食料と水

「スキンパック」がもたらすフードロス削減への道すじとは?

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SDGsが高まっている現在、食の未来を豊かに導く「スキンパック」がクローズアップされている。 Image: Getty Images

Forbes JAPAN

SDGsが高まっている現在、食の未来を豊かに導く「スキンパック」がクローズアップされている。

55年間、機能性バリアフィルムで、中身を守る技術を持つ住友ベークライトと、30年以上に渡り「スキンパック」の機械普及に尽力している東京食品機械が、Forbes JAPANに語った現場の取り組みと抱えている問題点を深掘り。そこにはSDGsの未来図が見えてきた。

フードロス削減に貢献する「スキンパック」


錠剤の薬を取り出すPTP包装(プレス・スルー・パック)のシートを日本で初めて製造し、55年間、日本の薬を守ってきた住友ベークライトと、食品包装機械最大手のドイツのムルチバック社を本社に持つ東京食品機械がタッグを組んで取り組んでいるのが「スキンパック」だ。

「スキンパック」とは、加熱したフィルムを上から被せて空気が入らないようにピタッと密着した包装方法。尖った画鋲から柔らかいお餅まで、あらゆるアイテムに活用出来る高度な技術で、海外のスーパーマーケットで売られているステーキ肉を思い浮かべると分かりやすいかもしれない。

「日本では、ハム、ソーセージ、惣菜などがスキンパックで売られていますが、精肉に関しては、トレイにラップを掛けて売るスーパーが圧倒的に多いです」と語るのは、住友ベークライト 執行役員フィルム・シート営業本部本部長の田中 厚。全ての営業部に携わっているなかでも、とりわけ食品に対する思いが強い田中は、消費者の動向を肌で観察したり、若い部下達からスキンパックを普及させるヒアリングを行ったりと、徹底的な現場主義の持ち主だ。

一方、ドイツから真空開発機を日本に導入し、加工品からチーズや卵焼きといった食品まで、真空パック、ガスパック、スキンパックといった食品の保存性を延長するパック一筋で市場に広めてきた、東京食品機械取締役会長の秦哲志。

「真空開発機は、1989年にドイツでスタートし、今、欧米では、トレイパックを見る事が出来ない位に普及しました。国内では、1991年に日本一号機を導入し、私自身30年以上スキンパックに携わってきました。ここにきて、SDGsの追い風もあり、フードロス削減に取り組める手段として、市場拡大を狙って頑張っているところです」

比較で判明!「まだ赤いお肉が新鮮だと思ってる?」

何故フードロス削減になるのか?お肉を例にとってみよう。「トレイパック」「真空パック」「スキンパック」と3つの包装されたお肉の賞味期限。これを比較した場合、トレイパックは11日目にカビが発生し、真空パックは21日目にドリップで濁ったが、スキンパックについては28日目でもクリアな状態が保たれた。

さらに、スキンパックに包まれたお肉には、熟成化が進み、肉質に旨味が加味されたという研究結果も。「お肉を買ったけど、賞味期限が過ぎて捨ててしまった」という買い手側と、売り手側の「売れ残ってしまい、破棄する」という、双方に起こるフードロスの削減に一役買うのがスキンパックのメリットだ。

「破棄する食品ロスも売上のうち」と認識されているスーパー業界。ところが、その流れをがらりと変えたのがダイエーだったという。「SDGsの意識が実感され始めたのは、2015年から。ダイエーさんがフードロスを削減しようと、真っ先に手を挙げて下さいました」と語る秦。

ところが、2017年にスキンパックの展示会を開催した時のこと。「『何だ、こりゃ?!』みたいな空気に包まれまして(笑)。人工的に見えるサンプルのような見た目に、皆、腕組みしてお互いの動向を探っている感じ」だったという。

「それが、2020年から認知度が高まってきました。現在スーパーだけでなく、食品加工メーカーにも売り込んだり、経営資源を投資して機械をレンタルしたりもしています」と、市場拡大に尽力。現在は、ダイエーとイオン系列のスーパーに導入されている。

スーパーに並んだ赤い肉色のトレイパックに対して、肉本来の黒みがかった色を成すスキンパック。色が黒みがかっているのは、スキンパックにすると酸化しないので、精肉が新鮮だからという事実は、多くの人に、まだ浸透され尽くしていないのが現状。そこで、消費者の意識改革がキーポイントとなる。

「最近では、スキンパックは良いものだと理解され始めてきましたが、それでは、実際手に取り買ってくれるのか? が今後の大きな課題。 YouTubeを活用したり、神戸ビーフなど黒毛和種牛肉の美味しさについて研究されている神戸大学農学部の上田修司先生と、スキンパック包装の可能性について相談したり。先日は、部下達から、骨付きラム肉など、バーベキューをするアウトドアに最適なのでは?と提案を受けたりしました」と、田中はあらゆる局面からスキンパックの可能性を探っている。ターゲットは、SDGsに意識の高い若者層となるのを肌で感じたという。

スキンパックで見えてくる未来

スーパーマーケットに於ける精肉の販売価格は、恐らく破棄する分もあらかじめ見込んで設定されている。その結果、食品ロスとなる破棄費用を、実は買物客が支払っているのである。

現在、グローバル・アジェンダとしての食品ロス問題。総務省によると、年間570万トン破棄されている。これは、国民一人当たり、年間約45キロを廃棄している事になる。さらに、事業系食品ロスは、309万トン。実に54%が、食べられる事なく破棄されているのが現状。「20億人の人口増加が見込まれる未来、野放図に畜産産業を広げすぎて良いものか?」と疑問を呈する秦は、先取性とアイディアに溢れている。

「屠畜場の横で、スキンパックしたらどうかな? と閃きました。レストランでの熟成肉は、一定の温度で保管したお肉の表面に付着したカビを削ぎ落として食べる乾燥熟成。一方、スキンパックは、肉そのものが変化するウエット熟成。解体したお肉を一つも取りこぼさず全て使いきる事は、SDGsの時代の食べ方になるのではないでしょうか?」

コロナ禍で変化した生活スタイルや、女性の社会進出で増えた共働きに於ける日々の食生活。田中は「毎日スーパーで買物をしなくても、精肉をまとめ買いし、2週間後の熟成されたお肉を楽しめるのがスキンパックです。輸出にも適していると確信しているので、近い将来、屠畜場で解体した美味しい日本の和牛を世界に輸出したいですね」と語る。

紆余曲折した開発過程の苦労も。「いかに日本市場にマッチするかを意識しました。思い通りの追従性が出せず、ドリップが生じる失敗があったり。また、発泡スチロール素材のトレイは、低温で使わないといけないので、最終的には、耐熱加工と密着性が改善点でした」。高分子化学に於いて、ポリマー同士を網目のように繋ぎ、連結し、物理的&化学的性質へと変化させる反応を「架橋」と呼び、特許も取得。これがスキンパックの強みとなった。「この機能性バリアフィルム技術を使って、最も社会貢献出来る分野が精肉でしたので、精肉分野を開拓したのです」と田中。

一号機を売ってから、30年以上経過してさらなる深化を図る東京食品機械の秦と、マーケットに対して裾野を広げて活躍する住友ベークライトの田中による真摯な取り組みは、これまでも今後も続く。結局、SDGsって環境に良いだけじゃない。自分達にとって、豊かな食生活を通して、文化や社会を取り戻すきっかけとなる素敵なことなのだ。

文=中村麻美 インタビュー=谷本有香

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