリを経由して定額制で受け取るというビジネスモデルを発案。現在、同社の子会社であるバリディバリディが、このサブスクリプションビジネスをタンザニアで展開しています。湿度が高く、気温は30度を超える日が多いタンザニア。一年中冷房が必要な暑さにも関わらず、エアコンの普及率は低く、わずかに設置されているエアコンも、故障や電気代の高さを理由にあまり使われていないのが現状です。このサブスクリプションサービスは、初期本体費用とメンテナンス費用がかからない上に、省エネ効果が高い同社のエアコンを使うことができるため、電気代も安価に抑えることができます。

また、このビジネスモデルで、エアコン廃棄時の冷媒の排出をゼロにすることも実現しています。エアコン内部に充填されている冷媒ガスは、二酸化炭素の600から2,000倍の環境インパクトがあると言われており、エアコンの廃棄時に大気中に放出されることが世界的に大きな問題となっています。そのエアコンの冷媒の回収がほぼ行われていないタンザニアで、バリディバリディは空調機の取り外しまで責任を持って行い、同国における環境負荷の低減に大きく貢献しています。「電力消費の60%削減と、冷媒の排出ゼロの両方を可能にしたのはこのビジネスモデルならでは」と、バリディバリディの朝田暉代表取締役は語ります。

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2050年を見据えた、タイヤメーカーのコミットメント

タイヤメーカのブリヂストンは、サステナブルなソリューションカンパニーとして、持続的に社会価値と顧客価値を提供することをビジョンとして掲げ、変革を加速させています。サステナビリティを経営の中核に据えた取り組みの一つとして、同社の製品に使用する原材料を「100%サステナブルマテリアル化」することを、2050年までの長期目標として設定。製品を軽量化することで使用する資源を減らし、再生ゴムなどの使用で資源を循環させ、天然ゴムの生産性の向上と供給源の多様化させる、といった3つのアクションを起こしています。

また、同社はさまざまなステークホルダーとのパートナシップにより、新たな価値を共に創造しています。今年2月には、エネオスグループとの共同プロジェクトを開始し、使用済のタイヤをケミカルリサイクルする技術開発を進めています。このリサイクルプロセスが実現すれば、二酸化炭素排出量の削減や再生可能資源の利用促進に大きく貢献することができると期待されています。

G7サミット、万博の開催を主導する日本

官民が、日本のサーキュラーエコノミー移行への取り組みに総力を上げていますが、その動きは今後加速していくでしょう。エジプトで開催されているCOP27(国連気候変動枠組条約第27回締約国会議)では、日本政府は国際的な排出量取引を規定するパリ協定6条の実施に向けたパートナーシップの発表を予定しています。そして、2023年4月には、G7気候・エネルギー・環境大臣会合が札幌で開催されることが決定しています。2025年には、大阪で万博が開催。「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに開催される大阪・関西万博では、サーキュラーエコノミーの実現がビジョンの中核に据えられ、準備が進められています。

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持続可能性から再生へ

地球環境が危機的状況にある今、これを維持するという意味での「持続可能」という概念の一歩先をいく「リジェネレーション(再生)」という新しい概念に基づく行動へと、変化していく転換期を私たちは迎えています。サステナブルな社会を実現するための行動の中心は、地球に対するネガティブな影響を減らし、環境負荷のできるだけ少ない方法で人々の生活と企業活動を継続させていくというものです。一方、リジェネレーションは、地球環境を回復・再生させながら、生態系全体を繁栄させることを目指すもの。日本におけるサーキュラーエコノミーの実現に向けたあらゆる取り組みにも、リジェネレーションの発想が加えられることで、「事業を行えば行うほど自然が再生されていくようなビジネスづくり」が後押しされるでしょう。複雑に相互作用する環境課題の解決への歩みをさらに加速させる要素は、まだまだあるのです。

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