ジェンダー・ギャップ解消が経済危機を救う
グローバル・ジェンダー・ギャップ・レポート2022:「ジェンダー・パリティは全ての人に利益をもたらします。」 Image: REUTERS/Michael A. McCoy
- 世界経済フォーラムの「グローバル・ジェンダー・ギャップ・レポート2022」が、7月13日に発表されました。
- 今年で16年目を迎えるこの報告書は、4つの分野におけるジェンダーに基づく格差の推移をベンチマークとしています。
- 同レポートによると、新型コロナウイルス感染拡大と世界経済における複数のショックが、引き続きジェンダーギャップの解消の妨げとなっていることが明らかになりました。
不況によって影響を受けるのは、これまでは主に男性でした。今は違います。女性の方が大きな影響を受けています。
今日の不況以前は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)や、グローバル経済に影響を与える複数の要因がジェンダー・ギャップの解消の遅れを引き起こしていました。そしてパンデミックの渦中、女性が失業する可能性は男性よりも1.8倍高くなり、その後の経済停滞による混乱は、女性にさらなる大きな影響を与えています。
今年の「グローバル・ジェンダー・ギャップレポート」によると、グローバル・ジェンダー・ギャップ(世界男女格差)は68.1%解消。また、グローバル経済の混乱が3年目を迎える中、ジェンダー・パリティ(ジェンダー公正)の達成にはさらに132年要するとみられています。2021年に発表された136年からは若干改善されましたが、2020年以前に記録された「100年」よりも大幅に長い期間を要する予測となったのです。
つまり、ジェンダー・パリティの達成が一世代分遅れており、現在の経済不況で最も苦しい立場にいるのが女性なのです。
今日の不況が、女性に深刻な影響を与えるのはなぜか
2022年の労働力におけるジェンダー・ギャップは62.9%。これは、ジェンダーギャップ指数の算定が始まって以来最低の水準を記録したことになります。
さらに、労働力における不平等は、パンデミック中にさらに拡大。育児や介護にあたる女性の負担が増え、旅行や観光、小売など女性が多く働く分野が休業状態に追い込まれました。同時に、ヘルスケア、教育やエッセンシャルワークの一部など、多くの女性が雇用されている分野が、最も厳しい状況に置かれているのです。
リーダーシップを発揮する職位の女性の登用に関し、「グローバル・ジェンダー・ギャップレポート」は、女性がリーダーの役職にいる割合は、製造業で19%、インフラで16%にとどまると発表しています。一方、非政府組織や教育などの分野では、リーダーシップを発揮する女性の割合は40%以上。多少の進歩は見られるものの、フォーチュン500企業の女性最高経営責任者(CEO)の割合は、全体のわずか8.8%です。
介護・育児や生活費の危機的状況に対応する負担は、圧倒的に女性にかかっています。また、経済的な苦境にある女性は、精神的・肉体的ストレスも増えるため、個人的または仕事上でトラブルを抱えるという悪循環に陥っているのです。
世界的な失速
今年で16年目を迎えた世界経済フォーラムの「グローバル・ジェンダー・ギャップレポート」は、「経済」、「教育」、「医療へのアクセス」、「政治参加」の4つの分野を、ジェンダーに基づく格差のベンチマーク(基準)としています。また、労働市場におけるジェンダー・ギャップの拡大に世界的影響を与えた要因についても考察しています。今年のレポートでは146カ国が調査対象となりました。ジェンダー平等では、アイスランド(ジェンダー・ギャップ90.8%解消)、フィンランド(86%)、ノルウェー(84.5%)が上位を占めています。また、サブインデックスでは、医療へのアクセスにおけるジェンダー・ギャップは95.8%、教育は94.4%、経済は60.3%解消していますが、政治参加は22%と後れを取っています。どのサブインデックスも2021年の数値からほとんど変化しておらず、危機に見舞われたこの一年は停滞していることが分かります。レポートが示すように、格差を測定し、原因を理解することが、格差解消への第一歩となるのです。
ジェンダー・パリティを加速する
ジェンダー・パリティは全ての人に利益をもたらします。ヒューマンキャピタル(人的資本)が多様であれば、企業はより創造的で生産的になりますが、それは経済の再建と再構築を進める過程に不可欠な資質です。女性が労働力に占める割合が多い国は生産的で包摂的、かつ持続可能な成長を遂げる可能性が高くなります。そのため、ジェンダー・ギャップを解消し、パンデミックによる損失を補っていくことが、力強いリカバリーを早期に実現する上で重要です。
1. 政府と企業のトップは、影響を受けた産業に改めて焦点を当てる必要があります。これにはヘルスケアと教育を再評価して、いわゆるエッセンシャルワークを、日常生活を維持するために不可欠な職業とみなすことも含まれます。適切な報酬を支払い、専門性を向上させることが、こうした職業の重要性を認識することにつながります。
2. 介護インフラへの投資も対象となる分野の一つです。また、この分野は雇用創出にもつながるため、経済への乗数効果も多くあります。政府は、物理的なインフラを強化するものとして、経済成長を可能にする介護インフラとヒューマンキャピタルへの投資を検討する必要があります。
3. 差別を容認することなく、金融サービスへのアクセス、インターネットアクセス、法的保護の強化など、アクセスや環境の整備に焦点を当てることも、世界の多くの地域で重要になります。このような施策は、不利な立場にある人々を含む、すべての人々が成功できる環境を整備するために不可欠なものです。
4. リーダーシップとロールモデルがきわめて重要になります。非政府組織、教育、パーソナルサービス、福祉分野では、リーダーシップを発揮する職位にいる女性の割合が40%を超える傾向にある一方、エネルギー、IT、製造、インフラなどの業界では20%を下回る傾向にあります。政治的リーダーシップにおいても同様です。企業や政治の分野でパイプ役を務めるリーダーを育成するなど、積極的なアプローチが必要なのです。
5. 最後に、私たちは、将来に向けてより良い準備をし、多くの女性がこれから生まれる未来の産業や仕事に就き、世界の経済を設計ことが可能になるようにする必要があります。また、テクノロジー主導の経済が円滑に機能するためには、より多くの女性がAI(人工知能)、クラウドコンピューティング、データ、バイオテクノロジーなどの分野に参入して、将来に向けたこれらのシステムの設計において中心的な役割を果たすようにならなければなりません。企業が高校や大学まで遡って対策を実施することが重要です。
グローバル経済をより持続可能なものにするためには、レジリエンス(強靭性)と包摂性を定着させることが重要です。成長によってこの危機を脱するためには、新しい形のエネルギー、アイデア、リーダーシップも重要です。今は、ジェンダー・パリティを後退させるのではなく、私たち自身のために変化を加速させる時なのです。
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