サステナブル・リカバリーを加速するための3つの条件
テクノロジーは経済のバックボーンを変革し、サステナブル・リカバリーを可能にします。 Image: Siemens AG
- 今は、サステナブルな未来を形作るための、またとない機会です。
- 残された時間はわずか。あらゆる側面で行動を加速していく必要があります。
- テクノロジー、スキル開発、そしてグローバルな協力が最も重要です。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が発生したとき、私を含め多くの人々が、これを機に世界をより良い方向に変えていこうと話していました。私たちは、この危機に対する人類の対応力、そして適応能力に感銘さえ受けました。人類は記録的な速さでワクチンを開発・製造し、最悪の事態は過ぎ去ったという希望を持てるようになったのです。
しかしその後、サステナブル・リカバリーに向かう中で、私たちは更なる問題に直面しました。インフレ率の上昇、エネルギーの不足、サプライチェーンの混乱、新型コロナウイルスの変異株の出現による金融市場の動揺。そして、一時的に減少した二酸化炭素の排出量は再び急増し、地球温暖化防止への道が遠のいてしまいました。
絶好の機会が消えてなくなったわけではありません。しかし、私たちが行動を加速させなければ、サステナブル・リカバリーを実現する機会をまたしても逃してしまうでしょう。
私が取り組みを強化すべきと考えている行動分野は、以下の3つです。
1. テクノロジーを活用した経済の変革
産業、建物、エネルギー、輸送システムなど経済のバックボーン全体を変革していく必要があることは明らかです。より少ない資源でより多くのことを行い、持続可能で公平な成長を実現する必要があります。
幸いなことに、これを実現する技術を私たちは持っています。再生可能エネルギーと輸送の電化の統合を可能にするスマートグリッド技術や、製造業やサプライチェーンの持続性とレジリエンス(強靭性)を高めるデジタル技術などがあります。
サプライチェーンのレジリエンス(強靭力)と持続性を高める
これは昨年、長期間に渡って大々的に報道されていたため驚きはないと思いますが、多くの経営者がサプライチェーンのレジリエンス向上を今年の優先事項としました。経営者が直面する最大の障害の一つは透明性の欠如です。マッキンゼーの推定では、自社のサプライベースを第2層以降まで可視化している企業はわずか2%。戦略的関連性がある商品について、下請け供給者の構造がわからないようでは、潜在的なリスクや脆弱性を特定することは困難です。
サプライチェーンの透明性を確保しないことには、レジリエンスを向上させたり、サステナビリティの問題に対処したりする能力が限定されてしまいます。平均すると、製品の二酸化炭素排出量の90%は生産時ではなくサプライチェーンで発生しています。製品のカーボンフットプリントを効果的に削減するには、企業はこの分野でも重点的に取り組む必要があるのです。
ここでも解決策はテクノロジーです。二酸化炭素の排出場所を明確にするためにブロックチェーンなどのデジタルツールを適用すれば、組織同士が協力してバリューチェーン全体の排出量を追跡・管理することができます。同様に、デジタル技術を適用することで企業はサプライチェーンの透明性と柔軟性をリアルタイムで高めることができ、潜在的な障害や混乱に積極的かつアジャイルに対応することができるようになります。
サステナビリティへの道のりは容易ではない
昨年起きたエネルギー不足の際には、再生可能エネルギーへの移行の難しさを垣間見ることができました。変動する供給と分散型エネルギー源という複雑な状況を管理するには、AI(人工知能)などのデジタル技術と革新的なストレージソリューションを組み合わせる必要があります。
これを機能させるための仕組みが、ドイツのブンジーデルという小さな町で作られています。私が初めてこの町を訪れたのは2016年でした。かつては産業が衰退し、失業率が高い町でしたが、現在ではデジタル技術やストレージソリューションが支える太陽光発電、風力発電、バイオマスといった再生可能エネルギー産業で栄えています。テクノロジーの変化を取り入れることによって、コミュニティの運命を逆転させられることを示す力強い一例です。
2. デジタルトランスフォーメーション推進に必要なスキルの確保
持続可能で包摂的なリカバリーを実現するためには、人々が将来的に成功を収めるために必要なスキルを習得できるようにしなければなりません。
パンデミックの発生前においても、デジタルトランスフォーメーションによって仕事の世界や必要とされるスキルが変容していました。パンデミックの発生以来、数百万人もの人々が仕事を失い、デジタル化が進み、スキルの格差が拡大しています。
技能開発への投資は、経済だけでなく個人にも恩恵をもたらします。世界経済フォーラムとPwC(プライスウォーターハウスクーパース)の研究では、スキルの格差が最も大きい組織が、最も利益を得る可能性があるとしています。同研究の経済モデルでは、アップスキリング(技能向上)とリスキリング(新たな学び・研修)、さらに安価な労働力からテクノロジーを駆使した仕事への移行により、GDP成長を押し上げる絶好の機会を得られることが明らかになりました。
デジタル技術をより身近なものに
市場におけるテクノロジーの変化に対応するため、私たちは従業員に継続的な学習の機会を提供しています。仕事をしながら家族を養い、なおかつ講座を受ける時間を確保するのは簡単なことではありません。しかし、10万点以上のデジタル教材を揃えた当社のオンライン学習プラットフォームを利用すれば、迅速かつ手軽にスキルを身に着けることができます。
また、私たちは、世界経済フォーラムやケンブリッジ大学などの組織と提携して、将来のスキルやテクノロジーがどのように人々を補完し、力を与えることできるかを明らかにする研究を行っています。従業員と協力して進めているある取り組みでは、4IRテクノロジーで製造業の従業員の日常業務をサポートするだけでなく、67歳の定年まで年齢を重ねても同じ業務を続けられるような方法も研究しています。
3. 世界のエコシステムの強化
取り組みの強化が必要とされる最後のトピックは、グローバルな協力関係です。
今こそ、世界が一つになって取り組むべきです。人類が直面している問題は、どのような組織、セクター、国であっても、単独で取り組むには規模が大きすぎます。世界のエコシステムが協力して、革新的なソリューションを開発すること、そして、カーボンプライシングなどの分野で各国が共通のアプローチを推進し、テクノロジーやスキルの開発に投資することも必要です。
既に多くの政府が、サステナブル・リカバリーに向けたデジタル化と脱炭素化の重要性を認識し、景気刺激策においてもそれを重視してきましたが、そのペースを上げる必要があります。各国政府はグリーンテクノロジーの導入を促進し、産業界と協力して新技術の開発を加速していかなければなりません。
実際のところ、我々に残された時間はわずかです。国連の気候変動政府間パネル(IPCC)は、気候変動が深刻化していると最新レポートで警告しています。ただ気候変動の将来的な方向性を決定づけているのが人間の活動であることに変わりはないとも述べており、これは希望がまだあることを示しています。
サステナブル・リカバリーを実現するためのまたとないチャンスはまだ残っています。今こそ、言葉を行動に移すときなのです。
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