過去最長の「不健康寿命」- 直面している私たちが、取り組むべきこととは
私たちは今、過去最長の「不健康寿命」という課題に直面しています。 Image: UNSPLASH/ Emma Simpson
- 平均寿命は延びていますが、その一方で、不健康な状態で過ごす時間も長くなっています。
- McKinsey Health Institute(マッキンゼー・ヘルス・インスティテュート)の新たな研究によれば、この状況は私たちの手で変えられるのです。
- 医学の進歩や生活習慣の改善が実現すれば、私たちはさらに6年長く、質の高い生活を送ることができます。
平均寿命の伸長が悪いこととして語られるケースは稀ですが、不健康な状態で過ごす年月が伸びているとすれば、果たしてそれは喜ばしいことなのでしょうか。
今回、マッキンゼー・ヘルス・インスティテュート(MHI)の新たなレポートで明らかとなったのは、私たちは今、史上最も長い年月を不健康な状態で過ごしている、という現状です。しかし同時に、同レポートは、この状況は私たちの手で変えられるとしています。
医療技術がさらに普及し、健康的なライフスタイルを実現することができれば、私たちはさらに6年、質の高い人生を楽しむことができます。しかし、そのためには、変化を受け入れる姿勢が必要です。
世界の平均寿命は1800年から2017年にかけて30歳から73歳へと2倍以上に伸びていますが、同レポートによると、健康状態が悪いか、中程度のレベルで人生の半分を過ごしているという状況は変わっていません。
同レポートはさらに、「低所得国と高所得国の間では平均寿命に18年の差があり、最低平均寿命と最高平均寿命の間には30年もの差がある」とし、健康格差は依然として大きな問題であることを指摘しています。
低所得国の妊産婦死亡率は、高所得国の最大100倍。また、先進国では小児がん患者の生存率が80%であるのに対し、低所得国では30%にも満たないのです。
パンデミックからの教訓
しかし、新型コロナウイルス感染拡大の中で見られた、急速な医療革新と人々が行動を変えようとする意思に注目し、私たちにはより長く健康的に生きるために必要な変化をすぐに起こす力があるとも、報告しています。
「新型コロナウイルス感染拡大が、人類をかつてないスピードとスケールで動かした」ことを根拠とし、「この成功は完璧にはほど遠いが、可能性があることに挑戦する勇気を与えてくれるはずだ」と強調。
MHIはさらに、「健康とは何か」を根本的に考え直す必要があると主張しています。単に病気を患っていないことを健康とするという従来の定義は、もはや人々の願いや最新の科学的研究とは合致しません。
同レポートは、70年以上前の考え方に立ち返ることを薦めています。1948年世界保健機関(WHO)の設立規約では、「健康」を「身体的、精神的、社会的にウェルビーイング(幸福)な状態であり、単に病気を患っていない、または病弱でないことを指すものではない」と定義しました。
一方、MHIは健康を「相互に関連性と依存性がある身体的、精神的、社会的、スピリチュアルな状態からなるもの」として定義し、こうした考え方が、より健康的な生活への新しいアプローチの基盤となるべきだとしています。
健康的な生活を送るための6つのステップ
同レポートは、以下の6つのステップにより人々は質の高い生活を長く送ることが可能になり、その年数を全世界で合計すると450億年以上にもなると報告しています。
1. 予防と健康的な行動の促進への大きな投資
世界人口の健康状態を改善することで得られる経済効果は、かかるコストの最大4倍に達すると推定されます。一方、経済協力開発機構(OECD)諸国における予防、ワクチン接種、健康教育への投資は保健予算のわずか2.8%に過ぎないのが現状です。
2. 測定の促進とより良いデータの活用による健康への理解の向上
「測定は改善の基礎である」。測定を行うことにより、何が効果的かを理解した上で、資源の配分ができるようになるからです。しかし、健康を総合的に見た際に影響のある要因に関して、現在体系的に測定が行われているものはわずか5%なのです。
3. 効果のある医療の普及
既存の医療をより広く普及させるだけで、健康問題の影響は40%削減できると同レポートは主張。子どもの死亡率は65%減少し、典型的な65歳の人は現在の平均的な55歳と同じくらい健康になることができるのです。
4. イノベーションの多様化、迅速化
新型コロナウイルス感染拡大以前、ワクチン開発には最短で4年の年月がかかっていましたが、新型コロナウイルスワクチンはわずか12ヶ月で完成。これはイノベーションの迅速化が可能であることを証明しています。また、パンデミック(世界的大流行)を受け、デジタルヘルスツールへの投資も倍増しているのです。
5. あらゆる産業の可能性の解放
食品・飲料メーカーから運輸部門まで、世界のすべての企業には人々の健康増進のために担う役割がある、と同レポートは述べています。各企業には、従業員の健康と精神的なウェルビーイング促進に向けてもさらなる努力が求められます。
6. 「自らの健康を守る」生活へのナビゲート
同レポートによれば、不健康な食生活、低い活動レベル、睡眠不足、薬の使用、喫煙は、世界の死因の最大60%を占めています。ソーシャルメディアを通じたナビゲートは、不健康な行動を変える一助となるかもしれません。
さらに同レポートは、「これは人類の健康の歴史における決定的瞬間である」とし、健康の劇的な改善には「より長く、質の高い生活の実現に向け社会のマインドセットと行動を大きく変えるためのこれまでにない協力が必要」と述べています。
世界経済フォーラムが発表した「グローバルリスク報告書2022年版」によると、メンタルヘルスの悪化はグローバルリスクの上位5つのうちの一つであり、パンデミックによりその状況はさらに悪化。また、グローバルリスクの8番目に「感染症による脅威」も挙げられています。
さらに同報告書では、今後2年間に世界が直面する重大な脅威トップ10の5位に感染症、6位にメンタルヘルスの悪化がランクイン。パンデミックは健康格差を拡大し、世界の医療制度に深刻なストレスを与えているとも警告しています。
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